学校の怪談五月 いてはいけない生徒
二限目の終わりのチャイムが鳴る。新しいクラスになってはや一カ月。クラスにも色というものが出てきた。
同じような趣味思考を持ったもの同士が集まり、グループを形成している。みんながみんなそれぞれで楽しんでいる。
俺はというと……。
「いや、だからしずくちゃんの可愛いところはやっぱり仕草だって!」
「だから、そのアイドルの事しらないって。何回言ったらわかるんだよ
変わらず矢幡と楽しく過ごしている。今は最近テレビに出ている
矢幡は何を隠そう生粋のアイドルオタクなのだ。昔から応援していたウォーターガールズというアイドルグループがついに地上波のテレビに出た事により朝からずっとこの調子だ。
話が合うわけでも、趣味が合うわけでもないが、矢幡はずっと一緒にいてくれる。それが良いところであり、ギリギリ悪いところでもある。
「やっぱりしずくちゃんの身振り手振りは華があるんだよ!こう、蝶々が舞うみたいな華やかさがさ!」
多分このままの調子で行くと一生喋り続ける事になるだろう。その前に行動を起こそう。
そう思い、「トイレ」と伝え席をたった。矢幡はわかったと言いながらついてくる。え?
「え、いや俺トイレ……」
「ん?トイレ行くんだろ?ついていくよ。それで話戻すんだけど、やっぱり最初の頃から応援してた身としては……」
全くこの話から逃げられる気がしない。どうしたものか。俺は頭を悩ませた。
頭を悩ませることといえば直近でもう一つある。それは負のオーラがまだ残っていることだ。
通常、学校だったり廃墟だったりといった場所には一定の負のオーラが漂っているが、今の西ノ谷中の一階二階にはその何倍もの濃さで存在している。
女子生徒の霊を見て、パニックを起こし救急車に運ばれた生徒もまだ学校に復帰できていない。霊自体はしっかりと成仏できたのだが、一度回ったうわさによる負のオーラの蓄積は大きかった。
まだこれといった事件だったりうわさなどは何もないが、またそういう話が出てきてしまった時にそのうわさはすぐに姿を形成し、次はこちら側に害を与えてくるかもしれない。
俺にその災厄が回ってくるのも嫌だし、矢幡にも害を与えられては困る。そうならないためにも、前回の件はすぐに解決したかったのだが……。
今はそんな『もし』を考えても仕方がない。出来ることはこれ以上負のオーラが蓄積されないように
トイレを済ませて、手を洗う。ふと鏡を見た時に後ろに一瞬だけ人型の何かが立ってるのが見えた。すぐに振り返ったがそこには何もいなかった。
ただの見間違えなのか……それとも、また別のうわさが回っているのか。俺は深く息をはく。
最近はずっとこんな調子だ。そこには本当に何もいないのに何かが見えた気がする……そんな思い過ごしが多い。自分自身でもわかるほどに疲れている。
そんな俺を知ってか知らずか、矢幡は続けて話している。よくこんなにもたくさんの感想が出てくるものだなと、感心する。
多分俺の思い過ごしかもしれないが、矢幡なりに俺に気をつかっているのだろう。ずっと疲れたような顔をしていて心配をかけてしまった事に少し反省する。
「それで、この曲で伝えたい事は……」
いや、本当に気をつかっているのか?ならもう少し休み休み話しても俺的には良いのだが?
