勇者よ、死んで逃げられると思うなよ

とりあえず、死んでおこう。

 もう何度目になるか分からない繰り返しで、俺の思考は死ぬ事が慣れきっていた。

 ダメだと思ったら、死ぬに限る。

 だって、どうせ何度だってやり直せるんだ。


 俺みたいな楽観的な人間に、を気軽に与えた神様やつが悪い。


 ◇


 俺はある日、トラックに轢かれて死んだ。

 目が覚めた時には異世界に居たわけだが、これと言って目立った能力がなかった。

 それでも、俺を召喚した王様は、俺を勇者と称えて何かと世話を焼いてくれる。

 しかし、能力は平凡。筋力もそうだ。

 お世辞にも頭がいいとは言えない俺に何をしろと言うのか……と思っていたら。


『勇者よ、お前は死ねば死ぬほどに強くなる』


 と、王様。

 何それ、強くてニューゲーム的な? かと思ったら、どうにも少し違った。


 俺にある能力。

 それは――『死に戻り』だ。

 タイムリープに近いが、要は――ゲームで言うセーブとロードだ。いつでもセーブが出来て、死んだら速攻でセーブポイントでロードも出来る。しかも、死んだ時の経験値や覚えた能力は引き継ぎが出来ると言う優れ物。

 勇者にしては地味な能力だし、努力は必須。だが、次第では確実に強くはなれるのだ。リセマラの鬼と呼ばれた俺には苦じゃ無い。


 でもまあ、死ぬ間際に痛いのが長引いて欲しくは無いので、もしもの時は即死魔法が発動する様に身体に刻んでおいたけど。

 そうやって、俺は確実に強くなっていった。俺がパーティとして認識していれば、仲間も五割程度の恩恵があるため、安心も出来る。



 たどり着いた、魔王の城――の前の最終ダンジョン。

 地下六十階層あるそのダンジョンの三十階層で、俺はひたすたに死に戻りを繰り返していた。

 それまで難なく進んできた道のりが、途端に前に進めなくなったのだ。


 ランダム配置のトラップが多い上に、死に戻る度に景色も変わる。経験値を稼いだところで、即死系トラップや、耐性貫通してくる無属性攻撃。

 俺はもう、何度死んだかも分からない。

 何度、仲間の死に様を、死に顔を見たかも分からない。


「とりあえず……死んで……もう一回……やり直して……トリ……あえず」


 セーブは三十階層。それより前には戻れない。

 いつまで、同じ景色が続くのだろうか。

 あと、何回死ねば終わるのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者よ、死んで逃げられると思うなよ @Hi-ragi_000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説