あなたとバンブー・リライアンス

壱単位

あなたとバンブー・リライアンス


 「……また……生き延びてしまった……か」

 「あの……大丈夫、ですか」

 「……ええ……なんと、か……ありがとう、ございま……ごふっ」

 「ちょ、ちょっと、うう、じゃあもう一度……」

 「……ああ、ありがとうございます……まさか、この呪われた身体を通りすがりの方にお救いいただくとは……あなたのその、お能力ちからは……?」

 「……ええ、わたしの家、代々、はらい師なんです。古代から呪いを退けることを生業としてきました。わたしにも少し、能力が。でも……あなたのような呪い、これまで、見たことがありません」

 「……ふふ……恐ろしき呪いです。由縁は、そう、平安の御代に遡り……」

 「両手の指、全部にささくれできる呪いなんて」

 「いや痛いんですよほんとにこれ」

 「まあわかります」

 「血吐くくらいですから」

 「むしろそっちが心配な」

 「ともあれ、お礼がしたい……それと」

 「ひゃっ、いきなり手握って」

 「あなたしかいない。我が家の呪いを解けるのは」

 「え、あなただけじゃないんですか」

 「一族みなすべて、ささくれの呪いを受けています。暮らしもままならない。おもてを歩くことすらできず……くっ」

 「それは……お困りですね。わたしにできることなら」

 「では参りましょう。歩いて十分ほどです。ほらもう着いた」

 「わああ、立派なお屋敷……表札は、え……笹暮……ささ、く」

 「しのぼ、と読みます」

 「ああ」

 「笹暮しのぼ家は古来、帝のおそばで禁中だいりの動植物の世話を司ってきました。笹、というのはそこに由来する言葉でしょうって話きかないで玄関入ってくんですねけっこう喰い込んでくるタイプですね」

 「お……おかえ……り」

 「あっ母さん、寝てなければならないと、あれほど」

 「今日は、ね……体調が、いいんだよごふっ」

 「えいっ」

 「ああ……身体が、動く……動くよ……」

 「なんでこの家のひと指のささくれで動けなくなるんですか」

 「息子よ……このお方は」

 「ああ、道で倒れていた僕を救ってくださったんだ。このひとがいなければ、僕はいまごろ……」

 「どうなってたんですか」

 「一本ずつ、ささくれの皮、抜いてたと思う」

 「あああああれ痛いですよね穴開きますよねじんじんしますよね」

 「おお息子よ可哀想に……ご先祖を恨まないでおくれ……」

 「このおうちのご先祖さま、なにしたんですか」

 「……実は……帝が大事にしていた獣に酷くあたったらしいのです」

 「えっ、母さん、そんなこと、僕も初めて聞いたよ」

 「もうあなたも独り立ちの時。我が家の宿命を知っておくべきだと思ってね……ふふ、素敵なお嬢さんね。大事になさい。護ってゆくのよ、あなたが」

 「わあ、脳にもささくれってできるんですね」

 「母さん、このひとは……そんなん、じゃ……ごめん、でも、嘘はつけない」

 「なにが」

 「とにかく、呪いは僕たちが破ってみせる。なにかヒントになる伝承とかないの」

 「残念だけど……ほとんど伝わってないんだよ。虐げられた動物はね、大陸からやってきたパンダさんで、なにか尖った長細い葉を食べようとしてたから、胃を壊すんじゃないかってご先祖さまが取り上げて、代わりにほうれん草とか柔らかなのばかり与えたんだけど、パンダさんはそのことを大層うらみに思って、笹をくれ、笹、くれ……っていうことばばかり呟いて、本来の寿命の倍くらいしか生きられかった……っていう、些細な情報くらいしか」

 「ああああ」

 「ちなみにそのパンダさんのお墓は庭にあるわよ」

 「ああああ」

 「あとうちの裏山には笹がたくさん生えてるから」

 「じゃあわたしこれで」

 「ここまで来たんだから! いっしょに! お供えしようよ!」

 「じゃあまあ、はい。ええと、一応、解呪かいじゅもしておきます」

 「指が! 指があ!」

 「えっ、あたしの指、つるっつる?」

 「よかったですね」

 「ほらごらん、パンダさんがもしゃもしゃ笹たべながら、空に昇ってゆくよ……」

 「うっ」

 「どうしたの母さん」

 「ま、また……ささくれが……」

 「えっ、でも、パンダさんは……」

 「……他にもご先祖さまは、禁忌を犯していてね……おささが貴重な時代にたくさん飲んじゃって、禁じられてねえ。お酒、くれ、ささ、くれって言いながら……」

 「わかった、今度はお酒だね! じゃあ、また、いっしょにあれいないどこいっちゃったんだろ」


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