第47話 旅立ち

「リック、良かったね。ウバルリー人の星にリックの像が建ちそうな勢いで感謝していたじゃない?」

「喜んでもらえて良かった。まあ、俺の功績ってわけじゃないけどな」

「欲の皮が突っ張っていただけだもんね」

 ミリアムが口に手を当てて笑う。

「なんだよ。俺の知らない話で盛り上がりやがって」

 ヒューゴが文句を言うとミリアムが笑いながら説明した。


「そりゃ確かに投機的だな。ほぼ博打とも言う」

「そうだよね。独立系トレーダーとしてはリスクが大きいとボクは思うんだ」

 2対1では分が悪い。

 話題を変更することにする。

「しかし、外の様子を見られないというのは慣れないな」

「レムニアを守るためさ。位置を知らなければ案内しようがないだろ」

「ミリアムは分かってるよな」

「いざとなればボクはその記憶を否定する」

「え? 否定できるのは物体だけじゃないのか?」

「まあね」


 しかし、ミリアムのヒューゴへの当たりが弱くなったのは有難いな。

 サーシャさんに変な虫がつく心配をしなくて良くなったからか。

 まあ、コクピットで角突き合わされるよりは何倍もいい。

 そうこうするうちにリンシンが来て下船の案内をされる。

 ウバルリーの要塞から高速船が出港するのを観閲デッキから見送った。

 短い間とはいえ自分の搭乗していた船が出港していくのを見るのはセンチメンタルな気分になるものだがそんな暇は与えられない。


 広い格納庫の隅には俺のミレニアム号がちんまりと佇んでいた。

 船倉からアガルタベリー・ゼリーの入ったコンテナを搬出するのに立ち会う。

 実際の指示はミリアムがコンピュータを操作してどのコンテナに入っているのかを示した。

 いつもは宇宙港の荷役ロボットに任せきりなので荷主のくせに俺にはどこに何があるのか分からない。

 本当にミリアム様々だった。


 横に立っているヒューゴが大人しい。

「リック、お前いらなくね」

 いつもだったらこれぐらいのことを言いそうなもんだがぼーっとしていた。

「すっかり腑抜けになっちまったな。鼻毛まで抜かれた感じじゃないか」

「まあなあ」

「人類の半分は女性って言っていたのはヒューゴだぜ」


「それはそうなんだが、目の前に現在進行中で青春しているのを見せつけられている可哀想な俺の立場にもなってみろ。サーシャさんとは別れの挨拶すらなかったんだぜ」

「俺も挨拶はしてないよ。色々と慌ただしかったから仕方ない」

「いやあ、そんなときに2人きりでラブラブなデートをしていたリックに言われると殴りたくなるな」

「別にデートじゃねえよ。なんというか心の整理のための話し合いというかそんなもんだ」


「お前、凄いわ。その年頃だと俺はセックスのことしか考えられなかったけどな」

「そりゃ今でもそうだろ。いい加減下半身でものを考えるのをやめろ」

「そりゃ無理だ。男ってのはチンチンに支配されてるんだよ」

「主語がでかい」

「ねえ、何の話をしているの?」

 指示を終えたミリアムが戻ってくる。

「ああ。いや、別に大した話じゃない」

「そう……。リンシンが用事があるみたいよ」


 とりあえずついてきてくださいと、浮遊走路を乗り継いで連れていかれた先は何かのでかい球形のホールだった。

 促されるままに浮遊台に立つとそれが動き出してホールの真ん中に移動する。

 振り返って見るとミリアム達が小さく見えた。

 俺は浮遊台の高さと周囲の席を埋め尽くすウバルリー人に圧倒される。

 別の浮遊台に乗ったウバルリー人が俺のすぐ側までやってきて演説を始めた。

 高速船を降りる際に授与された翻訳機が左耳からその言葉を伝え始める。

 艱難辛苦を超えてウバルリー人を救うためにここまでアガルタベリー・ゼリーを運んだことになっていた。

 話が捏造されまくりである。


「我らの若き同胞の未来を救った新たな友人に深い感謝を捧げようではないか」

 小さな鈴の音が四方八方から湧き上がった。

 どんどんの大きくなった音は共鳴を起こして会場を震わせる。

 おいおい、この振動のせいで浮遊台が落ちないよな。

 びびりまくっているとピタリと鈴のような音が止んだ。

「マツダーイラ船長の功績を讃えるため、プルーリット第1勲章を授与する」

 浮遊台が動いて、演説していたウバルリー人の前に進む。

 

 この要塞の司令官から30センチほどの透明な水晶のようなものを受け取った。

 何か一言をと要請されてムニャムニャとお礼を述べる。

 くっそぉ。

 スピーチさせるなら事前に言っておいて欲しいんだよな。

 浮遊台が元の位置に戻るとミリアム達が拍手して出迎えてくれた。


「リンシンに聞いたんだけど、それ、凄く名誉なことらしいよ」

「リック、凄く立派になったなあ」

 ミリアムとヒューゴが褒めてくれるのはいい。

「リック、良かったねえ」

「船長さん凄いですわ」

 問題はこの2人だった。

「なんで、サーシャさんとラムリーがここにいるんです?」


 どうりでヒューゴの奴が復活しているわけだよ。

「あのね。リックはお友達だから一緒に行きたいってお願いしたの」

「そ、そうか」

「うんっ!」

 サーシャさんの方に視線を向ける。

「それで、サーシャさんは?」


「私が死亡したと伝わったようで、夫、いえ、元夫が別の方と結婚されていたんです。お子さんもいて。それで、円満に離婚することになりました」

「ちょっと何それ? そんなのひどいよ。ハンツさん、そんな薄情者だったなんて」

 ミリアムが悲鳴をあげた。

「仕方ないわよ」

 当人はのほほんとしている。


「だけど、一緒の船に乗っているのがいたたまれなくなって船を降りたんでしょ?」

「私は別に気にしなかったんだけどね。ハンツさん、白い目で見られていて、一緒に居ると風当たりが強いから降りてくれないかって頼まれちゃったのよ」

 はあ~。

 ミリアムが深いため息をついた。

「お姉ちゃん、どこまでお人好しなのよ。ああっ、もう!」


「ラムリーの面倒も見る必要があるし、ちょうどいいかなって」

 懐が深いというか、底無しなんじゃないか。

 こうして、なし崩し的にサーシャさんとラムリーが再び俺たちと同行することになる。

 ミレニアム号は10日ほどの突貫工事での改装を済ませた。

 乗船者が当初想定よりも2名増えた対応も急遽行われている。

 そして、俺たちはこの宇宙を侵略者から救うという新たな使命を果たすべく旅だった。


「それじゃ、ハイパージャンプするぜ」

 ウバルリーの要塞から離れて十分に加速をすると、コクピットにいる5人に呼びかける。

 ヒューゴ、サーシャさん、ミリアム、ラムリー、リンシンと順に目をやった。

 約2名ほどうんざりとした顔をする者がいる。


「そんな顔するなよ。レムニア・ドライブは緊急用なんだし。そもそも、当初の予定ではサーシャさんとラムリーが居なくて使えないはずだっただろ」

「ボク1人でもなんとかなるし」

 俺は繰り言に付き合わずミレにハイパージャンプを命じた。

 亜空間で1日ほど過ごした後にワープアウトする。

 コクピットに酷い3重奏が響き渡った。 


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 作者の新巻です。

 スニーカー大賞に応募する関係でここで一旦終了とさせていただきます。

 お付き合いいただきありがとうございました。

 

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