「なんだい?その休み休み話して欲しいみたいな顔は。全くもう遠慮しなくていいよ!僕は疲れを感じてないからさ!」
周りの事をよく見ているからこそ、こういうエスパーみたいな以心伝心がたまに起こる。そしてどうやら気を使っているというのは、俺の思い過ごしだったようだ。
だが、あまりの一方通行さに少し頬が緩む。張り詰めていたのではいつか爆発してしまう。今はこのくらい強引に話しかけてくれた方が気も紛れて助かる。
ちょうど授業の始まりのチャイムが鳴った。少し気が楽になった。
クラスにできてきたグループがいくつもある。それは話が合う者同士が楽しむために出来上がっていく。しかし、中にはその枠組みに入れなかった人も少なからず存在する。俺は一人が苦手だ。
いや、苦手になった。西ノ谷中学校に入ってから矢幡とかかわりを持ち、慣れていたはずの一人が時々寂しく感じる。それを踏まえて思うことがある。それはどこにも属さず、一人で生きている人は寂しくないのだろうか、という気持ちだ。
俺自身は運がよく、ただ近くに話せる人がいただけだから偉そうなことは言えないが、周りを見てぼーっとそんなことを考える。
「なあ矢幡。人間って一人で生きていけると思うか?」
「どうしたの急に?」
「いや、なんだろうな。憐れんでるのかな?偉そうなこと言える立場じゃないんだけどさ、一人で生きていくのって辛いよなって思って」
「
また少し考える。確かに考えすぎだと言われたらそうかもしれないが、どうにも気持ちがスッキリしない。謎の
「矢幡は一人でいる人をどう思うんだ?」
「難しい質問だね」
確かに変な質問をしてしまったと思う。
「それなら一年生の頃初めて俺を見た時にどう思った?」
「んー。それなら特別にどう思ったとかはないよ。ただ話したいと思って話したら楽しくて、楽だった」
「うーん、そんなものか?」
「そんなもんだよ」
この胸のざわめきはまだ自分で分かりそうにないな、なんて思う。
時間が経ち昼休みになった。矢幡は美化委員会の集まりでいない。
さっきの胸のざわめきがまだ残っている。考えすぎだと言われたが、やはり気になってしまう。だから今日は自分から動いてみようと思った。
いつのまにか一人で行動するのが少し怖くなっていた。いつもはそばに矢幡がいてくれたが、今はいない。だからこそ、今動くべきだと思い行動した。
まず初めに知るところから始めようと考えた。いつも一人でいるクラスの女子。休み時間どこで何をしているのか確かめてみようと後をつけた。
教室を出て、北棟へと向かう。着いた先は図書室だった。いつも気づいたらいなくなっていたのは図書室に来ていたからなのかと納得する。
そこである小説を手に取り途中から読み始める。少し前の日から読んでいることが分かる。
……しかし、このまま見てるだけだとただの変人だ。いっそのこと少し話かけてみるべきか?
図書室の入り口付近で頭を悩ませていると、向こうから話しかけてきた。
「どうしたの?本を読みたいなら座って読めば?」
急な展開に驚く。ただ願ってもないチャンスだ。
「いや、少し君と話したいと思って」
相手はポカンとした後に引きつった笑いをした。今の一言で我に帰る。冷静に考えたら、女の子の後をつけた挙句、一人で悩んで「君と話したい」はさすがにきついものがある。
「違う!そういうんじゃなくて、なんだろう……その」
言葉が続かない。あまりにも先を見ていなかった。いつも一人でいて寂しくないの?なんて口が裂けても言えない。早く会話をしなくてはならないのだが、これ以上罪を重ねるわけにはいかない。
「あの、用がないなら教室から出ていってもらっていいですか?」
さすがに万事休すか?いやまだ希望はある。今手に待ってる小説は確か、少し前に映画化された青春恋愛ものだ。矢幡が熱く語ってたから内容はざっくりと覚えている。
「その小説面白いよね。俺は映画しか見てないけどラストのあのシーンがめっちゃ良くて覚えてるんだ」
どうだ……?
