2「前日」

大地ほのかが産まれた土地は、田舎だ。

田舎でも、国道は通り、家も沢山建っている。

田舎と都会の間という表現が正しい。


花山は、そこまで来ると、小さい頃は、祖父祖母に会いに来ていたから懐かしい。

今、この地に、ほのかはいない。

結婚した花山えんのいる所に引っ越したからだ。


炎とほのかは、見合い結婚であり、お互いに一目ぼれをした。

結婚式を挙げて、五年後に連が産まれている。

そして、今でも、仲の良い夫婦で、今回の旅行も二人で行くのだろう。


思い出に浸っていると、山内は一つの端末を花山に渡した。

端末は、手のひらサイズの機械であった。

花山は見たことがある。


「ポケットベルです。私からの連絡もこちらの機械で行います。」

「ってことは、その時代なんだな。はー、このスマートフォンは役に立たないか。」

「入力を覚えないと大変だと思いますので、こちらの表をお持ちください。」


表を見ると、急に面倒になってきた。


「11」と打って「あ」が入力される変換表だ。


花山は、色々な暗号を解いて来たし、勉強をしてきたが、ポケットベルは知識だけで、実際に扱っていないから、少し面倒だと思い始めた。


この時代、1990年位で、丁度、ノストラダムスの大予言が話しの中で話題になっていた。

後、九年後に世界は滅ぶとなると、今、何をしたいとか、最後の日には何を食べたいとか、話題になると、考えていた。

実際には、何も起こらず、平穏に暮らしていたが、もしかしたら、山内の組織が内緒で動いて回避をしてくれていたのかもしれない。

山内に訊けばいいのだが、答えてくれそうになかったのでやめた。

それに、知った所で何も使えない。


思いながら、ポケットベルと表を受け取り、山内を見る。

今の山内は、花山にとっては、好みといえば好みの顔立ちをしていている。

顔を見られていると思った山内は。


「私に何か?」

「いえ。」

「そうですか。続けますが、今回のタイムマシンを使って過去に行く時には、花山連さんは、高校生の身体へと変化をしています。目的の人と同じ年齢になります。」

「は?っていうと。高校生の姿になり、お袋が通っている高校に侵入して、探れと。」

「はい。その手続きもしておきましたので、違和感はありませんよ。頭脳は今のままですので、ご安心を。住まいは、大地ほのかさんが住んでいる家の前にあるアパートにしてあります。登校する時に、偶然同じになって、一緒に登校も出来ますよ。好都合かと思って、そういう設定にしました。」

「設定便利にありがとよ。ん、っていうことは、山内さんも、未来から来て、俺と同じ年齢って事は、元の姿は結構老けて。」

「それは言わないで下さい。」


山内は、両手で顔を隠した。

その仕草も、花山は何か好みであった。


少しだけ指の間から、花山を見ると、何か見られている。

でも、これも仕事だと割り切り、手を顔から外して、話しをする。


「きっと、大地ほのかさんもポケットベルを持っています。同級生なら、番号を入手するのも簡単かと。」

「確かに、老けたおっさんが女子高生に「ポケベルの番号教えて」と来たら、通報されるからな。」

「そうでしょ?」

「なら、高校生活を楽しみながら、お袋を調査するよ。」

「お願いします。」


花山は、自分が住むであろうアパートの住所にきていたが、アパートは無かった。

この辺りは区画整理で、大地家もなくなっていて、更地になっていた。

ここには、大きな施設を立てる予定だそうだ。


「で、タイムマシンは、どんな風に発動させる?」

「その通り、飛ぶのです。タイムマシンは、飛ぶと表現しますよね。」

「なんだか、動画とかで飛んで、違う所に来る編集方法にみたいだな。」

「感覚的には、そんな風だと思ってください。でも、このタイムマシンは、編集ではなく、本当に飛ぶので、着地には気を付けてください。結構、重みと厚みがありますから、怪我をしないように。」

