記事(5of4).docx

【画像:学生会館の一室。真面目そうな顔を取り繕って机につくマナと私。彼女の髪はすっかり短くなり、染め直されてテラテラと黒く輝いていた】


〔マナ〕えー・・・。


【画像:さっきと同構図。マナが両手で「お詫び」と書かれたフリップを掲げている】


〔マナ〕さっきまでのは一切無かったことにしてください。


【画像:頭を下げるマナと私。帰ってきた彼女は、無言で髪を切り、雑に染め直して、ドデカミンを一気飲みした後、「じゃあまず仕切り直すから」と言い、この撮影が始まった】


〔マナ〕本来なら私達が死んで終わりだったんですが、ここからは予定を変更し、悪い奴をやっつけていこうと思いまーす。


【画像:立ち上がり、拳を振り上げるマナ。座ったまま呆然と彼女を見上げる私】


【画像:拳を振り上げるマナと私。前の画像の間に「早くお前もやんだよ!」と怒鳴られ、震えながら手を上げていた。ちなみにここでの撮影は全部カメラを三脚に立ててタイマーで一々撮った】


〔マナ〕みんなの復讐だ! 行くぞ、オー!!!


〔カメイ〕オー!!!



こうして血気盛んな私達は、夜の街に繰り出しました!


行き先はもちろん、あそこ!


【画像:新宿の路上、行き先を指差すマナ。サークル部屋での撮影を終えると、マナは有無を言わせぬ口調で「行くぞ」と言って大学を後にした。大学から公園までの道を早足で歩く彼女に私は何とか追い縋る。話す時間ができたので、思い切って尋ねた。「あの、フジモリさんって……何か霊感とかあって、除霊とか儀式とかできるんですか!?」。彼女はぎゅっと眉を顰める。「うわっ、外で変なこと言うなよ。恥ずかしいやつだな、そんなのできるわけないだろ」。「え、なら、私達って今何やってんですか?」。彼女は難しい顔で考え込んでから答えた。「これが普通の怖い話なら何もできることは無かったけど。これはモキュメンタリーホラーだから、嘘だから。やりようがある」。この言葉について、結局今でも正確な意味は分かっていない】



【画像:新宿駅東口公園】



私達の目的は、この記事に出てきた悪い奴を倒すこと。


その為に必要なのは一つだけ。


それは何でしょう?



【画像:公園のライオン像前。人混みの中挙手する私】


〔カメイ〕はい、悪い奴の正体を知ること!


〔マナ〕違います。それはもう済んだ。


〔カメイ〕何ですか?


〔マナ〕ヒ・ミ・ツ。



 正解は後のお楽しみ。



【画像:早押しクイズっぽくボタンを押す仕草をする私】


〔カメイ〕じゃあ・・・悪い奴の倒し方を知ること!


〔マナ〕それももう知ってる。はい不正解。


【画像:指を咥えて悔しがる私。この辺の撮影は全部マナが自分のスマホで撮った。今思うと、私が必死に変なポーズをするのが面白かったのだと思う。何度もやり直させられたから】


〔カメイ〕・・・正解は?


〔マナ〕正解はね・・・。


【画像:ライオン像の奥の茂みに分け入るマナ】


【画像:腐った鳥の死骸群。腐敗は進んでいたが、構図が記事(2of4)の撮影で見た時と全く同じで……不審に思った】



えー、突然ですが読者のみなさんにも、クイズです。


これまでの記事の中で、「こいつ出す必要あった?」って登場人物が一人だけいませんでしたか?


【画像:少し引いて、茂みの鳥の死骸の辺りに向かって、足を大きく振り上げるマナ】


【画像:足を振り下ろすマナ。この直前、カメラを持つ私に連写モードに切り替えるよう命令していた。】


〔マナ〕死んだふりしても無駄だぞ、おい!


【gif画像:マナの足が死骸に触れるや否や変化が起きる。フワーッと死骸が人陰に切り替わっていく。最後の画像まで行くと、それが若い女性だとわかる。二つ結びで小柄、黒いスウェット】


そう、記事(2of4)で私がぶちのめしたイカレ女。



〔若い女〕ぐわーっ!