「そうなんだ」
一見冷たいような反応に見えるが、先ほどよりは距離を置かれていない。
「俺もその小説読もうと思ってだんだけど面白い?」
その女子生徒は一瞬目を光らせたように思えたが、すぐに真顔に戻りそっけなく返す。
「人によるんじゃない?」
会話が派生しにくい、きつい返しをもらったが最初の印象よりかは
ちょうどその時、図書室のドアが開いて一人の生徒が入ってきた。
「あ!こんなところにいたのか夜風!探したよ」
ナイスタイミングだ矢幡。俺もこれ以上はキツかった。今がこの場から離れる絶好のチャンス。
「それじゃあ」
とだけ言い残し図書室をでた。矢幡は不思議そうにこちらを見ながらついてきた。
「夜風って意外と積極的なタイプ?」
いきなりな会話にコケそうになった。
「なんだよいきなり」
「いや、自ら女の子に声をかけにいくなんて。成長したなーって思って。うぅ……」
「矢幡は俺のなんなんだ」
「ひどいわね!!そんなこと言う子に育てた覚えはないわ!」
「育てられた覚えがねぇよ」
「確かに、育てた覚えがない」
そんな会話をしながら教室に戻る。矢幡との会話はやっぱり楽でいい。
何日か経ったある日、矢幡からおかしな話を聞かされた。その内容は俺が学校の二階で色んな人に話しかけてまわっていると言う話だった。
「それ本当に俺だったか?」
「背格好は全く一緒だったと思う。でも三人組でいたよ」
どういうことだ?俺が一人でいる人に話しかけたのはこの前の一度きりだけだ。それも三人組で?いや、俺はそんなことしていない。
「やっぱり夜風じゃないよね?あれ?見間違いだったかな」
嫌な予感がする。四月に引き継ぎ負のオーラはまだ濃く残っている。その上で、俺と同じ姿をした人を見たという話。
ただの見間違いか……いや、多分それはないだろう。最近やけに周りから視線を感じると思ったのだが、俺が話しかけて回っているというのを見てきたのだろう。
となると、多分その俺の姿をした人は本当に存在することになる。まずいな……もしかして
「矢幡、この前話してた学校の怪談って他になんかあるのか?」
「学校の怪談?急だね。うーん、そう言えば最近聞いたのは神隠し?に近い話ならあったよ」
「どんな話だ?」
「新しいクラスで馴染めずにいる、ある生徒がいたんだ。でもその生徒はある日、友達ができたんだ。その友達は三人組で一人でいるところに話しかけてくれたんだって。そこから仲良くなって明るい性格になったんだけど、周りからは距離を置かれてしまったんだ。それはなぜか……理由は簡単で、その生徒はずっと独り言を呟いてたからなんだ。誰もいないのに、まるでそこに誰かいるように話していて、周りの人は怖がって近寄らなくなったんだ。そこから数日経ったある日、その生徒は消えてしまったんだ。どこに行ったのかはわからずじまい。こんなうわさでいいなら聞いたけどそれがどうかしたの?」
最悪だ。俺が知らなかっただけで、話はもう出来上がっていたのか。
確実に出遅れた。この前のうわさの女子生徒の霊の場合は、特定の時間、特定の場所での話だったから、霊力の足りないものでもその姿を見ることが出来たし、女子生徒の霊も姿を持って現れられた。いわば条件付きの
その姿をなんの関係もない矢幡や学校の人にも見えているとしたら、単なる
そうなると、かなりの力を持った霊が学校内にいるはず。だが、負のオーラが濃すぎて全く気配を感じ取れなかった。
「夜風?」
矢幡が心配そうに顔を覗き込んでくる。しかし、これ以上関わらせまいと突っぱねる。
「なんでもない。ただちょっと気になっただけだ」
まずい、どうにかして早くそのうわさの元を立たなければ、今度こそ周りに被害がくる。
とにかく、まずはその霊自身に会ってみないと話が進まない。俺一人でさっき聞いた話を頼りに探そう。
心配する矢幡を振り切り、休み時間ごとに教室を出て、偽物の自分を探した。
この学校の生徒数は多く、別の教室の友達と話してる人をよく見るが、急に別のクラスに友達ができるなんてのはほとんどない。
学生の交友の幅は広いようで思ったよりもせまい。だからこそ、いつも一人でいる人に話しかける俺の偽物は良くも悪くも目立っていたのだろう。
