6「4/11」

今日は、学校が午前中だけだった。

だから、お弁当は必要なかった。

水筒だけは持って、学校へ行く。


今日の学校行事は、体力測定と健康診断である。

水筒は持っていかないと、体力測定で熱中症になりかねない。

この時代は、日射病とか言ったかな。

水分補給をしていいと言われていたが、これよりも昔に飛んでいたら、水分補給はしてはいけないと言われているかもしれない。


それに調べて見ると、土曜日が休日にしようっていう取り組みは、来年あたりから実施される。

教育が、スパルタから詰め込みになり、ゆとりと繋がる時代の境界線にある時代だと感じた。


この時代に生きた母と同じ感覚を味わっているのが、とても不思議だが、嬉しい。

「一層、この時代で、花山連として、一人の男性として生きて行ってもいいな」って、ふと思ったりもするが、ここには仕事に来ている。

仕事内容に母が関わっているだけで、自分の意思でここに来ているわけではない。


そう、仕事で来ているだけだ。

思いこまなければ、とてもじゃないが、精神が保てなかった。


この時代は、花山にとっては生きやすい。

探偵をやっている時代は、監視カメラ、個人情報が詰まっている携帯電話、ネットに色々と情報が飛び交い、どれが本当で偽物か分からない。

それらが表立ってなく、とても解放感があった。


それに、この時代に来てから思った事だが




「もしかして、俺は、マザコンなのか。」




ほのかを母として見ていると、そんなに感じなかったが、ほのかをほのかと個人で見ると、かわいいのである。

もしも、この時代に一人の男としていたら、きっと、ほのかに惚れていただろう。


探偵としての仕事をしていると、色々と見たくない事件にも遭遇する。

だから、息抜きが欲しかったもの、気づかされた。


そんな事を思いながら、アパートの扉に鍵を掛けて、三階から一階に降りて、アパートを出ると、今日は、大地とは会わなかった。


母の事を考えていたから、少しがっかりしている。





学校へ着くと、もう、大地はいた。

女子と話をしている。

とても楽しく話をして、笑顔がとてもかわいい。


『お袋は、笑うとこんなにかわいいんだな。』


思えば、真面目な顔が多かった。


いつも忙しそうに家事をやり、自分が悪い事をすれば怒り、仕事の時間になれば、顔を見せずに出かけていく。

笑顔なんて、思い出すだけでも、少ししかなかった。

でも、旅行に行ける位余裕が持てている今は、笑顔になっているのだろうか?と、思っていた。


元の時代に戻ったら、一度、会いに行って笑顔にさせてあげたい。


そんな気持ちも芽生えて来た。


「また、大地さん見ている。」


山田と前田が声を掛ける。

そんなに見ていなかったが、母の事を考えていたからか、ボーと眺めていた。


「いや、別に。ただ、女の子って笑うとかわいいんだなって。」

「は?まあ、笑顔は可愛いけど。」

「怒ると怖いぞ。」


そんな会話をした。


その後は、がっつりと、体力測定と健康診断を受けた。

体力測定は、まわりが褒めてくれるくらいの成績を残して、健康診断は元気いっぱいの結果だ。


早目に終わったけれど、大地がまだ、体力測定をしていた。

帰ってよかったが、大地を尾行しなければならないから、残っていた。

山田と前田は、また、大地をみているとからかってきたが、素直に。


「大地さん、かわいいからな。」


一言、つぶやくと、からかいが応援に変わった。


「大地さんは、競争力激しいから、がんばれ。」

「当たって砕けてこい。」


とても、頼もしかったが、相手は母親だ。

そんな気はなかった。


しかし、こう見ると、母も、結構動けるんだな。

聞こえてくる数値は、とても良かった。


大地は、最初に健康診断をしていたから、体力測定が終わり、帰る準備をしていた。

花山も大地を尾行する用意をする。

今日も、大地を尾行すると、大地は家に入るが、直ぐに出て来て、誰かを待っている様だ。


「誰を待っているんだ?……、俺か?」


本当に、花山を待っているのかを思って、尾行はやめて普通に下校する恰好になった。

すると、答えは合っていた。


「花山君。今日、時間なんだけど。」

「占いしてくれるんだったね。」

「正午になっていたけど、もう、後五分で正午なんだよね。お昼ご飯食べてからでいい?」

「ああ、そうだね。それでいいよ。家でやるんだよね?」

「それも思ったけど、一人暮らしの男の家って行っていいの?」

「あー、同級生だし、いいんじゃない。もちろん、占いし終わったら帰っていいし、扉も鍵かけないから、怪しいと思ったら逃げてもいいよ。でも、俺は大地さんだけには何も出来ないよ。」

