僕らは、箱の中で生きている【KAC2024】

藤原 清蓮

僕を育てる箱


 そうか。

 僕ら、そろそろ卒業なんだよな。

 そうしたら、僕らはもう簡単にこの校舎には入れなくて。翌日にうっかり来ちゃっても、単なる不法侵入者になってしまうんだ。


 昨日まで当たり前だった日常は、そうやって突然「もう昨日までと同じでは、いられないんだよ」って放り出されて、終わらせられてしまう事もあるんだ。


 卒業なんて、保育園の卒園から数えたら、人生で四回目の経験なのに。

 高校の卒業って、なんか他の時と違って感慨深く思えるのは、早く大人になりたいと思っていたのに、いざ「明日から大人の仲間入りですよ」と突き放されると「いや、僕はまだ子供なんだよ」って、思うからなのかな。


 みんなは、どう考えているんだろ。

 卒業したら、大学へ進学する奴、専門学校へいく奴、就職する奴、とりあえず何か決まったと学校には報告してるけど、本当は何にも決まってない奴。それぞれで。

 それぞれに、言わないだけで不安はあるのかな。僕も、進学が決まっているけど、やっぱ不安は不安だ。


 卒業はしたいけど。

 もう少しだけ、この空間に居たいな。


 そう思ってしまうのは、やっぱりまだ僕が「子供」だってことなのかな。


 この学校という名の【大きな箱】の中で、大切にされていたんだな。


 そんなこと、中にいる時は気が付かなかった。守られて、育てられていたんだよな。

 でも、そろそろ僕らは箱から追い出される。そして、強制的に大人の仲間入りで、右も左も正しいも間違いも、よくわからないまま先を歩き出して、色んな【大切】を拾い集めて、机の上では分からなかった「生きる」ことを、自分の身体を使って学んでいって。

 今度は自分の、自分だけの【箱】を作る時がくるんだ。


 仕事だったり、家族だったり、趣味の合う仲間だったり、恋人だったり、腐れ縁の友達だったり、色んなカタチの箱を作って、自分の居場所をつくって行くんだ。


 僕らは、きっと。

 そうやって。卒業しても、それぞれの箱の中で、生きていく。





〈おわり〉

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僕らは、箱の中で生きている【KAC2024】 藤原 清蓮 @seiren_fujiwara

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