まず、こんなうわさを誰が流し始めたんだ?次から同じようなことが起きないように発生元を辿るのも一つの手か。
1週間ほどかけて探しているのだが、俺の偽物は見つからない。もしかしたら本当にただの見間違えだったのでは?と思えるほどに音沙汰がない。
しかし、確実にいる。それだけは俺の霊力が言っている。そこにいると。漠然と気配だけが学校の三年生フロアからする。変わったことといえば最近誰かにつけられているような気配もする。面倒だ。
言ってしまえば気味が悪い。それゆえに神経を尖らせ、顔もこわばる。その時。
「夜風くん。どうしたの?そんな怖い顔して」
振り返るといつぞやの図書室にいた女子生徒がいた。しかし、様子が少しおかしい。
「いや、ちょっと体調が悪くて」
「そっか、無理しないでね。あとこの前話してたあの本。すっごく面白かったよ!」
「本?なんの話だ?」
「えー忘れないでよー!あのミステリーのやつ」
俺がこの前……と言っても結構前だが、その時に話したのは青春恋愛もののはずだが。
「いつ話したっけ?」
「
その言葉で確信した。俺が最初に話した時、この子は俺を警戒していた。しかし、あの時以来会っていないはずなのに、今では無警戒どころか心を開いてる。
それはただ単におんなじクラスだから絆が深まったとかそういうものではないくらいの親しい関係に見える。
つまり、俺を誰かと勘違いしている。その勘違いしている相手こそ俺の偽物!完全に逆を突かれた。
二階で俺が話しかけ回っているといううわさだったから二階を重点的に調べていたが、一階の、しかも自分のクラスメイトの近くにいたとは。
とにかく、この機会を逃すわけにはいかない。今から少しでもいいから情報を聞き出して本人に会う。
「ごめん、忘れっぽくて覚えてなかった。でもあのミステリーやっぱり面白かったでしょ?」
「うん!流石にあのトリックは見破れなかったし、ミステリー初心者の私でも楽しめた!他にもなにかおすすめってあったりする?」
まずい、早くも詰みそうだ。本なんてほぼ読まないし、矢幡とも最近ろくに会話していないから世間の情報をほとんど知らない……。とりあえず濁すか。
「最近はあんまり本読んでなくて、ないかな」
「そうなの?最近本をよく読むようになったって言ってなかったっけ?」
偽物め、なんてめんどくさい設定を付け足してくれたんだ。
「学校で疲れちゃって家に帰ったらすぐ寝ちゃってちゃんと時間取れてないんだよね」
「そうなんだ」
なんとか乗り切った。ここから会話の手綱をこっちが握って話を進めよう。
「そう言えばいつもどの時間に話してるっけ?」
「いつも?それなら二限目の休み時間と昼休みでしょ?どうしちゃったの本当に」
この学校では二限目の休み時間は十五分と少し長い。その間は図書室などが開くため、この子が一人になるのだろう。そのタイミングを見計らって偽物は話しかけているのか。
「そうだったね」
そう言えば矢幡は俺が三人組で行動していると言っていたな。それも多少強引になってもいいから聞き出してみるか。
「あともう一つ聞きたいんだけど、いつもいる俺の友達知らない?探してるんだけど見つからなくって」
「
ビンゴ。やっぱり三人組で行動しているのか。名前も聞き出せた。行動する時間も抑えた。あとは接触するだけだ。
「そっか、ありがとう」
その場を離れようとした時に呼び止められた。
「そうだ、映画を一緒に見に行くって話。いつ行く?」
な、映画だと?偽物は本当に厄介な予定を進めようとしている。
それよりも偽物は学校の外に自由に出入りできるのか。そうなると学校の負のオーラを基礎として形を保っているのではなく、完全に自己範疇の内で霊力を蓄えていることになる。厄介極まりない。
「映画ね。もうちょっと先になるかもしれない。ごめんね」
早くうわさのもとを消さないとどんどん面倒なことになっていく。すぐさまその場を離れようとしたが当然大きな声でその子は叫んだ。
「あなたはだれ!?」
再び足を止める。その子は肩を振るわせながら、話している。
「私、あなたと映画に行く約束なんてしてない!」
鎌をかけられていたのか。くそ。また面倒なことが一つ増えた。この状況をどう説明するか。
