たしかに、この物語にはペンギンは一欠片も登場しません。裁断された情報が断片として散りばめられ、主人公は情報体としてのペンギンしか知りません。でもそれでいいのかもしれません。僕たち読み手はペンギンを知っています。そうです。物語を読む前からペンギンはそこにいるんです。いるんだからしようがない。情報を文章にするか、文章を情報にするか。そんなの些細なこと。ペンギンを見ずしてペンギンを語る。その脳裏にあのかわいい姿はなく、でも確実にペンギンはいる。読み進めていくうちにこのままペンギンと出逢わずに生きることを望む自分に気付くでしょう。
このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(1039文字)
ペンギンは大層可愛らしい――上記一文で始まるこの物語は、作者の方の書くとおり、ペンギン自体出てこない。どういうことか。それは実際に読んでもらうこととして。柔らかな語り口でとうとうと、染みいるように紡がれるお話は、身近な、あるいはちょびっとだけ遠い親戚のようでいて。心のうちに輪郭をともない、住みつくだろう。ぽぅと灯る蝋燭の火のような、そんな余韻に今、浸っている。
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