学校の怪談七月 矢幡
学校の怪談七月 矢幡
僕の名前は
今年に入ってから、色々大変なことに巻き込まれている。しかし、悪いことばかりではない。それは友人との距離がグッと縮まったからだ。
その友人の名は
最初の印象は正直、怖かった。『誰とも話す気はない』と言わんばかりの近寄りがたい雰囲気があったからだ。
そんな彼に僕は興味が湧いた。
僕は人の思っている事や、考えている事は何となく分かってしまう。それはいい事だと思う人は多いかも知れないけど、そうではなかった。
確かに、人との衝突や喧嘩なんてのは、今まで生きてきた中で1回もない。それは人のことが分かる事が、いい方向に働いてると言える結果なのかも知れない。
だけど、僕は……。僕の心は苦しかった。その人が言われたい言葉、やって欲しい事。それを分かった上で無視する事が、僕には出来なかった。
本音も言えない仲で相手に尽くす。自分で心がすり減っていくのが分かった。そんな時に出会ったのが夜風だった。
最初のきっかけは、出席番号順で前後だったから、軽く話しかけてみようと思った。
「前の席になった矢幡潤です。よろしく!」
「……。」
夜風は返事をせず、ふいっと視線を外し、外を眺め始めた。
普通の人なら『無愛想な人だな』で終わらせてしまいそうなそんな行動。だけど、僕は驚いた。
なぜなら夜風は、人と本当に会話をしたくないタイプの人間だったからだ。
1人が好きな人もいる。それは今までの経験から分かっている。しかし、あくまで1人の時の
どんな人でも、会話をしたくない。人と関わりたくないという人は、今まで1人たりともいなかった。
人は皆寂しがり屋で、孤独だ。その寂しさは人でしか埋められない。だから、人との関わりを全く持とうとしない
「僕さ、電車でここまで通ってるんだよね。なんか大人って感じがしてよくない?」
「……はぁ。俺と話して面白い事なんか一つもないから別の人と話せよ」
僕は初めて人がされたい事と逆のことをした。そんな自分に驚いた。
それに話す気がない夜風が話してくれた事が嬉しかった。もしかしたら、本当の意味で友達になれるかも知れない。そんな事を思った。
毎朝、挨拶をして、とにかく嫌そうにする夜風に自分をアピールした。
今だから言えるけど、僕は毎日怖かったんだぞ。嫌われるかも知れない、なんて思いながら話したのは初めてだったよ。
実際、苦手意識は持たれていたと思う。でも夜風はそれを顔に出すことはなかったね。
僕も同じだよ。相手に悟られないように、静かに距離を取ったりする。相手を極力傷つけないようにそっと離れる優しさに心打たれたんだ。
朝の早い時間に、2人の少年が電車に揺られて、向かい合って座っている。先に口を開いたのは優しい目をしている明るい少年だ。
「ねえ
それを聞いて夜風は、お茶を吹き出しそうになった。危ない危ないというように手で口を拭い、飲み込んだ。
「急になんだよ」
「いや、ふと思い出してさ」
ペットボトルに蓋をしながら、首をかしげて思い出す。
「『前の席になった矢幡潤です。よろしくね!』てきなやつだったか?」
覚えてくれていたことに胸が弾む。それを悟られないように茶化す。
「おしい!正確には『前の席になった矢幡潤です。よろしく!』でした」
「最後の一字だけしか違ってないんなら、ほぼ正解だろ」
めんどくさそうな顔をして言う夜風を見て少し笑う。
いま僕たちは電車で東京に向かっている。夏休み前に話した旅の途中だ。
「それにりてもなんであんな朝早く出たんだ?もっとゆっくりでもいいだろ」
あくびを交えながら夜風は聞く。
「行きたい高校の下見をしようと思ってさ。その前にも後にもいっぱい遊びたいじゃん?」
「なるほどな、ふぁ」
「着くまで寝てていいよ。乗り換えで起こすから」
「いいよ一緒に起きて……いや、じゃあ寝る。おやすみ」
「おやすみ」
最初に会った頃では考えられないほど、夜風は僕を信頼してくれるようになった。
僕は子供のように眠る夜風の顔を見て、改めて友達ができたんだと自覚する。
僕も僕で、最初に会った時では考えられないほど夜風という初めての友達を信頼できるようになった。
「長かったねー」
「長かったな」
僕たちは最初の観光スポットである浅草に着いた。
駅から少し歩くとうわさに聞く雷門が見えた。
「おおー。見てよ夜風、あれが雷門だよ!」
「でっか」
