06 オールド・アイアンサイド
「敵接近! 旗印から、プリンス・ルパート!
……一六四四年七月二日、イングランド、ヨーク郊外、マーストン・ムーア。
ヨークを包囲していた
ヨークを救ったルパートであったが、彼はそれに飽き足りず、今こそが
そしてマーストン・ムーアという地で追いつき、ルパートは叫んだ。
「兵数はわれら
この、生まれついての名将は、抜け目なく高みに位置し、
*
対するや、
「機を待て」
スコットランドの
すでに日は傾きつつあり、そして雨も降り出していた。
「なるほど。プリンス・ルパートが地の利を取るならば、われらは天の時、というわけですな……リーヴェン伯」
「
「何なりと」
「われらスコットランド勢は遠くから来た。疲労もある。そこで……」
アレクサンダーのささやきに、クロムウェルはうなずき、そして自陣へ戻った。
*
「突撃せよ!」
日が沈み、暗さが増した時、それは起こった。
スコットランド
「あわてることはない。スコットランドの連中は遠征で疲れている。しのげば勝てる」
ルパートの冷静な指示により、バイロン男爵はじっと耐えしのぎ、そして
「プリンス・ルパートの言ったとおりだ! このいくさ、勝てるぞ!」
バイロン男爵はよくやった。
だが。
「いけない! 誰かある! バイロン男爵に下がるように……」
ルパートは
しかし、あっさり過ぎる。
三十年戦争の英雄にしては、粘りが足りない。
まさか。
「
クロムウェルが、おのれの鍛え上げた連隊を率い、バイロン男爵の軍のどてっ腹に、横合いから一撃をくれた。
彼は、事前にアレクサンダーからこの機を狙うように指示されていたのだ。
だがクロムウェルは、その指示どおりに動いた結果――
「一撃で……撃滅だと!?」
プリンス・ルパートはうめいた。
何かの罠をと思ったが、これでは話がちがう。
バイロン男爵の軍に、多少の動揺はあるだろうと思っていたが、まさか一撃で撃滅とは。
そうこうするうちにも、バイロン男爵が敗兵を糾合して、体勢を立て直そうとするのが見える。
そこをクロムウェルが、さらなる攻撃を加える。
「……させるか!」
ルパートは、ここが勝負時だと思った。
このままバイロン男爵が潰されては、
逆に、あのクロムウェルの連隊をたたき潰してしまえば。
「つまりはあの
ルパートの決断は早くそしてすさまじく、彼は全軍を
「
この怒濤の攻撃に、だがクロムウェルの連隊は耐えた。
そこを
「神への感謝を!」
「……この、狂信者どもが!」
クロムウェルは手傷を負ったが、ついにルパートの軍を撃破する。
この勢いにより、ルパートは落馬してしまう。
「捕らえよ! プリンス・ルパートを押さえれば、
クロムウェルの連隊の一人が、馬を駆ってルパートに接近する。
そこへ。
「……ボーイ!」
白い
ルパートの愛犬、ボーイ。
ボーイは、戦いから離れたところに縄でつながれていたが、主人の危急を悟ったのか、縄を噛み切って、駆けつけたのだ。
「……くっ、この犬!」
「……やめろ、ボーイ!」
ボーイはルパートに近づいた騎兵の馬の脚に噛みついた。
馬はたまらず暴れる。
ボーイを残った脚で、滅多打ちにする。
その隙にルパートは馬にまたがったが、ボーイは噛みついたままだ。
ボーイと目が合い、ルパートはその心を知った。
「……すまない!」
ルパートは逃げ、それに満足したのか、ボーイは馬に噛みついたまま、目を閉じた。
その様子を見ていたクロムウェルは、追撃をやめさせた。
「その犬は
それに、ルパートは退けたものの、残りの
クロムウェルは天を仰いだ。
夕暮れから始まった戦闘は、今や、宵闇の中。
夜はまだまだ終わらない。戦いも。
だが。
「その夜の終わりまで何マイルあろうとも、駆け抜けるのみ!」
その後、クロムウェルは
……ここに、マーストン・ムーアの戦いは
こうして
そしてその輝きは、「王の支配」という夜を終わらせ、彼をして、
【了】
夜の終わりまで何マイル? ~ラウンド・ヘッズとキャヴァリアーズ、その戦い~ 四谷軒 @gyro
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