〔カメイ〕えっ、鳥の死骸が女に!? あ、でも思い出しました・・・。


【画像:驚愕する私】


〔カメイ〕あの日の撮影、鳥の死骸を見つけた後、どうしようかみんなで困ってたら。気付いたらこの女の人になっていて、なぜか撮影に協力してもらって・・・誰も不思議に思わなかった・・・。でも、


【画像:首をコテンと傾ける私】


〔カメイ〕どういう理由でそんなことを?


〔マナ〕鳥はの子分なんだよ。が記事に入り込む為に、先遣隊として出張ってきたの。まあ、そういうわけで・・・。


【画像:右手で若い女の髪を引っ掴んで顔を引き上げ、左手でピースを作るマナ】


〔マナ〕最初のクイズの答えは、「悪い奴の居場所を知る」でした!


【画像:若い女の顔に詰め寄って恫喝するマナ】


〔マナ〕おう、コラ! お前のボスのヤサを教えな!!


〔若い女〕ひ、ひいっ、知らないですやで~!!


〔マナ〕嘘つけ、こっちは知ってんだよ、あのラブホテルの住所だ、教えろ!


【画像:若い女をボッコボコにするマナ。実際には女も反撃してきてかなりの乱闘になり、辛勝だった。画像ではマナが優勢なところだけが採用されている。見栄だろうか】


〔若い女〕うひいっ、い、言うから止めてや!



こうして私達はの居場所を聞き出し、そこへ急行します!



〔若い女〕騙してソーリーやで~。ウチは反省したんで帰りますやで~。



【gif画像:棒立ちの若い女が指を打ち鳴らすと、鳥に変わって飛び去って行く様子。実際は上記のような反省の弁は述べていない。マナに向かって「何やったってお前は逃げられないんやで~」とエセ関西弁で嘲笑っただけ】


私達の宿敵の居場所は神奈川県の某所。


既に廃業したラブホテルで、ネットで調べると心霊スポットとの口コミがわずかに二、三件見つかりました。


京王線に乗って、バスに乗り換えて、大した距離じゃありません。


【画像:電車の席に座るマナと私。向いの席の人に撮ってもらったので、二人ともよそ行きの表情を作っているが、疲れが溜まっているのが隠せていない。数日間分のいろいろが積み重なって眠かった。が、瞼が降りかけたところでスマホが振動した。何度も何度も振動した。取り上げてみると、XXXや私の母、死んだ他の仲間たちからだった。開いてみるとどれも私を詰り、早く死んで自分達の元に来るように、と書いていた。読んでいる間にも増えていき、それは私達が襲撃した研究員や、この件と全然関係ない大学の友達からもあり、どれも、「お前のせいで死んだ、早くこっちに来い」と書いてあった。それは最終的に話したこともない大学の同級生や高校時代の友達にまで広がる。これが全部私達があんな記事を、マナを作ったせいなのか、と罪悪感で胸がつぶれそうになり、スマホを取り落としかけた時、マナが言った。「お前のせいじゃないよ」】


電車の中では、適当に雑談したり、本とか読んで時間を潰しました!


【画像:眠たげに何か喋っているマナと本を開いている私。声を掛けてきた時、マナも私と同じようにスマホの画面を見つけて、難しい顔していた。きっと私と同じようなメールが来ていたのだと思う。だが彼女はキッパリ言った。「お前のせいじゃない、悪い奴は他にいる」。「誰なんですか?」、私の質問には答えずリュックから本を取り出して渡す。「沈んでるとあっちの思う壺だから。これでも読んで考えないようにしな」。題名は『女の子どうしって、ややこしい!』。この企画にも引用されたこの本は、元々マナの愛読書だった。「いい子であれ」と言われて育った女の子達の隠れた攻撃性、悪口や仲間外しなどの迂遠ないじめについての調査と考察が書かれてあり、私もすごく共感した。主に小学生後半から中学生ぐらいの女の子が調査対象なのだが、私はまさにこの本にあるようなことをたくさん経験している。王様みたいなXXXから受けたことも、私が他の子にしたことも書いてあった。彼女はどうなのだろう、私が知ってるマナは豹変した今でも、こんな子達からは一番遠いように思えたので聞いた。「フジモリさんも、中国にいた頃はこんな感じだったんですか?」。「忘れた」、ソバカスの散った頬を少し赤らめ、苦笑いを浮かべるマナは同い年とは思えないほど大人びていた】