こういう時、夜風は感情をあまり表に出さないが彼なりに楽しんでいるのが僕には分かる。
だからこそ、夜風の分まで感情を出す。そうしていくうちに釣られて巣の感情を出してくれるから。
「写真とろーよ!」
「この人ごみの中どうやってとるんだよ」
めんどくさそうに歩く夜風の肩に手を回し、くるっと後ろ向きに回転してすぐさま3回ほど撮った。
「肖像権で訴えるわ」
「裁判所まで一緒の電車で行こうね!」
はいはい、というように先を歩く夜風。これは案外初めての東京でワクワクしているな。
そのまま僕たちは仲見世通りを歩き買い食いをした。
「え?おい矢幡、五重塔ってここにもあるのか」
「えぇー……。別に五重塔って京都、奈良だけじゃないんだよ」
「初めて知った」
「ちなみに五重塔はこの国に22個あるよ」
「もしかして、五重塔って、あんますごくない?」
「そんなわけなくない?」
楽しそうにしている夜風をみて笑みがこぼれる。
本堂に着きお参りをした後でおみくじを引いた。
「僕は大吉だったけど夜風はどう?」
「凶」
「あまり多くは語らないの笑えるからやめて、ふふっ」
「まぁでも凶だよな。あんだけのことが起きてたら」
「そういえばおみくじって今後の運勢の占いじゃなくて今の時点の占いらしいよ。だからガムでも踏んだんじゃない?」
夜風は自分の靴を確認しながら言った。
「そんな都合よくガムなんかついて、たあぁ!」
息ができないほど笑ってお互い、その場に崩れた。
次に行きたい高校の下見を終わらせ、色々な所を歩いて回った。
「ご飯食べていこうよ」
「たしかに腹減った」
「何か食べたいものある?」
「なんでもいい」
「はぁ、まったく。これがデートならツーアウトってところだね」
「俺はどこでワンアウト取られたんだよ」
「ダブルプレー」
「併殺」
でも見た感じ夜風は本当に何でもよさそうだ。僕もこれといった行きたいところは何もないんだけど。
そうして歩き回った末、お店に入った。
一通り注文を終えたところで夜風が切り出す。
「ちなみになんでどこにでもあるファミレスなんだ」
「夜風とこういうところ来たことないなって思ってさ」
少し申し訳なさそうにする夜風を訂正するように続けた。
「夜風は見える人だから、周りに迷惑をかけまいと距離をとるでしょ?それ以外の理由もあるだろうけど。だからこうして一緒に初めて遊べて嬉しいんだ。それを非日常にするんじゃなくて日常にしたい。そうなるとこういうファミレスとかが一番僕らにとっての日常に近いと思ったんだ」
夜風は何か言いかけてやめた。代わりに「そうか」と一言つぶやいた。
帰りの電車で今までのことを思い返す。
「ちょっと前に喧嘩しての覚えてる?」
「忘れられねーよ。偽物騒動の時だろ」
お互い少し苦い顔をする。思春期ってこともあっていろいろと恥ずかしいのだ。
「僕さ、初めて人と喧嘩したんだ」
フっと鼻を鳴らし、夜風は「それは奇遇なもんで」といいお茶を飲む。
僕は人と話せば考えていることや思っていることが分かる。その観察力は決して、人には話さない。自分の思考が透かされていると分かったうえで関係を持ってくれる人はいないからだ。
でも夜風なら、僕の話を聞いたうえでまだ友達でいてくれるかもしれない。そんな綻びが最近よく頭に浮かぶ。これを話したいというのは僕のエゴだ。ただ僕が楽になりたいだけの独りよがりな行動に夜風を、友達を巻き込みたくない。
だから僕は、それを決して表に出さない。誰にも悟られることなく、この力を一人で隠していく。
「なあ矢幡」
めずらしく、というわけでもないが夜風がまっすぐ目を見て話してきた。
「ん?」
「全部が全部、一人で抱え込むなよ」
「え、」
心臓が一瞬冷えて、思わず思考が止まる。そんな僕をよそに夜風は続ける。
「別に今すぐに話してほしいとかじゃないよ。頭のいい矢幡の事だ。お前なりに考えがあるんだろ。……ただ、爆発する一秒前になったら話せ。隣にいて聞いてやる」
「はは」
なんで笑ったのか自分でもわからない。困惑したまま率直な思いを話したいと思った。
「ありがと」
「ん」
この力の話をしてみてもいいかもしれない。でももし……
マイナスな思考ばかりが頭を埋め尽くす。僕はまだ夜風に話せないでいる。
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