【KAC20246】お弁当

オカン🐷

お弁当

  一之介の住まい兼司法書士事務所の扉がノックされた。

 足首を捻挫してバレエの道を断念したあきこは、一之介が司法書士の事務所を立ち上げるのと同時に結婚した。

 兄の遼平は警察官の寮に移り住んでいて、この部屋を使わせてもらっている。


「あらっ、あきこちゃんは?」

「つわりも収まって体調もいいみたいだから出かけたよ」

「そうやったね。お友だちの紹介で保険会社の勉強会に行く言うてたわね」


 一之介はメガネを外して、書類から顔を上げた。


「何か用?」

「たいしたことないねん。ルナから電話があって、自分の部屋の荷物を処分してくれやて。何か使えるもんがあったら使ってくれて。それで見てもらおうと思って」

「わかった、言っとく」

「オトちゃんにも声かけるから日曜日に二人で見てもええな。ルナは向こうに永住するつもりなんやね」


 ナオは寂しそうに呟いた。


 すると、扉がノックされた。

 一之介の事務所は大盛況のようだ。

 ナオは来客にお茶を運ぶと静かに立ち去った。




「お帰り」

「ただいま。ナオママ聞いて」

「どうしたん?」

「勉強会のあと、お昼に仕出し屋さんのお弁当を食べられるのを楽しみにしていたのに私の分がなかったんです」

「どうして? 発注ミス」

「それが、受講生とお弁当の数は一致するのに、スタッフの人も何度も数えて、でも、4つ足りないんです」


 ナオはダイニングの椅子を引いてあきこを座らせた。


「それで、どないしたん?」

「とりあえず、これ食べといてってホカ弁渡されて。私が食べたいのは仕出し屋さんのお弁当なのに」

「そう、残念やったね。今度そこに食べに行く?」

「お弁当につられて行ったのにい」


 あきこは洗面所で手洗いうがいをした。


「何かルナが帰ってきたみたいやわ。





「ナオママ、犯人がわかったの」


 興奮気味のあきこが帰るなり言った。


「大食い選手権っていうテレビ番組あったでしょ。あれで優勝した女の人だったの。お弁当1個では足らないって、人の分まで食べてしまったの」




         了





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