目がない女神にメガネ

脳幹 まこと

愛を与えてるんだからこたえてよ


 今日もぼくはいとしのめがみのアパートまできた。

 ぼくは彼女が好きすぎる。ただの好きじゃなくて、大好きでもなくて、メガ好き。だれにも負けないくらい好き。彼女に目がないんだ。

 呼び鈴をならす。

「ひまちゃーん? ひまりちゃーん?」

 きたんだよ、きた。プレゼントも買ってきたんだよ、いれてよ、いれてえ。

 なんだあ、ドア開いてるじゃないか。めがみさま。ぼくのいとしのめがみさま。

 開けてみると、めがみさまはろうかでおひるねしてる。南校のブレザーに身を包んで、気持ちよさそうにおひるねしてる。

 ああ、かわいい。メガかわいい。めがみメガかわいい。

「ひまちゃん……」

 ぼくはひまちゃんにとびこむ。かのじょのおかおを見るためだ。

 ああ、いつみてもかわいい。特にそのぽかんとあいているおめめのあたりが。

 かわいい。

 かわいい。

 ぼくは彼女のそのふたつのおあなに舌をいれてやる。

 なでてやる。ゆっくりいじってやる。

 目がないめがみさまと過ごす時間はいつだってすばらしい。きっと彼女だってよろこんでいる。

 そうだよね?

「ひまちゃん、そうだよね?」

 何も言わない。

 どうして?

「うれしいよね?」

 何も言わない。

 どうして?

「うれしいでしょ?」

 何も言わない。

 どうして?

「うれしいだろ?」

 何も言わない。


……どうして?


どうして?

 どうして?

  どうして?

   どうして?

    どうして?

     どうして?

      どうして?

       どうして?

        どうして?

         どうして?

          どうして?


 何かが冷めていくのを感じる。

 何なんだこいつは。

 ぼくがこんなに愛を与えているのに。

 どんだけ失礼なんだよ。神にでもなったつもりかよ。

 ふざけるな

 ふざけるな

 ふざけるな

「なんとかいえよおおおおおお!!! あんどうひまりいいいいいい!!!!!」

 にぎりなれた彼女の首を思いきりにぎる。

 こたえてよ

 こたえてよ

 こたえてよ

 こたえてよ

 こたえてよ

 彼女はこたえなかったが、その代わりに舌をぺろりとだした。

「ひまりちゃん……」

 ごめんね。

 ただ、からかいたかっただけなんだよね。

 かわいい。

 ぼくはとんでもないあやまちをしでかすところだった。

 ゆっくりと彼女の頭をなでてやる。

 そうだ。プレゼントのこと忘れてたよ。

 ぼくはバッグからメガネをひとつ取り出した。

 彼女の顔にかけてやると、すごくバえた。

 かわいい。やっぱりめがみさまはめがみさまだった。

「ずっといっしょだよ……」

 キスをしようとくちびるを近づけると、ものすごい臭いがした。

 エチケットも守れねえのかこいつは。

 ぼくは心底うんざりした。

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