祇園精舎の鐘の声には、沙羅双樹よりも桜の花がよく似合う。

二人だけに響き渡る鼓動は、望むべくもない永遠の愛を追悼する諸行無常の鐘の音。彼女達を包む桜の色は、時を越えて結ばれたいとの願いを拒絶する盛者必衰の理。それでも「わたし」は手放さない、桜と「あなた」の匂いを記憶の道しるべにして。
この小説を読んだあなたは、彼女たちをおごれる人だと笑うことが出来るだろうか。私には出来ない、たとえそれがただ春の夜の夢であったとしても。