妹です。妹に縁談を申し込まれました。

「『精神を入れ替える』異能は、生きているものに使用すると、魂と肉体が反発し、やがて死に至るんだそうです」


 その言葉に、私は息を飲みました。


「呪術庁の者に確認が取れました。

 死者の肉体に魂を寄せるのは、あそこが専門ですから」


 それを聞いて私が思い出すのは、『日本霊異記』にある布敷大衣女の話でした。

 鬼が死んだ布敷大衣女を助けようとした結果、代わりに同姓同名の娘が死ぬことになります。しかし閻魔に見破られ、身代わりになった娘は生き返ることになるのですが、すでに彼女の遺体はありません。そこで身代わりになった娘は、まだ残っていた布敷大衣女の身体を使って生き返ったと言われています。


 死んだ身体なら問題なくとも、生きている身体だと問題がある。――呪術庁が言うのであれば、そうなのでしょう。口寄せなど死霊を呼ぶ呪術も、術者にかなり負担がかかると聞きます。

 となると、私の先程からの体調不良も、姉の体質ではなく、もしかしたら異能による副作用なのかもしれません。

 ただ、と山里さんは言いました。


「もしそうなのであれば、大佐にも影響が及ぶはずなんですが、そのような報告は受けていません」

「そうなのですか?」

「ええ。むしろ、むちゃくちゃ調子がいいそうです」


 あー。

 この身体が常日頃で、私の身体に移ったのであれば、それは調子がよいでしょう。

 姉に劣るかもしれませんが、私も日々体力作りしていましたし、何より頑丈さに関しては一般女性より遥かに優れている体です。


「呪術庁が記録しているものは、多くの場合他者の肉体を使っているものです。もしかすると、姉妹など生まれを共にするものは、そう負担はないかもしれません。

 ですが、何か違和感があれば、遠慮なく申し付けください。大佐からも、そう言いつかっています」

「わかり、」


 ました。

 そう言おうとした、その時でした。


「失礼します」


 三代さんが、執務室に入ってきました。


「……とわ様。平中将がいらっしゃいました」








「おお。咲夜くん、息災かな」


 その方は、姉の名前を呼びました。

 浅黒い肌に、白い髭を蓄えた方は、平先生のお父様です。


「お久しぶりです、将軍」

「ああ、そうかしこまらなくていい。今日は堅苦しい訪問ではないからな。挨拶ついでに、話を持ってきたんだ」


 好々爺、と言わんばかりの笑みを浮かべて、平先生のお父様は言いました。


「ところで、妹のとわくんは元気かな?」


 ……私の名前を出してきました。

 私は不敵に笑いながら告げます。


「とわですか。相変わらず、家にひきこもってばかりです。花開院に穀潰しはいらないのですが」

「おお、手厳しいね。あんまり仲が良くないとは聞いていたけれど」


 やはり、この方はですか。

 私と姉は、冷遇する姉と引きこもる妹として噂されています。その方が、お互いにやりやすかったからです。

 平先生のお父様は、姉の味方ではないということ。それなのに、この方は表に出ない妹の名前を出して、親しげに話してきます。警戒するに越したことはありません。


「実は、縁談を持ってきたんだ」

「縁談?」

「君じゃなくて、とわくんの方だよ」


 柔和な笑みの向こうには、笑っていない目がありました。



「実は、うちにも穀潰しが一人いてね。扱いに困っているんだが、どうかね? ――穀潰し同士、くっつけるというのは」


 

 



 


 

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【KAC20244】岩姫令嬢のとりかえばや 肥前ロンズ @misora2222

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