主人公・神谷連が不審な医療事務データという小さな違和感から病院の暗部の迫っていくお話です。
病院独特の静けさや緊張感が醸し出され、少しずつ謎に迫り、真相が明かされていくたびに手に汗握る、最後まで気が抜けない本格ドラマでした。
堅苦しい空気ばかりでなく、クールな神谷と明るい相棒の篠田葵の軽快なやりとりはほっと笑えて、二人の絆がどんどん強まっていくところも魅力です。時々挟まる視点変更で垣間見える篠田葵の本音のギャップにぎゅっと心をつかまれてしまいます。
医療事務という分野に馴染みがなくとも、簡潔丁寧に説明せれており、するすると読むことができます。1話ずつが短いので、どんどん次々と読んでしまい、長編作品ですが読み終わりどきがなかなか見つかりません。
医療ミステリーは難しいイメージもありますが、主人公の正義感や葛藤、格好良さは、少年漫画のように王道な面白さでした。
医療情報システム課という舞台設定がまず新鮮で、電子カルテや監査ログといった専門的な題材が物語にしっかりと活かされているのが印象的です。
また、情報が小出しに提示される構成のおかげで、難解にならずテンポよく読み進められるのも魅力の一つ。
まるで自分も神谷や葵と一緒に病院の裏側を覗いているかのようなリアリティに引き込まれます。
専門知識に裏打ちされた世界観と、じわじわ積み重なっていく違和感が絶妙に組み合わさっていて、医療の現場を舞台にした作品として非常に読み応えがありました。
ミステリ好きにも、医療ドラマ好きにもおすすめしたい一作です。
これまでの医療ミステリーとは一線を画す、非常にユニークな切り口が魅力です。
まず特筆すべきは、主人公が“医療事務”という職種に就いている点でしょう。法医学医や救急医といった“いかにも”な専門家ではなく、日常の裏側で病院業務を支える立場からミステリーが展開していくのは非常に斬新で、唯一無二の視点だと感じました。
また、物語全体を支えるリアリティの強度も見逃せません。大学病院という複雑で巨大な組織を舞台に、カルテや監査ログ、薬剤の処方といった専門性の高い要素が具体的かつ丁寧に描かれています。特に、内部の権力構造や人間関係の閉鎖性が物語に重みを与えており、「実際に起こりうるのでは」という“現実味ある怖さ”が作品に緊張感を生んでいます。
それでいて、専門知識に疎い読者への配慮も行き届いておられます。電子カルテの仕様や医療用語などについても、必要な情報が自然に差し込まれており、ストレスなく読み進めることができます。
キャラクター描写も豊かで、主人公・神谷蓮の丁寧な人物造形をはじめ、周囲の同僚たちも一人ひとりに存在感があり、物語の中でしっかりと息づいています。登場人物たちの繊細な心理や立場の違いが絡み合うことで、単なる“謎解き”にとどまらない、人間ドラマとしての深みも備わっています。
そして何より、全体を通して感じられるのは、暁月先生の医療現場への真摯な眼差しと誠実な筆致です。一見地味に映る“医療事務”の世界を、これほどまでにスリリングで魅力的に描き出せるのは、深い観察と経験、そして確かな筆力があるからこそだと思います。
ジャンルの常識を軽やかに超えてくる本作、強く推薦いたします。
大学病院の医療情報システム課に異動した神谷蓮。日々、電子カルテの不具合のチェックやシステムに関する資料準備などの業務に追われながら、同時に彼はある謎を追っていた。一年半前に突然亡くなった上司が、本当にただの病死だったのかを……。
病院が舞台となる作品はよくあるが、主人公が医師や看護師ではなく、システム担当というのがユニークな本作。亡くなった上司が遺したメモを頼りに、システム調査で見つかった病院外からの怪しいログイン履歴や、発注されたのにどこにも存在しない薬品の痕跡など一つ一つの怪しい線を辿って、事件の真相に辿りつくまでの過程がとても周到で、ただ謎を解くだけではなく、大学病院という閉じた環境で、どのように罪を立証するのかまでも丹念に描いている。
ともすれば重い雰囲気になりそうな内容なのだが、その作品の空気を蓮の助手役を務める後輩の篠田葵が明るく中和してくれるのもグッド。謎解き一辺倒に終わらず蓮と彼女の軽いラブコメ要素もある、医療の現場に少し変わった角度からアプローチしていくミステリーだ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
医療系ミステリーの中でも、システム課を舞台にしたものは読んだことがなかったので、とても斬新に思えました。
亡くなってしまった主任の残したデータ…主人公の神谷はそれをヒントに相棒である篠田葵と共に捜査を始めます。
証拠を押さえたと思ったら消されそうになり、謎のアカウントの動きがあったり、犯人との静かな攻防には常に緊張感があり、誰が味方で誰が敵なのか、ハラハラしながら読み進めました。
不穏な空気の中、葵の明るくお茶目な性格とそのデータ管理能力や追跡の徹底ぶりに救われることが多く、本当に物語に欠かせないキャラクターになっています。
神谷に淡い思いを寄せているところも、健気で可愛く、思わず応援したくなってしまいます。
不気味な雰囲気作りとキャラクターの心理描写が巧みで、本当にその場にいるような臨場感が味わえます。
また、緊張感がありつつも1話1話が短めなのでサクサク読めます。
個人的な話になりますが、医療現場に携わったこともあるので雰囲気や空気感がわかりやすく、看護師や医療事務のやり取りも想像しやすかったです。
大きな病院は研修でしか経験したことはありませんが、医療従事者が働いている裏で、こうやってシステム課がデータやレセプトを保存し管理してくれているおかげで病院が成り立っているのだと、改めてその存在の重要さを実感しました。
とても面白かったです。続編も楽しみです!
素敵な作品を読ませていただき、ありがとうございました!