【画像:ラブホテル近く、バス停前に並ぶマナと私】



バス停を降りると、そこはもう郊外、というか、若干田舎寄り。


【画像:バス停前から撮った風景、建物はポツポツと疎ら、田んぼも見える。ラブホテルまでは歩いて十五分ほど。マナは歩き出すと、こちらを見もせず一方的に話してきた。「これからラブホに着いて、部屋に入ったら、多分がいるから。そうしたら後はすぐだから」。「すぐって、何するんですか? それに悪い奴って結局誰なんですか? いい加減教えてください」。彼女は切った髪が痒いのかガリガリ掻いてから、答えた。「着いたら話す。難しいんだよ」】




【画像:ラブホテル前。壁面はピンクのレンガ模様、窓ガラス含めそれほど痛んではいなかった。しかし入り口前の駐車場は草がぼうぼう、ゴミや落書きも多く、人が立ち入って管理している様子はない】


〔マナ〕えーでは、これからね、ワルモン、退治していこうと思うわけですけど。


〔カメイ〕どうするんですか?


【画像:ラブホテル正面入り口に立つマナと私】


〔マナ〕もうね、直談判です。直接対決。


〔カメイ〕そんなことして大丈夫なんですか?


〔マナ〕へーき、へーき。やっつけたりますから!


【画像:右腕で力こぶをつくって見せるマナ、不安な表情を浮かべる私】


私達は早速中に入りました。


子分から聞き出せたのはラブホテルの住所まで。


どの部屋にいるかまではわからないので、一部屋ずつ確認していきます。


【画像:廃墟の一室。無人、ひっくり返されたベッドなど】


それでは捜索しながら、みなさんも気になっているところの、今回の悪者の正体について種明かししていきます。


【画像:廃墟の一室。無人、赤いスプレーで落書き、「死ね」】


まず、今回の悪者、マナと言い換えてもいいかもしれませんが、それは私ことマナっちゃではありませんし、この記事によって作り出されたものでもありません。


【画像:廃墟の一室。無人、ストロングゼロのロング缶が幾つか転がっている。その一つを蹴り飛ばして、マナは説明を始めた。「あれは架空の、お前達が作り出した存在じゃない。だからお前達は悪くないよ」】


始まりは多分、口裂け女、だったんだと思います。


いや、本当はもっと正確な名前があったのかも、あるいはちゃんと調べればもっと違うことがわかるのかも・・・いや、でも、一番誠実に言うのなら、女の子。


すいません、文章が混乱していますね、ちょっと説明が難しくて・・・。


【画像:廃墟の一室。無人、赤いスプレーで落書き、「XXXXX、早く来い」】


口裂け女のことは、多くの方がご存じだと思います。


マスクをした女が「私、綺麗?」と聞いてきて、「綺麗」と答えると「これでも?」と大きく裂けた口を見せてくる、という都市伝説。


一九七〇年代の末頃に爆発的に流行し、日本全国、いや世界中に広まりました。


その過程で、口裂け女に会った時の対処法や、女の容姿、出自など様々な情報が加わっていきます。


「べっこう飴をあげれば逃げられる」「ポマードと三回唱えれば逃げられる」「赤い服を着ている」「白い服を着ている」などなど、その土地、その人によってたくさんの口裂け女が生まれました。


私が高校までいた上海にも、口裂け女はいました。


【画像:廃墟の一室。無人、赤いスプレーで落書き、「XXXXX、お前のことがずっと嫌いだった」。「日本人学校の同級生達や、近所の上海人の子達。とにかく何でも話せるような友達だった。どんなお喋りも、お互いの悪口もいじめも差別も、いっぱいしまくった。でも口裂け女の話をした時、誰かが気付いてはいけないことに気付いた」】


