第8話 僕の音楽遍歴③~女性ボーカリストがマイブーム~
大卒後就職してから数年間、僕は音楽をじっくり聴くことをご無沙汰していました。その間は、職場の飲み会でのカラオケに備えるために当時流行していたMr.ChildrenやGLAYを聴きこむ位でした。
時間がある時は長渕剛さんや玉置浩二さんの楽曲を聴いていまして、長渕さんは2004年に鹿児島県の桜島で行われたオールナイトコンサートにも行ってきました(初めての九州上陸、初めてのオールナイトでした。夜が明けて桜島から上がる朝陽を見て感動しましたが、現地の強烈な暑さは東北人の僕には結構堪えました)。
学生時代に聴き始めた洋楽は、この頃はちょっとご無沙汰していたように思います。たまに聴いていたのはジャニス・ジョプリンとエリック・クラプトンかな。60年代~70年代のものを好んで選んでいた気がします。エリック・クラプトンは当時2、3年に一度の頻度で来日しており、そのたびに足繫くライブに通っていました。「tears in heaven」が好きで、生で演奏を聴くたびに感動していました。
いよいよ21世紀に入ろうかという頃、世間では女性ボーカリストがもてはやされ始めていました。その先陣を切ったのが宇多田ヒカルさん、そしてMISIAさんでした。彼女たちは当時日本人には難しいと言われていたR&Bを悠然と歌いこなし、新しい音楽の価値観を生み出しました。
最初に嵌った女性ボーカリストは、MISIAさんでした。
彼女の声は腰が強く、伸びやかで聴く者の心を鷲掴みするかのような迫力がありました。「忘れない日々」を聴いた時、本当に日本人が歌っているのかと思えるほどのリズム感と、どこまでも伸びる高音部、声の圧力に肝を抜かされた記憶があります。そして彼女はR&Bのみならず、「the Grory Day」のようなゴスペルや「Everything」のようなしっとりしたバラードまで幅広く歌いこなせてしまうのが凄いです。
MISIAさんを聴いた後に宇多田ヒカルさんも聴き始め、特に「Deep River」というアルバムは当時は何度も繰り返し聴いていた記憶があります。宇多田さんは当時まだ十代でしたが、ちょっとハスキーでかすれた声が大人っぽくてカッコよかったです。自分の気持ちを率直に歌い上げる歌詞にもほれ込みました。
こうして僕の中で、女性ボーカリストがマイブームになっていきました。MISIAさんと宇多田さんのほか、当時良く聴いていた女性ボーカリストは以下の通りです。
・元ちとせ
たまたま付けていたラジオから流れた「ワダツミの木」を聴いた時、僕に大きな衝撃が走りました。まるでひらひらと空中をたゆたうような歌声は、疲れた心を癒すとともに、どこか見知らぬ異国にいざなわれるかのように感じました。
奄美民謡の節を取り入れた彼女の歌い方は、美しくそして神秘に満ちたものでした。彼女の曲はレピッシュの上田現さんや山崎まさよしさんが手掛けており、特に山崎さんの作った「ひかる・かいがら」は、波が優しくさざめく南の海を想像させてくれる美しい一曲です。
・鬼束ちひろ
たまたま見ていたテレビの音楽番組で聴いた「流星群」という歌に聴き惚れ、ファンになりました。それ以来僕は鬼束さんのCDを聴きこむようになり、日比谷野外音楽堂で行われたライブも観に行きました。まだ少し寒さが残る時期でしたが、鬼束さんは裸足でステージに立ち、鬼気迫る表情で華奢な体を振り絞りながら声を張り上げながら歌い上げていて、ステージ近くの席で聴いていた僕は激しく魂を揺さぶられたような気がします。
・一青窈
デビューシングルの「もらい泣き」が好きで聴き始めました。脈略がなく、言葉遊びに満ちた歌詞と、愁いを帯びたボーカルが印象的でした。台湾出身で、アジアンポップスとJ-POPを上手く融合させた独特な雰囲気のある曲が多く、「大家(ダージャー)」のような北京語を歌詞に織り交ぜた歌もありました。
ライブも何度か観に行きましたが、盛り上げ上手でサービス精神に溢れていて、結構楽しめました。この方も、初期は裸足で歌っていたよなあ(笑)。
・柴田淳
ジャケットに写っている本人のビジュアルに目を引かれてCDを借りたのがきっかけでした(汗)。曲を聴いてみると、切なくものびやかで綺麗な声が印象的で、気が付いた時には何枚かのアルバムを買っていました。
彼女の曲の中では、ひたすら切ないラブソング「片思い」と懐かしい雰囲気の漂う「隣の部屋」、ジャズバーで歌っても遜色のない「真夜中のチョコレート」、今は亡き恋人へ思いを綴った「君へ」が好きでした。
彼女の書く歌詞はどこか刹那的で暗いけれど、本人は陽気な性格で、FM番組では楽しそうにトークをこなしていました。
・諌山実生
二十年前に「NHKみんなのうた」に登場し、幻想的なアニメとともに話題を呼んだ「月のワルツ」が好きでした。同じく「みんなのうた」に登場した「恋花火」は可憐で和風情緒に溢れ、胸キュンな一曲です。カヴァーソングも秀逸で、荒井由実の「朝陽の中で微笑んで」のカヴァーはしっとりとした大人っぽいバラードに仕上げており、ユーミンのオリジナルとは違った魅力がありました。
こうして思い返すと、当時の僕はほとんど女性ボーカリストばかり聴いていたと思います。
理由を探ると、彼女たちが当時ヒット曲を多く出していたということもありますが、仕事でどこか心が疲れていた時期であり、癒し的なものを求めていたというのもあるかもしれません。僕が好きだったボーカリスト達はみな情感を込めて唄うのが上手く、疲れた心を包み込んでくれるような、そんな感じがしました。
そんな折、僕は結婚し、妻の影響や音楽の流行の変化もあって、女性ボーカリストのマイブームは徐々に萎んでいきました。
ただ、当時聴いていたボーカリスト達の楽曲は僕の記憶に強く残っており、今も時々思い出してはCDを聴いたりしています。一青窈さんやMISIAさんは、今も新譜が出ると欠かさずチェックしています。
平成も後半になると音楽業界は徐々に配信が浸透し、Youtubeで最新から一昔前まで様々な楽曲を気軽に聞けるようになりました。
「気に入ったCDを買う、あるいはレンタルする」ということ自体が少なくなってきたように思います。
次回は、平成終わり頃から現在までの音楽遍歴について触れてみたいと思います。
トキドキ・ツレヅレ・カコイマミライ Youlife @youlifebaby
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。トキドキ・ツレヅレ・カコイマミライの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
カクヨムを使い始めて思うこと ――六年目の手習い――/烏川 ハル
★215 エッセイ・ノンフィクション 連載中 313話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます