学校の怪談七月 転校生

学校の怪談七月

夜風よかぜは今年の夏休みなにかする?」



 「家でゴロゴロかお化け退治だな。夏になると寄ってくる」



 「そんな虫みたいな……」



 七月になり学校は夏休みムードに入りつつある。中学3年生ということもあり、勉強に悩まされている学生も多い。



 しかし、この矢幡やはたという男は普段から復習や予習をし、テストはいつも学年上位という努力の結晶みたいなやつだ。



 そんなこんなで焦る必要もないため、夏休みをエンジョイして過ごせる数少ない人種だ。



「矢幡はなんかすんのか?」



「うーん、まあ適当にぶらぶらかな?ちょっと遠出してみたいし」



「でた、ひとり旅」



「なんだよ素晴らしいことじゃないか。新鮮な空気、まだ見ぬ大地、とらわれた姫、襲い掛かる魔物。主人公矢幡の運命はいかに……」



「矢幡先生の次回作に乞うご期待」



「打ち切りにしないでよ、まったく。それより今年は夜風も一緒にどこか行かない?」



「俺はいいよ」



 ふいっと視線を外し外を眺める。夏は苦手だ。テレビやらネットやらの影響で夏といえば心霊、ホラーみたいな雰囲気になるためマジででる。街中を歩くだけでも一苦労だ。



 人が多く賑わっているところには、霊が紛れ込んでいることがある。時間経過とともに成仏するものもいれば、人に取り憑くものもいる。



 霊が取り憑く場面は今まで数回しか見たことがないが、小学生の頃に、取り憑かれた人が目の前で車にはねられたのを見てからトラウマになり、取り憑こうとしている霊は極力祓っている。



 ただ、毎回祓えるわけじゃない。俺が家にいる時も、学校にいる時も、もしかしたら取り憑かれて誰かが不幸な目にあっているかもしれない。そんな思いつめた状態で過ごす事は心を大きく苦しめた。



 だから俺はあまり外に出なくなった。助けることをしなくなった。



 冷たいと思われるかもしれないが、所詮自分に関係のない人がどこで不幸になってようが関係ない。全部が全部助けることが正しい事だとは思っていない。



 それに目が合っただけで付いて来る霊もいる。そんなのに毎回付きまとわれてたらキリがない。



 頭の中で色々な事をごちゃごちゃ考えている内に、矢幡がまっすぐした声で言う。



 「いや、どっか行こう。ひとり旅にならないように僕に付き合ってよ」



 矢幡はまっすぐ目を見て話す。俺も思わず向かい合う。



「……わかったよ。俺も中学生最後の夏休みくらいどっか行きたいしな」



 根気に負け、初めて遊ぶ約束をした。



「そういえばあのお地蔵さん、おつゆさんはどうなったの?気になることがあるって言ってもう1回、雨山神社に行くって言ってたよね?」



「ああ、あれな……」



 話す内容を少し考える。おつゆさんとの戦いの中で気になることがあった。普段は一言も話さなかったおつゆさんが、最後の俺が追い詰められた瞬間だけ口を開いた。その内容もアドバイスともとれるものだった。



 それ以外にも、風の子と呼ぶ意味だったり、あのお方に魂を分断させられたっていうのも気になる。聞きたいことが山積みだったため、もう一度話に行こうと思い雨山神社に足を運んだが、中にあった地蔵はもとの形が分からないほどに砕かれていた。



 これもあのお方と言われている者の仕業なのか、何もかも分からずじまいだ。



 全部を話す必要はないと判断し、かみ砕いて説明した。



「おつゆさんが戦ってるときにアドバイスをしてきたんだ。それまで1回も話さなかったのに急に。そのほかにも俺のことを風の子って呼んでたりしたから、それが気になって聞きに行ったけどもう成仏してたみたいだ」



「そっか。確かに気になるね。純粋に「夜風」の「風」で、風の子だったりして」



「だとしたら名前知られてんの怖すぎるだろ」



「確かに」



 笑いながら話し合う。矢幡にあのお方と呼ばれる存在を伝えるのは危険か……。俺はまだ答えを出せずにいる。 






 学校が終わり家に帰る。最後まで向かい合うと決めた以上、中途半端なことはしたくない。



 最近は家出も霊力の操作を試している。身体強化はまだ粗削りだが、最初の頃よりはずっと燃費がいい。



 だが、1つの大きな壁にぶち当たっている。それは決定力のなさだ。おつゆさんは特殊な方法でしか攻撃が通らなかった。そんな限定された中で何とか祓ったが、こちらもそれ以上のダメージを負ってしまった。



 もっとうまく霊力を利用できれば長引かず、早めに決着をつけることもできたはずだ。その弱点をどうにか補強しないと先は危うい。



「風の子……か。何か意味があると信じたいな」



 気合を入れなおし再び霊力操作の練習をする。






 七月に入って一週間もしない頃だった。



「聞いた?転校生の話」



「転校生?」



 矢幡の話では2階の7組に転校生が来たらしい。あそこの教室はたしか呪いの席が空席だったな。



 それも相まってか、転校生の話で三年生は持ちきりだった。



「こういう話の場合、負のオーラはどうなるの?」



「どうって、見た感じそう多くは変わらずって感じだな。現状維持か少し落ち着いたくらいかな」



 なるほど、と頷く。それより矢幡は何かそわそわしているようだった。



「会いに行ってみるか?転校生に」



「夜風が合いに行きたいんならついて行くけど?」



「なんでツンデレみたいになってんだよ」



「あ、あたしは別にどうだっていいんだからね!」



「あいあい、わかったわかった。昼休み、迷惑にならない程度に行こうな」



「う、うん!」



 気持ちの悪い路線にキャラ変更した矢幡をいなし、話をまとめた。






 昼休み、階段を上がり七組へ行く。



「えーっと、どの子だろう」



 矢幡が先に教室内を見回す。



「あれじゃないか、めっちゃ人だかりができてる後ろの席の」



 少し前まで呪いの席と言われていたところには女子が座っていた。



 きりっとした目に、少し髪の長いボブ。風が吹けば、なびくような綺麗な黒髪だった。同い年とは思えないほど雰囲気が大人っぽく、周りにいる人がより一層子供に見えた。



「綺麗な人だね」



「そうだな。声かけなくていいのか?」



「じゃ、戻ろっか」



 そういい颯爽と帰ろうとする矢幡の手をつかむ。



 「え?それだけ?話に行かなくていいのか?」



「なに?夜風はあの子のほうがあたしよりかわいいっての!?」



「何の話だし、まだ続いてたんかい」



 まあ矢幡の気分が乗らないなら俺は別にどうだっていい。そのまま教室を後にした。

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