母を救う為に俺は飛ぶ

森林木 桜樹

1「依頼」

花山探偵事務所を立ち上げた花山連かざんれんは、今年、四十歳だ。

身長が百八十センチで、髪はオールバックにしている。

灰色のスーツに白のカッターシャツ、スーツと同じ色のネクタイをして、今日の相談者を待っていた。


花山探偵事務所は、この度、十五周年を迎えている。

色々と仕事をこなしてきたが、今度の仕事内容は直接話しをしたいだった。

普段は、メールで仕事依頼内容を受け付けている。


壁についている時計を見ると、午前九時五十五分で、後五分で約束の時間だ。

もう少しで依頼人が来る。

IHクッキングヒーターを使い、お茶を出せる用意をして、待っていた。


コンコン


扉を叩かれる。

この探偵事務所は、チャイムが無かったから、扉を叩くしかなかった。

扉を叩く音に反応して、開く。


「花山探偵事務所の花山連です。今日のご依頼の。」

「はい、山内七海やまうちななみです。メールでお知らせした通り、話しをしにきました。」


山内は、身長百六十センチ、腰まである髪を後ろで琥珀色のバレッタで留めて、白いスーツに黒のシャツを着ていた。

ストッキングも黒だが短い白の靴下を履いて、動きやすいように靴は白のスニーカーだ。

しかし、スニーカーにしては、ゴツイ作りをしていて、底が厚く、スキー靴を想像させられる。

大き目の旅行に行くキャリーバックを持っていた。


花山は、山内に中に入るのを進め、椅子に座って待ってもらう。

お茶を淹れて、山内に出すと、山内は丁寧な作法で飲んだ。


「早速ですが、花山連さんのお母様に危機が来ています。」

「は?」


山内は、持ってきたキャリーバックの中から、大量の資料を出す。

見ると、新聞が一週間分と、茶色の封筒に入った資料、それと、ファイルがあった。


「信じられないかもしれませんが、私は、未来からきました。」

「え?未来?」

「はい。そして、貴方のお母様が利用されて、この世界を滅ぼそうとしています。」

「それを、俺に信じろと。」

「信じてもらわないといけません。今の時刻、午前十時十分ですが、後、二分で地震が来ます。縦揺れで震度五です。揺れは、一分ほどで収まります。」

「え?」


すると、丁度二分後に地震が来た。

そして、山内の言う通り一分ほどで収まった。

頭を低くして、両手を使い、揺れが収まるのを待っていた、花山は山内を見た。


「本当に未来人なのか?」

「ここに置いた新聞、今日から一週間に発売されるものです。かき集めるの苦労しました。」


新聞の日付を見ると、確かに一週間分の新聞である。

一面だけでも見るが、地震の情報が目立って載っていた。


「それと、お母様が関わっている資料を渡しておきます。ファイルは私の所属している機関についてです。この一週間、猶予を与えます。資料を良く読んで、返事をこちらに下さい。」


名刺を置いておく。

名刺には、山内七海の名前と、メールアドレスだけ書いてあった。


「この件は、お急ぎなんですか?」


花山は聞くと、山内は。


「はい、本当なら一週間も待てない位です。でも、この資料を読むのと、信用して貰うには一週間と見積もりました。」

「だったら、今からでもいい。」

「いいのですか?」

「本当に、俺の母が利用されようとしているなら、止めなくては。」


すると、簡単に山内は説明した。


「まず、こちらの組織についてです。私の所属している組織は、過去、現在、未来を平和にする活動を行っています。それにより、タイムマシンで色々な所へ飛んで、原因を追究して、放って置けない件に関しては、関与する形です。今回の事件は、人口が大きく変動する事態で放って置けないのですが、私達が関与するにはデメリットしかないのです。そこで、身内である貴方に助けを求めました。」

「なるほど、それで、俺はどうすれば?」

「過去に戻って、貴方の母親、ほのか、旧姓、大地だいちほのかに接触した人物を調査してほしい。その中に、ほのかさんを利用しようしている人がいます。私達は、その人をタイムマシンを使い、色々と飛んで探しているのですが、見つからないのです。」

「今の時代では駄目なのか?」

「この時代では駄目です。なぜなら、今のこの現実では、ほのかさんは覚醒していませんので、説明した所で信じてはくれませんし、我々が接触したのを知られると、ほのかさん自身が命を狙われます。」


説明をした後、山内は少しだけ切ない顔をした。

その顔を見た後、花山は、一本、電話をした。

母親にだ。


「あっ、お袋?」

『どうしたの?急に。』

「別に、元気かと連絡しただけだよ。その声だと、元気そうだね。」

『元気だよ。明日から、旅行に行こうと思っていてね。今度は、植物園に出かけるよ。鳥と一緒の植物園でね。結構楽しみよ。』

「そうか、気を付けてな。」

『そっちこそ、探偵なんて職業、恨まれることもあるかもしれないけど、気を付けてね。』

「じゃ、少し先になるけど、また連絡する。」

『はいはい。』


電話を切る前に、受話器を二回叩くと、母親も二回叩く。

そして、通話を切断した。

昔から、受話器を切断する時には、二回叩くのが決まりとなっていた。

理由を聞いた時の母は、頬を少し赤く染め、遠い何かを見ていた。


「確認取れた。今のお袋には、何もないみたいだ。」

「いきなり連絡するから、驚いたわ。」

「相談してからでは、拒否されるかと思ってな。お袋は、いつも通りだった。今回旅行するっていっていたが、行き先はきっとここだ。」


ネットで検索して出した場所を、山内に見せる。


「どうして、この場所を私に?」

「俺は、過去に飛んで、その人物を探る。だが、山内さんには、この現在のお袋を守って貰いたいんだ。きっと、今、お袋には監視が付いている。勿論、お袋が知らないがな。」

「なんで分かるのですか?」

「電話から、微かに雑音が聞こえた。盗聴されていると思う。」


花山の行動に、山内は驚いていた。


「流石、探偵ですね。」

「基本だ。さて、この資料は、過去に持っていけるんだな?」

「はい。過去の住まいや生活に必要な道具、金銭、全て、こちらの組織で出します。戸籍も一応は作っておきます。それと、こちらの。」


キャリーバックから、靴を出した。

それは、山内が履いているのと同じであった。


「こちらがタイムマシンです。底が開いて、中に行きたい年と月日が入力出来ます。少し難点なのは、行きたい土地は入力出来なく、現実世界で行きたい土地へ行き、飛びます。行った先で土地に移動をしようとしますと、過去でしたら交通手段がなかったりしますし、未来ですとハイテク過ぎて迷うと思います。ですので、行きたい土地に行くには、現実で目的の場所に行ってからだと、便利です。」

「なるほど。」


そんな風に話しをしている間に、花山は、考えられる分の荷物を自分が持っているバックへと詰めた。

登山が好きだから、登山用の大きなバックがあり、それに山内が持ってきた資料に、自分が愛用している電子機器を入れた。

過去で、これらの電子機器が使えるのか、分からないが、ネット回線が使えなくても記録を残す位は出来るだろう。


「それでは、山内さん。お袋が住んでいた土地へと向かいますか。」

「はい。」


花山は、花山探偵事務所の鍵をかけて、出掛けた。

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