正直、これを書いている今もまだこの作品を語ることに躊躇している。どんな言葉でさえこの感動を伝えるには足りず、どんな賛辞でさえ作者が創り出したこの美しい世界の前ではただの穢れになってしまうのではないか、そう想えてならないのだ。
きっと同じことを想った読者がいるはずだ。コメント欄に何かを書いては消した、そんな同志に石を投げつけられる覚悟で、それでも筆を取る。感じたままに、感じたことを。誰かではなく、自分のために。
此処にあるのは、生も死も何もかも曖昧に溶け込んだ夢幻の世界。私は作者の優しく軽やかな言葉に乗って、そんな地獄を軽快に進んでゆく。目の前には春の鐘に祝福され咲き誇る幾多の華。美しさに囚われ立ち止まった私の上に、散り往く華弁が鮮血となって降り注ぐ。それはやがて澱となりどこまでも私を沈めてゆく。美しく、苦しく、心地好い。溺れた先で、私という容れ物もまた溶けてゆく。生と性を脱ぎさり、骨だけになった私は気づけばその列に加わっていた。咲き誇る無限の連なり。命の鐘がリズムを刻み、いつまでも愛を乞う、悠久のパレード——。
こんなにも物語に没入し溺れたのはいつぶりだろうか。幻想文學のひとつの極美、私にはそう想えてならない。これほどの作品に出会えたことに心の底から感謝したい。