「山内さんは、怪我をしたと。」

「捻挫程度でしたけれどね。って、私の事はいいのです。」


花山と山内は、そんな他愛ない話をしながら、底を開けて、年数と月日をセットしていた。

一度、山内にセットした年数と日付を確認してもらい、了解されるとタイムマシンを履いて、登山用のリュックを背負い、山内に顔を向けた。


「花山ほのかを、頼む。」

「はい。大地ほのかさんを頼みます。」


山内は、花山から離れた。

花山は、本当に飛んでいけるのか、内心ドキドキであった。

そして、飛んだ。






地面についた瞬間。


花山の前には、今までなかった家があった。

家の表札には、大地とあり、その向かえにはアパートがあった。

この光景を現実にする為に、花山は息を一つ吐くと、早速ポケットベルが鳴った。

見ると、数字が書いてある。


「303」


ポケットベルは、短い文で伝えるから、この数字が何を示しているかを推理する。

花山は、アパートの番号だと思い、行くと、303号室のノブには鍵が刺さっていた。

中に入ると、玄関があり、玄関に設置してある靴箱の上には、契約書があった。

契約書を見ると、この部屋を借りているのは、花山連であった。

保証人は山内七海になっていた。


「なるほど、まだ学生だから、山内さんが保護者な訳だ。」


その誓約書の近くには、固定電話があった。


玄関のノブから鍵を引き抜き、中に入る。

中は、一人で住むにはとても広かった。


玄関を入ると、十二畳ある部屋があった。

そこに、台所と居間がセットで置かれている。

タイムマシンを脱いで、早速、部屋へと上がった。


部屋には、ブラウン管のテレビがあり、リモコンも大きかった。

テレビ台の下にはビデオデッキと、カセットを入れて出来るゲーム機があった。

学生がする会話の一つであるアニメやドラマ、ゲームは必要と判断したのだろう。

カセットも数点かあった。

タイトルを見ると、見たことがある題名で、有名なのを揃えたと思う。


冷蔵庫を見ると、下に冷蔵があり、冷蔵の一番下に野菜を入れる引き出しが付いていて、冷凍庫は、上にあるが、氷は四角い容器に水を入れて凍らせるタイプだ。

勝手に氷は出来ない。


トイレとバスは、別の部屋なのがありがたい。


それと、学生机があり、机の本立てには教科書とノートがあった。

引き出しを見ると、シャープペンや消しゴムなどの文房具は一通り揃っており、机の上に茶封筒が置いてあった。

みると、中には、三十万程入っていた。

学生でいうと、千円でも大金なのに、三十万は行き過ぎだろう。

しかし、生活をしていくのを考えると、これくらいはあっても不思議ではない。


ベッドもあり、布団も用意されていた。

布団の上には、制服とローファーが置かれていた。

そういえば、姿は学生になっているのだろうかと思い、部屋に置かれた姿鏡に自分を映して見ると、本当に学生の頃になっていた。


肌もつるつるで、手足も筋肉がそこそこ付いている。

背は低くなっているが、体力が有り余っている感じがして、軽い。

前髪が降りているのが、とても鬱陶しかったが、学生らしく短かったから、視界は確保された。


「さて、拠点を作りますか。」


リュックを下ろして、中を出す。

学生机にノートパソコンが置かれ、コンセントを見た。

流石にコンセントは、変わっていなくて、そのまま使える。


今日は、山内が用意した資料を読むのに専念をしようとしたが、冷蔵庫を確認した時には、何も入っていなかった。

読む前に、必要な物を買いに出かけた。


この辺りを歩くのは、子供の頃以来だから、懐かしい。

近くにスーパーがあったのを、記憶しているから、そこへ向かう。

必要な物を買って帰る。


簡単に食べる物を作る。

探偵事務所では、IHクッキングヒーターを使っていたが、この時代はなくガスだ。

一応、電池を一通り買って置いてよかった。

単一電池をガスにつけないと、使えない。


学習机に備え付けられている椅子に座る。

新聞を見ると、あの地震を始めに一週間は続いており、被害も出ていた。

旅行にいくと言っていたが、そっち方面でも心配になった。


よく未来が分かってお金を儲ける展開があるが、花山には興味がなかった。

だから、中でも気になった情報だけを読んだ。

その時にふと目についたのは、何かの研究所の設立だった。

小さくだが、どの日付にも書いてあった。


ファイルを開くと、山内が所属している組織の内容が書いてあった。

山内の説明通りであり、人口が一気に減る事態を回避する組織と認識した。


次に茶封筒である。

茶封筒を開けると、そこには、膨大な研究資料があった。

タイトルは「過去の怪我について」の研究資料。


読み進めていくと、とても人間が行っていい研究ではなかった。

それを母が巻き込まれ、良いようにされる。

とても許せない。

未来では、この研究が進められるのか。


しかも、その研究を進めている人物が、今、この時代にいて、母と接触をしている。

母を守らなくてはならない。


明日から学校へ潜入するから、着る制服を見ると、ポケットには生徒手帳が入っていた。

一年一組 花山連。

生徒手帳に挟まっている紙を見ると、四月のスケジュールがあった。

そこに書かれていたのは、明日の入学式から一週間、赤線が引かれていた。

その間に調査を完了させろというのだろう。


制服は、紺色をしていて、ネクタイが赤だった。

カッターシャツは白であった。


明日の準備をし、学校の場所も確認して、今日は寝た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る