怪異『色なし人間』の噂
七篠樫宮
色なし人間について
「色なし人間? 透明人間とは違うのかい?」
「違うらしいぜ? 別にソイツは透明な訳じゃないんだ。ちゃんと人間って分かる見た目をしてるからこそ色なし“人間”っていう噂が生まれたわけよ」
お化けだとか怪異だとか、そういった非日常を好む彼が僕に最近流行っている怪談を話してくれるのはそう珍しいことじゃあない。
「じゃあなんで“色なし”人間なんだ?」
「色なし人間ってのはな、どっちかというと怪異の被害者なんだ」
「被害者? 怪異そのものの名前とかじゃなくて?」
「そう。色なし人間はとある怪異に出逢っちまった人間の末路さ」
今日の怪異は『色なし人間』というモノらしい。
「その怪異は出逢った人間から“色”を奪う。それは肌の色だったり眼球の色だったりするんだが、奪われたことに色なし人間自身は気付かないんだ」
「なるほどね。つまり色なし人間はその怪異のせいで“色”を失った人のことか」
「そんでだな、色なし人間ってのはよく見れば分かるんだよ。だって当たり前の色が無いんだからな」
それはそうだろう。気付かない方がどうかしている。
「とある奴が色なし人間に聞いたんだよ。『あなたの色はどうしたんですか?』ってな。
そこで初めて色なし人間は“色”を奪われたことに気がつく。
『どうして、僕の色がないんだ!』『私の色はどこに!』『アイツだアイツのせいだアイツアイツ』
色なし人間は皆んな取り乱す。そして最終的には同じ所に行き着く。
『自分の色が無いのはしょうがない。ならあなたの色をください』
聞いた奴は色なし人間に自分の持つ全ての“色”を奪われた。肌も顔も心も魂も、全ての“色”を奪われた。
残ったのは全ての“色”を手に入れた色なし人間――いや、ただの人間だ。成り代わりって奴だな」
――だからお前も色のない人間を見たら話しかけるなよ。
そう語る彼の顔には大きな穴が空いていた。
僕はそんな彼に笑いながら返す。
「なんだ、それなら僕も君も気をつける必要はないね」
怪異『色なし人間』の噂 七篠樫宮 @kashimiya_maverick
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