第5話 体に馴染む





 初めて俺の家に招いて以降、高い頻度で逢瀬を重ねた。一週間に一度はほとんど必ず、下手したら三日おきに。

 俺と持留は体の相性がよかった。おそらく身体のパーツの大きさがしっくりくる。ボタンのくぼみにでっぱりがカチリと嵌まるように、抱き合っても、組み敷いてもよく馴染んだ。

 会う時は、大体俺が日付を指定する。持留は大学生だったから、夜の時間であれば概ねお互いに都合がついた。本屋でアルバイトをしているらしく、シフトに入っている時は難しいということで、事前に彼のスケジュールを把握していた。

 俺が自分から聞いたわけじゃない。奴が律儀に、勝手にシフト詳細を送ってきたのだ。

 俺が誘えばいつでも持留はノッた。逆に持留が俺を誘ってくる時は、断ることもままあった。俺には他のセフレやら友人やらとの予定もあったから。

 持留は多分暇人だ。そうでなきゃ、俺にここまで時間を割く意味が分からない。

 ああ、いや。まあ俺のことが好きなのかもしれないけれど。とかく献身的だった。



 クリスマスが過ぎた年の瀬、いつも通り俺の家で睦み合った。

「お前、唇かさかさじゃん。ちゃんと保湿しろ」

 玄関で、満足に挨拶もしないうちに、早速文句をつけて、靴を並べるのもそこそこに唇を交わした。

 持留は、俺のお古の洋服をおりこうさんに着ていた。短い立ち襟のくすんだ水色のシャツ。オーバーサイズ気味だったけれど、悪くはなかった。


 初めての時のような遠慮は回数を重ねるうちに消え失せて、部屋の明かりを灯したまま平気でした。持留は毎度毎度ちゃんと体毛の処理をして来た。どこを触っても引っかかりがなくて気持ちがいい。

 頭を枕につけて、尻だけ高くあげた格好をさせた。そして、後背位で彼に一物をつきたてる。尻の間にぐっさりと刺さっているのを見ると、あまりにもいい光景で顔が熱くなる。なんだか笑ってしまった。

 動くと、持留が呻く。無理やり上体ごと首を捻るようにしてこちらを見上げる。

「これ。深く入りすぎて苦しいです」

 切羽詰まった表情をしていた。観察しながら腰を動かし続ける。苦悶の声が漏れる。

 でも、もう少しだけ。

「我慢しろ」

 逃げようとする腰を捕まえて、引き寄せる。腰を打つように動かす。肉がぶつかる音と、持留のむずかる声が響いた。

「やだ、くるし……いたい」

 唇を噛み締めているのが見えて、心苦しくなる。痛がっているのを見るのは趣味ではない。俺はため息をついて、自身を引き抜いた。持留はあげていた腰をベッドに寝かせて、ころんと寝返りを打つ。

 謝罪を口にするのを無視して、上に乗るように促した。彼は俺の首に手を回して、素直に膝に乗り上げた。そして、これでいいですか、と言わんばかりに、眼前で首を傾けてにこっと笑ってみせる。

 よくない、そうじゃない。尻に入れて座れって意味だろ。普通に。こいつ、マセガキのくせになんでこういうの察せないんだ。対面座位ご存じない?

 心のなかで愚痴愚痴言ったのが伝わったのか、持留は笑顔を引っ込めて、俺にキスをした。

 それも正解じゃない、とバツをつけながら、甘んじて受け入れた。手持ち無沙汰な指先で胸の突起をこね回す。気持ちいいらしく、腰が揺れて甘い吐息がキスに混ざる。

 座ったまま、自分で挿れるようにと耳打ちすると、首まで火照らせて返事をして、そのとおりにした。

 下から突き上げるように揺さぶって、精を吐き出すまで続けた。

 終えた後の片付けも慣れたもので、俺の家のゴミ箱やら物の位置を覚えた持留は、ベッドの上に散乱するゴムやらティッシュやらを集めて捨てた。

 俺はベッドに寝転んで、それを見ていた。

 持留は戻ってきて、俺の隣に横たわる。長居は申し訳ない、などと話していた謙虚な姿勢は身を潜め、事後、ベッドでゆっくり過ごすようになっていた。それでいい。バタバタ帰られると俺も落ち着かない。

「大学どうなんだ」

 退屈しのぎに聞いた。

「まあまあ楽しいですよ。全然勉強してないけど……。同じ学科の人で、すごい明るい女の子がいてクラスの雰囲気がいいから、居心地いいです」

「ふーん、ちゃんと大学生なんだなあ、お前」

「なんだと思ってるんですか」

「めっちゃ喘ぐやつだと思ってる」

「それはベッドの上だけです」

 体を起こして、批難するように言った。目の端に照れが見える。

 ベッドの上か、バーにいるところしかほとんど見たことないんだから、そういう印象になるのも仕方ない。

「……大学で、すごいベタベタしてくる同級生の男がいて」

 持留がうつ伏せになって、組んだ手の上に顎を乗せて話し出す。寝物語。俺は足元に蹴った布団を手繰り寄せて、彼と共に被り体が冷えないようにした。

「ベタベタってどんな」

「肩組んできたり、つついてきたり。学科違うのにいっぱい話しかけてくれたり」

「へー」

「そんなだから、この人もしかしたらゲイなんじゃないかーって思ったんですけど、普通に女の子好きらしくて」

「ああ、ノンケってそういうとこあるよな」

 持留は同意を得られたことが嬉しいようで、キラキラ笑った。

「勘違いして、好きになっちゃいそうになりませんか」

「いや、それはない」

「ええー、そうかあ」

「ノンケ好きになるの、本当に無駄だからやめとけよ。向こうからしたら気持ち悪いだけだから」

「そっか……気持ち悪い」

 一転して、表情に悲しさが灯る。

「そいつのこと好きになっちゃってるわけ」

「いや、タイプじゃないからぎりぎり大丈夫でした」

「そうか」

 持留の恋心。目に見えないそれ。俺に向けられているんじゃないかとなんとなく思っていたが、そうではないようだった。つまらない。

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