第2話 サイエンスバー
「今、あんたと俺が一緒に連れだって動くのはまずい。別々に動いて、二時間後に落ち合おう」
「ああ、分かった」
「三宮のポータル”金の天使の看板”は分かるな。あれを掲げている雑居ビルの一階の奥まったところにサイエンスバーというバーがある。そこに来て、マッカランの725年を注文して待っていてくれ」
「マッカランの725年か。ふふん、お前もなかなか用心深いな」
火が姿を消してから、10分待ち、vahohoは山を降り、三宮に向った。
火の指定した雑居ビルに入り、通路を進むとサイエンスバーと書かれた重厚な扉を視界が捉えた。扉には、”CLOSED”の立札が掛かっていたが、気にせず扉を開き入店する。
狭い店内では、カウンターで初老のバーテンダーがグラスを磨きながら
「申し訳ございません。閉店しております。またのご来店をお待ちしております」
と慇懃につたえた。
「すまないが一杯だけ頼む。マッカランの725年を」
vahohoの言葉を聞いたバーテンダーは、グラスをしまい、ゆっくりとカウンターから出て入り口の扉を施錠し、壁の一部を操作した。バーテンダーが操作した壁が開き、そこから大量の水の音がする。
暫く待つと、壁に四角く空いた穴から、火が顔を覗かせた。その顔を見つめ、vahohoが問いかける。
「ここは、三宮大空洞に繋がっているのか? 」
「そうだよ。だが、安心しろ。外からは入り口をカモフラージュしているから、ここの存在は奴等も把握していない」
「それは、そうだろうな。大小の通路が無数に入り乱れる大空洞の中の入り口をカモフラージュすれば誰も気付かんだろう」
言葉を交わしながら、壁の穴から這い出た火は右端のバーカウンターに腰かけ、vahohoに顎をしゃくり隣に座るように促した。パイプに火をつけ、ふうわりと紫煙をたゆらせ、バーテンダーとvahoho交互に言葉を投げかける。
「教授、俺はいつものだ。vahohoあんたはどうする。一通りの酒は揃っているが」
vahohoは火の左隣に腰かけながら、答えた。
「ターキーの13年だ」
教授と呼ばれたバーテンダーが、二人の前に分厚いグラムを差し出し、火に視線を向ける。火が目で答えると、頷き、カウンターの奥に姿を消した。
「あのバーテンダー、どこかで見た記憶がある」
「ああ、彼は、一躍時の人になった理研の教授だ」
「そうか! アダム細胞の。あの騒動で職を辞したか。。」
「そうだ。俺とは、表の職でつてがあってな。今は色々と手伝ってもらっている」
「先刻の勅が出る前の合議で、アダムの事を出したのは、それと関係しているのか? 」
「うむ。もっとも、あの時言ったアダムのことを故意に報告していない者とは、俺自身の事だがな」
「やはりそうか。そして、その理由は、俺をここに呼んだことと関係しているな」
vahohoの言葉を受け、パイプの煙をゆっくり吐き出しながら火が頷いた。
炎風吹きすさぶ外伝・鉄壁と獄炎 dobby boy @dobby_boy
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