蹲る形が視界に浮かぶ。何度も何度も。

その文面からは仄暗い粒子の荒い画像が浮かびます。
不明瞭な世界は、読む者へ言いようのない不安を抱かせることでしょう。

心象風景のような車両内。
しっかりとした形を与えられない場所からはしかし、軌条を進む断続したジョイント音まで聴こえそうです。

この物語の中に描かれた人は、いつまでも駅と電車内を繰り返し乗り降りしているようです。
街の中心に、通例あるはずのない施設がある奇態な形状の街。
街に敷かれた鉄軌道には何が存在しているのでしょうか。

豊富な語彙から適切に選ばれた語句が巧みに並びます。
しかし並ぶはずの文字は、ただ整列することはありません。

独特の文字構成で形づくられた世界は読み手を呼びます。
歪な好奇心に駆られて文字を追えば追うほどに不安は募ることでしょう。
それはずっと解けないのです。たとえ物語が終わっても。

ここまで読んだ方は、この物語に呼ばれています。
あとはそう、本編読むだけです。

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