024 彷徨④/渡鴉と薔薇
昔々、この地がレイヴンローズと呼ばれるより前の話。
この地は酷く荒れていた。作物は育たず、天災により数少ない資源を求めて人々は争いを続けていた。
その地に住むとある青年は生まれ育った故郷をなんとか救えないかと、恵みの神に助言を得ようと祈りを捧げた。
人々が争うことがないほどに豊富な資源を作り出すことができれば、全ての問題を解決できると考えたからである。
青年は祈りを何日も何日も続けたが、そう簡単に助言を得られるはずもなかった。
途方に暮れ、青年がいつものように祈りの時間から戻ると道中、翼を痛めた一羽の渡鴉を見つけた。翼から血を流し、じたばたともがくその渡鴉を青年は家に持ち帰り、傷を手当して手厚く看病した。
初めこそ強い警戒心を抱いた渡鴉は青年に威嚇したが、青年の献身さに心打たれたのか、次第に青年に懐くようになっていった。
やがて月日が流れ、渡鴉は傷が癒え、元気に空に羽ばたくようになった。
渡鴉が遠く西の空に羽ばたくのを見送った青年は、渡鴉と過ごした日々を懐かしみながらも故郷の未来のため祈りを続けた。
そんなある日、青年の前に再び渡鴉が現れた。その口には血のように真っ赤な薔薇を咥えていた。
これが渡鴉なりの恩返しなのだと青年は苦笑しながらも、渡鴉と初めて出会った場所に薔薇を植えて大切に育てることに決めた。
すると薔薇を植えたその日からその地に異変が起きるようになった。ほぼ毎月のようにあった風害も水害もピタリと無くなり、薔薇を植えたところを中心にして草木が生え緑豊かになっていった。
栄養豊かな作物が実り始め、人々は飢餓で苦しむことがなくなっていった。
人々は青年をこの地を豊かにした英雄と信じ、この地の長にした。
青年の傍らには渡鴉が飛び回っていた。
青年は渡鴉に問うた。なぜ傷が癒えたのに他の渡鴉と同じように他の地へ行かなかったのかと。
渡鴉が答えるはずもないと青年は苦笑したが、次の瞬間目を疑うような出来事が起きた。
渡鴉が濡羽色の髪を持つ人間の女性へとその身を変えたのである。
そして渡鴉は自分のことについて話し出した。
自分が恵みの神に仕える者であること。
下界の者の暮らしを監視する役割を神から仰せつかまつったこと。
心ない人間に石を投げられ、翼に傷が付き、羽ばたけなくなっていたところを青年に助けられたこと。
青年に助けられ共に過ごした日々の中で彼に情が移り、恩返しがしたいと考えたこと。
恵みの神に青年の土地を豊かにする方法はないかと聞いたこと。
恵みの神から、生命を司る赤い薔薇を与える代わりに、渡鴉が神に仕える立場を退くことを提案されたこと。
渡鴉は青年と彼の故郷を救いたいと思い、恵みの神の提案を受け入れたこと。
全てを聞いた青年は女性の姿となった渡鴉を抱きしめた。
青年は自分の全てを投げ打ってまで故郷を救った彼女の思いを受け入れた。
やがて二人は結ばれ、彼らと彼らの子孫がこの地を治めることで、長い平和と繁栄を享受することができた。
この地はその伝承から
[後書き]
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