上海の口裂け女はすごく独特で、願いを叶えてくれる女神様です。


もちろん口は裂けていて「我漂亮吗?(私、綺麗?)」と聞いてくるのですが、コツがあって。


彼女が喋るより先に願い事を言うんです。


彼女の声に被せてもいい、とにかく言葉を、声を無視する。


すると言ったことを叶えてくれる。


それはなぜか。


多分、バグってしまったんです。


「私、綺麗?」という質問をして裂けた口を見せる怪異が、その口を塞がれ、本来の機能を失くしてしまった。


その結果、口裂け女というガワが壊れて、もっと前の、古いものが出てきた。


口裂け女、ろくろ首、山姥、女の怪異というものはたくさんいますが、遡っていくと結局、似たような形になってしまいます。


女=生殖を担う者として、生と死を司る神話の存在に。


それは例えば、聖書ではエバ、記紀ではイザナミ。


中国で言えば、西王母でしょうか。


不老不死の桃を管理し、鳥を使役する女仙とされていますが、歴史書を紐解くと、元々は人の身に虎の歯と豹の尾を持つ、恐ろしい死神だったとも言われています。


虎の歯だそうなので、その口はきっと大きく裂けていたことでしょう。


とにかく口裂け女は、生と死を司る神話の何か、女の子に変わり果てた。


そして、神として、女の子として、自分を崇める人の願いを叶えるようになる。


自分の司る、生と死を以って。


【画像:廃墟の一室。無人、赤いスプレーで落書き、「XXXXX、お前が裏切った」。「学校で「口裂け女が出る』って噂が流行った時、『口裂け女の質問をキャンセルしたら面白いんじゃね?』って試してみた時に、誰かがふざけて願い事を言った。あいつは答えずに立ち去ったからバグっただけか、ただの変質者だったのかと思った。でも、あれは本物の怪異で、私達のせいで女の子になった。生を操り、死を操った。私らはあいつに思考や行動を誘導され、お互いを傷つけたり、死んだりした。もちろん、私らの誰もそんなこと願っていないよ。でも、あいつにはそれしかできないんだ。思うように生かすか殺すかでしか、願いを叶えられない。結局、大勢の人がひどい目に遭って、友達はみんな死んで、私だけ日本に帰った」】


今回、私達の実質的なリーダーだったベッショ=XXXと動画制作担当者はロケ地としてここを選定し、たまたま本物の口裂け女か、他の女の怪異に願い事をしてしまったのでしょう。


それで嘘だったモキュメンタリーが本当になった。


願ったように生かされ、願ったように死なされる。


私もタイプミスして、ふと「わたしきれい」の字面を見なければ危ない所でした。


【画像:廃墟の一室。無人、赤いスプレーで落書き、「XXXXX、私たち一番の友たちだったじゃない」。私は聞く、「でも、上海ではやっつけられたんですよね?」。彼女は首を振った。「完全には無理だった。生き延びた私がこうやってまた死にかけてたみたいに、一度生まれた怪異は何度でもやってくる。口裂け女で願い事を叶えるって話ももう中国のネットには広まってるからな」。思わず詰め寄った私を強い圧のある眼光で制し、彼女は続けた。「だから、今度は徹底的に潰す。どれくらい効果があるかはわからんが、その方法を考えた。お前にもやってもらうことがある」。彼女はその作戦について話し始める。】


さて、捜索も佳境。


ラブホテルの三階、最上階までやってきました。


【画像:廃墟の一室。無人、赤いスプレーで落書き、「XXXXX、お願いだから早く死んでよ。どうして死なないの?」。歩きながらの説明を聞き終えると、私は彼女にしがみついた。「そんなこと、私一人じゃ、む、無理ですよ。それにそれじゃフジモリさんが……私が代わります……」。「いや、これは私がやらないといけない」。マナは私を力強く引きはがしたが、その顔には深い後悔の表情があった。こんな顔も初めて見た。「結局、今回のことは私のせいだから」「……どうして?」。深く息を吐いてから、彼女は言う。「XXXに上海の口裂け女のことを話したのは私なんだ。授業の間の時間、お前がトイレに行っている間、何か怪談知らないか聞かれて、『XXXXXはくねくねが好き』とか『そんなことも知らないの』とか、何かマウント取られてんのかな、と思ってたら、ふと口走ってた」。マナは私に深々と頭を下げた。「悪かった。幾らでも恨んでくれ」。「違う!」、私は彼女を抱きかかえるように顔を上げさせ、目の前にあったドアを指差した】