「そうだっけ?ごめん本当に忘れっぽくて別の人と行く映画の予定とごっちゃになってたのかも」
「それなら!私の名前分かる!?」
「え、名前……」
まずい、わからない。この学校で関わることのない人の名前は覚えていない。先生の名前すら危うい俺にとってその質問、というより尋問はきついものがあった。
「やっぱり。あなたは誰なの!?」
どうする。いっそのこと全部話すか?いや信じてもらえない可能性の方が高いし、この一言でどれだけの負のオーラが蓄積されるのかわからない。よって下手なことはできない。
「あ、夜風。先生が職員室で呼んでたよ」
いつも聞き慣れてる声がした。
「おっけーありがとう。それじゃ話はまた今度ね」
マジでナイスタイミングだ矢幡。これで危機を一つ乗り越えた。だが、別にもう一つの問題が起きた。それは見計らったかのような矢幡のタイミングだ。
「矢幡、ついてきてくれよ」
「うん」
二人で話しながら歩く。多分矢幡はここ最近の俺の行動を見ていたのだろう。最近のつけられている気配の主は矢幡だったのだ。それならさっきの話しかけるタイミングにも説明がつく。
「矢幡。俺のことをつけてるだろう」
「ばれたか……」
隠すことなくすぐに白状をした。
「なんでつけてた?」
「夜風さ、なにか今大変なことしてるだろう?いや言わなくても大丈夫だよ。ただ、ずっと疲れてるのに教室にいないから気になってたんだ。」
自分は思ったよりも顔や態度に出るらしい。それで俺のことを心配してくれてたのか。
「悪かったな。でも大丈夫だから」
「夜風の悪いところは、一人で抱え込むことだよ」
足を止め、まっすぐ目を見て話された。矢幡の表情から真剣なのが伝わる。
「いや、でも本当に大丈夫だから」
「それでも僕は話してほしいよ」
矢幡は珍しく食い下がらない。しかし、それでも巻き込むわけにはいかない。これは一人で解決すべきことだ。
「いいって。俺だけの問題だから」
再び歩き始める。少し口調が強めになってしまった。
「僕は!夜風のことを何も知らない!」
今日はよく叫ばれる。なんなんだ一体。
「知ってどうするんだ?」
声が低くなり眼光は鋭くなる。今は全てが面倒くさい。何もしたくない。
「夜風がどんな苦労をしてきたのか、何が嫌なのか、何が好きなのか。夜風の口からは何も話してくれないじゃないか!」
「だから知ってどうすんだって言ってんだろ。どうでもいいだろうが!」
思わず声を荒げる。
足を止め、向かい合う。矢幡は変わらず真剣な表情でこちらを見つめている。
「全部隠されるのは、つらいんだ。」
今にも泣き出しそうな震えた声で、訴えかけてきた。流石に俺も言いすぎた。
解決しても止まらない負のオーラ。自分自身の偽物。落ち着かない学校。いろんな問題が頭の中を圧迫する。そんな中で余裕を持つことができなくなっていた。
その言葉で我に返り、口を
俺からは何も言えない。正しい正しくない以前に矢幡の言っていることは人としてもっともだ。その時、矢幡は言葉をを振り絞って口を開けた。
「全部話してくれとは言わない。でも、少しでも話してほしいんだ。君のことを」
大きく息を吐く。冷静になれ。今やるべきは矢幡と口論することじゃなく、うわさの正体を掴むことだ。今の話し合いで少し頭を冷やすことができた。
ただ、どう話したらいい?俺が霊力を持っていることを話してそこからか?信じてはもらえると思うけど、変に危険に巻き込まれたら守り切れるかわからない……。
いや、俺が今手伝ってほしいことだけを話せばいい。矢幡はそれを考慮した上で俺に本音を喋ってくれたんだ。だから『全部話してくれとは言わない』って言ってくれたんだ。
「俺は今、学校の怪談のうわさを追ってる。そのうわさと実際に接触した人を探して話を聞き出したい」
それは色んなことを省いた説明だった。しかし、そんな説明でも矢幡は嬉しそうにしてくれた。
「僕も手伝うよ。それ以上は関わらない。夜風が話したいって思う日まで待ってるから」
「ありがとう」
初めて人と喧嘩した。それは思ったよりも清々しい気持ちだった。
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