3「4/8」
起きた時、とてもすっきりと起きれていた。
というもの、この頃、年の所為か、起きる時には疲れが溜まっていて、直ぐには起きられなかった。
しかし、この学生の身体は、とても軽く、少し寝ただけでも回復も早い。
今からでもマラソン出来そうな位だ。
朝食を軽く摂ろうとするのだが、いくら食べても足りない。
定期検査の時には、胃に異常はないが、食べる量が減って来ていた。
だが、この身体はとっても食べ物を欲している。
この一週間を計算して購入して来た材料が、あっという間に無くなりそうだと認識した。
この分では、もう一度、買い物に出かけなくてはいけない。
監視をしている時には、予め、一週間分の食料を用意して実行するのだが、この分だと三日で終わってしまう。
学生の身体は、底なしかと思った。
今日は、入学式だけだ。
学校帰りに、スーパーに寄って、追加の食料を買い足そうと思いながら、制服に着替える。
制服は、とても地味であったが、姿形は合っていても、気持ち的には四十過ぎのおじさんが学生の制服を着ていると思い、恥ずかしさはあった。
でも、潜入捜査と思い、どこもおかしな所はないのかと、姿鏡の前で左右に身体をネジって動かして見ると、自分でない男子学生を見ている風で、とても楽しかった。
必要な物を持って、アパートを出る。
大地の家を見ると、本当に懐かしい。
小さい頃の記憶だが、玄関を入ると、見えるのが廊下と階段。
左右と奥には、部屋が一つあり、階段下が掃除道具の収納になっている。
奥は台所。
右が客間で、左がお風呂とトイレ、洗面所だ。
二階に上がると、突き当りに一つと、左に二つ、部屋があった。
全ての部屋は、和風であり、トイレと台所に通じている勝手口以外は、横開きの構造だ。
それを思い出すと、ほのか部屋はどこかと思ったが、記憶を探ると、ほのかの部屋はアパート側の一室であり、二階の左側奥だと思い出した。
そう、この家に遊びに来た時に、ほのか……母が教えてくれた。
「この部屋が、私の部屋だったんだよ。」
「へー。ここがお母さんの部屋だったんだ。なんだか、お母さんの香りがする。」
「そう?」
「うん。」
その会話を思い出して、恥ずかしくなった。
振り払う様に、頭を振り、学校へと向かった。
入学式は、とても退屈だったが、大地ほのかを目で追っていた。
一目で大地ほのかを見つけられた。
少し老けている程度で、顔立ちは知っていて同じである。
高校生の母を見ると、かわいい。
身長も自分と変わらず、髪もサラサラしているし、スタイルも良かった。
中学からの持ち上がりなのか、女の友達と話をしている。
制服は、男子と同じ色とカッターシャツだが、スカートはプリーツスカートである。
靴下がゆったりしているので、確か、ルーズソックスと言われるものだ。
他の女子も、変わらない服装をしている。
会話内容を少しだけ聞くと、プリント倶楽部の話をしていた。
「今度、どんなポーズで撮ろう」「新型が出た」「リップしていく」などの会話をしていて、背伸びをしたい年頃の女子高校生がする会話は、とてもかわいかった。
自分のクラスに入り、席に着くと、担任の先生が入ってきた。
先生は、あいさつをした後、窓際一番前の席から自己紹介になった。
並びは、出席番号順に並んでおり、この時代は男子と女子は分けていたから、隣の席は大抵同じ苗字になる事もあった。
順番に、名前と趣味を話す。
自分の番になって、名前と趣味を話した。
「花山連です。趣味は登山。よろしくお願いします。」
拍手があった後、大地の番になるまで、待った。
大地の番になり。
「大地ほのかです。趣味は占いです。よろしくお願いします。」
占いと聞いて、意外だった。
母親からは、占いの雰囲気がなかったからだ。
普段の母は、掃除が好きな人で、部屋の隅々まで綺麗にする人だ。
そういえば、テレビでやっている占いコーナーが始まると、違う番組に代えるか、電源を消していた。
占いが嫌いなのかと思ったが、今のほのかを見ると、何か違う理由があると感じた。
自己紹介が終わり、オリエンテーションが始まった。
学校の授業は、教科書通りに行われる。
ペースは教師によるが、一般的には一章ごとに進むだろう。
この学校の教科書は、認定書店で購入する方式で、学校では用意されない。
だから、教科書が予め、部屋に用意されていたのか。
今日は、午前までであり、午前十一時になったら、下校となった。
入学式であり、親と一緒に帰る人もいたが、花山は一人であった。
当然、親も来ないっていうか、親はいるから別に寂しくない。
大地はというと、もう両親は帰っていて一人だ。
すると、大地に話しかける男子がいた。
近くに寄り話を聞く。
「明日から授業だよね。」
「そうね。好きな数学が一番最初からあるのは、嬉しいわ。」
「俺は、歴史が好きだな。」
「相変わらずね。遠藤君。」
『遠藤・歴史』と単語毎に覚える。
「そうだ。占いしてあげようか?」
「でも、大地さんの占いって。」
「ええ。」
「痛いの嫌だから、止めて置くよ。」
遠藤は、大地から離れた。
一人になると、大地は家に帰る行動をした。
花山は、探偵で鍛えた尾行を生かして、大地の後を追う。
家に帰ったのを確認すると、しばらく様子を見てから、自分のアパートに着いた。
登山リュックの中から、小型の望遠鏡を出して、大地の家を見る。
すると、大地は部屋にいた。
部屋はカーテンが閉められていなくて、とても監視しやすい。
少ししか見えないが、大地の部屋は可愛い物であふれている部屋だ。
窓際に置いてある猫と熊のぬいぐるみ、花瓶に生けてある花も見える。
早速、パソコンのエクセルを使い、誰と接触したか。
何時にどんな行動をしたか。
情報を記載していった。
「しかし、家から出かけないんだな。」
ならば、やることがあり、盗聴器を仕掛けたいが、この時代は難しい。
理由は一つ。
家を女性が守り、仕事を男性がする世の中であるからだ。
段々と女性も仕事を持つ世の中になりつつあるとはいえ、まだ、世間がその岐路まで到達していない。
だから、いつも家には人がいる。
買い物に出かける時は、子供が帰って来てから行く人が多く、家が空になる瞬間が少ない。
だったら、ぬいぐるみに仕掛けて、プレゼントだが、男子高生が女子高生にプレゼントをすれば、周りからからかわれる。
一週間しかない期間に、どうやって情報を仕入れるか。
すると、ポケットベルが鳴る。
「6663673264」
その言葉を見ると、安心した。
そう「母無事」である。
山内は、ちゃんと仕事をしてくれている。
だから、自分も仕事をしなくては、と思い、相手を知るには話しをしていく。
明日からは、話しをしようと思った。
家から出る様子がなかったから、早速、買い足しに行き、その後は、監視を続けた。
そして、大地の部屋が暗くなると、寝たと思い、自分も寝た。
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