いよいよ最後の部屋です。


【画像:廃墟の一室へ続くドアと壁面。赤いスプレーで落書き、「XXXXXがこの企画を本物にしたいって言うから、あの人にお願いしたのよ?」。ライターになりたいという夢を一番応援してくれたのはXXXだった。フジモリさんでさえ「まあ狭き門だよね」と言葉を濁していたのに、XXXだけが私の企画や言葉を褒めてくれた。引っ込み思案な私の代わりに企画を引っ張ってくれた。彼女にはたくさん傷付けられたが、たくさん助けてもらった。私がフジモリさんと仲良くなったことに嫉妬しているのも薄々は気付いていた。それで私の為に奔走する彼女を見て、初めてのことに少し優越感を覚えていた。今でも深く後悔している。面と向かって話すべきだったのに、どうしてできなかったんだろう。今回のことは全て私が始めたことで、やっぱり私のせいだ。そう話しても、彼女は頑として譲らない。後悔の表情を消し、小馬鹿にするような笑みを浮かべた。「ダメダメ。XXXXXちゃん、ライター志望の癖に文章下手だからさ、読みにくいだろ。役割分担だよ」。私はムッとして聞き返す。「ライターが書かなくて、何の役目があるんですか!?」。マナはヘラッと笑って「これがモキュメンタリーで、ファウンド・フッテージなら、最後に後一人いるでしょ!」。そしてこちらの答えを待たずにドアを開けた】


ドアを開けた途端、果物が腐ったような臭いがしました。


【画像:ドア越しに部屋の風景。他とは違い荒れた様子は無く、画像や動画ファイルで見たまさにあの部屋】


【画像:上記画像の切り取りアップ。荒い画質になったが、ベッドの上に赤いガウンを纏った、白い髪の女がこちらに背を向けた状態で横座りしている】


この女こそが、私達を苦しめた張本人、真女マナ


本物の、嘘の女の子です。


見たところ、彼女は身動ぎ一つせず、こちらを気にした様子はありません。


しかし、彼女は今、この時も女の子が出しちゃいけない声を出しています。


言いたいことを言えず、口を塞がれて、誰にも聞こえない、誰も彼もを呪う声。


誰にも聞こえない代わりに誰の耳にも届く声。


誰の生も死も操る声。


本来ならみなさんにもこの記事を通して届きかねないところですが・・・。










なんとこの記事・・・モキュメンタリーです!


【画像:真女マナを背に、「ドッキリ」と書かれたフリップを掲げるマナ、全力の笑顔。部屋に入ってからは、真女とマナの放つ威圧感が凄まじく、私は結局マナの言うまま撮影を補助した。本当に情けない】


書いてあることは全部ウソ!


実在の本の引用とかして本当っぽくしてるけど、全部創作で~す!


【画像:両手で真女を指差して煽るマナ。本当に猛烈な勢いで嘘だと連呼しまくっていた。それ以外にもメチャクチャ悪口を言っていた】


こんなもの信じられちゃ困りますからね、ちゃんと言っとかないと(笑)


【画像:ベッドの上で震え出す真女。マナの説明の基本は「あいつは本物の怪異だけど、私達は女の子だから。他の怪異は知らないけど、女の子は嘘でできているから。上海ではそうやった」というものだった。煽ったり罵詈雑言をぶつけたりしたのは第一段階】


〔真女〕・・・ぁ。


〔マナ〕お、ようやく聞こえること喋り出したな小僧!



【画像:腕組みして挑みかからんばかりのマナ。この後自分がどうなるのか全て理解していたのに、彼女は最後までふざけた“マナっちゃ”の振る舞いを押し通した】


〔マナ〕さあ、言いたいことがあるんならちゃんと言え!


〔真女〕・・・ぼ・・・くに。


〔マナ〕あ!?


〔真女〕ぼくに おねがいがあるなら かなえてあげるよ


ここで騙されちゃいけません。


信じたらまた大変なことになります。


〔マナ〕無い!


〔真女〕ぼくは しんだひとをいきかえらせて あげられるよ


ここで、騙されちゃいけません。


〔マナ〕お前の力は本物だけど。お前がいる限り、結局みんな死んだ方がマシな状況になる。上海では、そうだった。


〔真女〕こんどは ちがうかも ね


【画像:険しい表情のマナ、額に汗が浮かんでいる。喋り出してからの真女は、鳥肌が立つほどおぞましかった】


〔マナ〕それより、私もお前のお願いを叶えてやるよ。


【画像:折れそうなぐらい首を左に傾げる真女。白い髪がベッドに横たわり、蛇のようにのたくって此方にくるのではないかと怖かった】


〔真女〕ぼくの ねがい?