「それってどういう。」


大地は、花山の顔を見た。

とても愛おしくても、寂しく、とても懐かしい思い出を繰り返して見ているような顔をしていた。

それ以上、踏み込めない顔だ。


「わかったわ。なら一時に行くわ。このアパートなんだよね?何号室?」

「303だよ。」





一時になり、チャイムが鳴らされた。


花山は、この一時間の間に、新聞と茶封筒に入っていた資料にファイル、ノートパソコンを登山用のリュックに入れた。

いかにも学生の一人暮らしと言わんばかりに、制服を出しっぱなしにして、初日の買い物で買った服を着た。

ゲームで遊んでいましたって感じを見せて、テレビの周りは少しだけ雑にした。


「いらっしゃい。」

「お邪魔します。へー、結構、綺麗にしてあるのね?」

「引っ越してきたばかりだからね。」


すると、ゲームが出しっぱなしになっているのを見る。


「一人暮らしになって、ゲームばかりやっているの?」

「まあ、自由な時間が増えたから。」

「宿題はまだ出てないけど、出たら大変ね。」

「そうだね。」


そんな話をしながら、お茶を出す。

出されたお茶を見ている大地。


「あっ、ジュースがよかった?」

「いいえ、お茶でいいよ。なんか、同級生が出すお茶ではない感じがして。なんていうんだろう。先生が家庭訪問に来た時に出すような。」

「ジュースに変えるよ。」

「いいよ。……、美味しい。」


一口飲んで、美味しかったらしい。

そのしぐさを見て、母だなって思った。





早速、占いをし始める準備をした。

机に白い布を敷いて、中央に黒の皿を置く。

皿の上にリトマス試験紙を思い出させる細長い紙を置いて、針を消毒した後、置いた。


針を持て、自分の指を刺して、血が出たら、紙に母印を押す様にする。

血の形から、占う。


花山は、言う通りにする。


占いをし始めた。

高校生がやる占いだから、そんなに期待していなかった。

占いをしている時の顔は、とても真剣だったが、その顔も見たことがなく、自分はどれ位、母を見て来てなかったのだろうと反省した。


もしかしたら、母のそばにずっとついて、家事も手伝っていたら、知っている顔が多くあったのかもしれない。


「結果出たよ。あなたは、後悔している事があります。それを解消するには、お菓子がいいでしょう。」


一通り説明をすると、スッキリした顔をさせていた。

占えたから、嬉しかったのか。


「へー、参考に考えて置くよ。」

「そうして。」


すると、占いで使った道具を白いシーツのまま包んだ。


「占いで使った道具、そんな乱暴にしていいの?」

「これは、占った相手に邪気が入らない様にしているの。私の部屋なら、結界が張ってあるから、そこでなら開封出来るわ。」

「そうなんだ。」


今日の健康診断と体力測定の話しをして、大地は帰ろうとした。


「ちょっと待って。」


大地を引き留めて、一つの包みと紙を渡す。

受け取る大地。


「これ、何?」

「紙は、ポケベルの定型文。包みは、俺の手作り、クッキー。」

「は?」

「今度、クラスメイトに持っていこうと思って、その試作品。良かったら食べて。」

「いいの?」

「占いのお礼。」

「でも、男子が作ったクッキーって。美味しいの?」

「あー、男女差別はしないでよ。いいから食べて見て。」


すると、大地は大切に胸に包んで。


「ありがとう。」


その顔が、もう、何とも言えない位、かわいい。

人気になっても不思議ではないが、この時代は恋愛をすると、周りが騒ぐからだろう。

付き合うにしても、内緒なんだろうなとは感じていた。


「どういたしまして。」


そして、大地は帰って行った。

少しだけ待ってから、忘れ物があったとかいって、取りにくる気配がないのを確認して、ノートパソコンを広げた。

ノートパソコンに、今日の結果を書き込むと、ポケットベルにメッセージが来た。


「6663673264」


花山は安心した。


しかし、この時代同士なら分かるのだが、時代を超えてメッセージなんて送れるんだろうか?と思った。

けど、ふと見えたタイムマシンを見ると、納得した。


「このタイムマシンが、通信の役割をしているのかもしれない。」


結論を出した。


花山は、監視を続ける為に、大地の部屋を見ると、大地が帰って来ていて、カーテンを閉めた所である。

監視が出来なくなった。


そういえば、結界がどうとか言っていたから、その準備か。


暫く眺めていると、カーテンが開いた。

その間、五分程度だったから、占い道具を片付けていたのかもしれない。


今日は、監視を続け、大地が眠ったら、自分も寝付いた。

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