事故住宅の内見さん

秋津幻

鬱罪と書いてうつみと読む

私、鬱罪うつみ。夜な夜な愛するあの人に粉をかける女どもの後頭部にとんかちを振り下ろす事が趣味な大学生。

もともとは内見って名前だったんだけど、浮気ばっかするあの人を線路から叩き落としたいたずらのせいで脱線事故が起きちゃって大惨事。その罪悪感で鬱になって改名したの。

お家に籠って毛布を被って誰とも会いたくない、一人でいたいって神様と悪魔にお祈りしたら本当に誰にも気づかれなくなってあら大変。元々ミニマリストだったこともあって夜逃げしたと勘違いされて家が売りに出されちゃった。

内見に来る人に殺意を込めたまなざしを送っていたら、座敷童がいるって噂になってネットで大バズり。これじゃあうつみじゃなくて鬱見だよ。やかましいわ。

ひっきりなしに人は来るわ霊媒師が来ては「不治の病にかかった大学生が恋人とともに心中した霊だ」なんていうから大盛り上がり。これでまた流行に乗った女子高生が来て可哀そう可哀そうなんて言い始めちゃった。呪い殺してやろうかしら。

こんなに人が来てくれるのに全然私に気づいてくれる人がいないから、寂しくなってきちゃった。むしろムカついてきて、このとんかちを振り回したくなってきたわ。

今日もいけ好かない男子大学生が来ては「へぇベットついてんや」なんていって私の方を見つめて来たと思ったら私に気づいてぎょっとビックリ。やっと気づいてくれる人が出てきて、嬉しくなっちゃった。

「あそこに何かいませんか?」「座敷童がいるって噂ですね」「いやでも……」

なんていうから怒って不動産屋をトンカチで殴り殺しちゃったの。

怯える彼の顔をよく見たらかっこいいから、私一目ぼれしちゃった。

「うつみに来たら鬱罪さんに会うだなんて、奇遇だと思いません?」

「内見ってないけんって読むんですよ」

お後がよろしいようで。

「それじゃあ……」

「お待ちになって」

やっと会えた運命の人だもの。もう離さないから。

彼の頭に向かってとんかちを振り下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

事故住宅の内見さん 秋津幻 @sorudo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説