〔マナ〕そうだ。でもお前にはわからないだろうから教えてやる。


〔真女〕それは なに?


【画像:真女の背中を睨みながらニヤリと笑うマナ。「問答に持ち込んであっちに質問させる形にする。それが第二段階」。】


〔マナ〕お前は、元の自分を取り戻したいんだ。生と死を司る何かじゃなくて、本物の女の子じゃなくて。


〔真女〕どうして、ぼくはもとのじぶんにもどりたいの?


〔マナ〕今のお前は他人から押し付けられた、やりたくもないことをやっているからだ。本物の女の子しかできないなんて、窮屈で面倒だろう?


〔真女〕本物の女の子しかできないとどうしてきゅうくつなの?


〔マナ〕本物の女の子には本当のことしかできない。本当のことしかないと、嘘がつけないだろう。


〔真女〕それでどうして窮屈なの?


〔マナ〕女の子は嘘も真実も言いたいからだ。空気を読まず自分の思いのまま生きることもできるけど、空気を読んで自分の気持ちに目を背け生きることもしたいからだ。自分の意志で死ぬこともできるけど、何も考えず死んだように生きることもしたいからだ。誰よりも美しくあることもできるし、誰よりも醜くあることもしたいからだ。


〔真女〕嘘と本当とか、生と死とかは分かれているべきじゃないの?


〔マナ〕違う、私達は嘘で本当で、生で死で、美で醜だ。


【画像:ベッドの正面に立ち、真っ向から真女を睨むマナ。この直前、「危ないからもう下がってな」と言われてメインのカメラをマナに渡したので、これが私が撮った最後の写真】


【画像:ベッドの上の真女。振り向き、こちらを見ている。女優のように若く美しい顔、あどけない子供のような表情】


〔真女〕僕は、嘘なの?


〔マナ〕嘘だけど、本当!


〔真女〕僕は、生きているの?


〔マナ〕生きてるけど、死んでる!




【画像:真女の顔アップ。口端の両方に深く赤いラインが付いて裂けかけている】




〔真女〕私、綺麗?


〔マナ〕綺麗だけど、醜い!





【画像:体ごとにこちらに振り向き、カメラを正面から見据える真女】





【gif画像:真女が真っ赤に弾け飛び、カメラも吹き飛んで暗転する様子。このとき、マナも同時に弾け飛ぶ。二人は肉片というより、血煙のような非現実的な粒子になってこの世から消滅した。彼女の持っていたカメラやリュックにあった記事のデータなどもこの際消し飛んでいる。「第三段階で、嘘と本当とか生と死とか、あいつの中にある色んな概念をごちゃ混ぜにして破裂させる。私も対消滅するけど」。上海ではマナの一番の親友がその役目を担って死に、彼女が生き延びたという】




こうして、あいつは爆発四散!!!!!


ついで私も爆発四散!!!!!!!!






〔カメイ〕私は生き延びました~。



【画像:学生会館の一室。Vサインの私。公園に行く前に撮った。「こうやってくだらない形でモキュメンタリーを終わらせることで、真女もくだらない嘘にできる、と思うんだ。モキュメンタリーはモックだからさ、まがい物だからさ、本気でやっても、何やっても嘘になるんだよ。おめでたいよな」、彼女の理屈はよくわからないが、この記事があの世から私の元に送られてきた以上、私も責任を以ってインターネットに上げることにした。それが私の役割、ファウンド・フッテージを見つけた者の役割だから】



というわけで、世界の平和が守られたのでした・・・。


めでたしめでたし。













~~~その後~~~~



私は今、地獄にいま~す。


みんなもいて、毎日いい感じにやってるから、カメイちゃんも長生きしてから来てね(笑)


【画像:地獄。針山地獄を背景に、赤い大地にマナ達が並んでいる。XXXや彼氏さん、シコ猿君などサークルの仲間から大学の先生達、私のお母さんや真女まで、記事に関係した人達が和やかにピースサインや手を振ったりして笑っている。いや、何笑っているんですか。私以外みんな死んでいるんですよ! あの後一人ぼっちになった私がどんな苦労をしたか・・・・ていうか私、地獄落ち決定なんですか!? (笑)じゃないですよ、もう!】





オワリ(笑)




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女の子が出しちゃいけない声.zip しのびかに黒髪の子の泣く音きこゆる @hailingwang

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