【Epilogue】 さよならの音

 しっかし見送りで順番待ちをするとは思わんかった。駆けこんできた半べそ眼鏡ちゃんは先輩って言ってっから一年か中坊なんかな?



 一ヶ月間の結論。


 結局、門倉の事が好きだって嫌というほど思い知った。したら門倉の顔を見れなくなって焦った。もうすぐ一緒にいれなくなんのにあぶねえあぶねえ。


 でも、それだけだ。


 爽やかで優しい門倉は、片思いしてんだってさ。アイツの気持ちを独り占めできるヤツが羨ましい。


 んだが。


 あたしは気持ちのありったけを手紙で伝えることにした。振られんのはしゃあないけど、この気持ちをウロウロさせたくねえんだ。




 笑って。

 ドキドキして。


 もやもやして。 

 落ち込んで。


 好きだってわかって。

 泣いて、泣いた。




 だからケジメはつけときてえ。いつかどっかで門倉に会った時に、顔いっぱいで笑えるようにな。

 


 あ? 

 眼鏡ちゃん、何やってんだ?

 

 順番譲ったんだから、ちらちら見んなや。


 全然喋れてねえじゃねえか。

 ほれ。


「ひう?!」

「門倉はそっちだ」


 肩を掴んで前を向かせた。


「ありがとう高梨さん」

「あ……ありがとうございますっ!」

「いい。それよりちゃんとしろ、後悔すんぞ?」


 あたしもな。


 やべ、鼻の奥がツンとして来た。

 超耐えろ、頼むあたし。


 ……決めた。


 時間もねえからちょうどいい。最後はきっちり、あたしらしいとこを門倉に見せてえわ。


「あ、ありがとうございました!」

「何もしてねえっつの」

「優しいね。子猫と一緒にいたあの雨の日からずっと思ってた」


 ホームで曲が流れ始めた。


「優しかねえよ。あっちでも頑張れよ」

「うん、ありがとう。着いたらLINEするよ。あと、落ち着いたら聞いてほしい事がある、かも」

「おけ。いつか、な」

 

 泣きたくなるような。
















 さよならの、音。
















「時間だな。覚悟しやがれ!」

「え?」

「喰らえやああああぁぁっ!」

「うわ?!」


 センベツの袋を両手で押しながら下を向いた。涙が零れ落ちる。この一か月我慢してきたあたしの気持ち。


 無理。

 やっぱもう無理だった。


「じゃあな!」


 扉が閉まる瞬間、涙を拭いて顔を上げる。


「頑張れ! 元気でな!」


 驚く門倉に、大きく手を振る。


「頑張れ、頑張れ、頑張れ頑張れ頑張れ……頑張、れ」


 門倉。

 またいつか、な。


 さよなら。
















 あたしの初恋。
















 昨日は見送りしてからダッシュで帰って部屋でギャン泣きしちまった。


 父ちゃんと母ちゃんにメシいらねって部屋閉じこもってたら、お手製牛丼メガ盛りを部屋の前に置いてったのには笑ったわ。ま、牛丼涙トッピングをヤケ食いしたあたしもあたしだがな。


 あ、ちっくしょ。

 スマホ忘れてら。


 そういや門倉のLINEに『あとで見てね』って何かリンク貼ってあったけど何だろ。けど悪い、取りに戻る気力がねえわ。帰ってから見るよ。





” これでいいのかな? ごほ、ごっほん! 初動画、緊張します  ”





 んー?

 何か視線を感じんだけど。


 マスク越しでも腫れぼったい目、目立ってんのか?

 




” 昨日引っ越しでこの街に来たんです。でも、大きな大きな忘れ物をしてて ” 





 この一か月、動画食レポも上げてねえし何なんだ? そりゃ動画撮ってる身だ。たまに声かけられた時はあったけど、感じが違う。部活女子たち、きゃあきゃあ言ってっし。





” ずっと好きな子がいました。可愛くて、ビックリするほど元気で優しい子です。でも僕が引っ越すことになって……諦めようとしてました ”





 ま、あたしには関係ねえか。……そういや門倉、手紙のこと何も言ってなかったな。スルーかよこの野郎。まあ好きでもねえ女にコクられても、って感じか、だっはっは。

 




” でも、諦められなかった。最後の一ヶ月、僕の中でその子の存在がどれだけ大きかったかを思い知っただけでした。出来たことと言えばLINEの交換がやっとでしたけど。あはは ”





 つか、門倉の好きなヤツ結局聞けんかったけど誰だったんだ? そのうちどさくさ紛れに聞いてみっか。いたたた。 





” その子は僕が街を出る日に見送りに来てくれたんです。手紙を貰いました。初めて泣き顔を見ました ”





「おはよーい……何してんだ? もう撮ってんのか?」


 あたしを見てみんなが一斉に踊り始めた。

 何だコイツら……。


 ん? これって何だっけ、頭が働かん。





” 僕のことで泣いてくれたことが嬉しくて、こんなに好きなのに諦めなきゃいけないのが悲しくて。そんな複雑な気持ちで手紙を読んだんです。そうしたら、そうしたらですよ? すごいことが書いてあったんです! でもその子、何か勘違いしてて。なので! ”





 あー、フラッシュモブ? 誰かを祝う時に、通行人が踊り出すドッキリ……んん?


「まさか、あたしの失恋祝いじゃねえよなあ?」


 いい度胸してやがる。

 

「ちっげーし! 椅子持ち上げんな!」

「ほお、机がいいか」

「もー。ゆちか門倉君の動画見てないの?」

「動画? いやスマホ忘れたんよ」


 何だよ、門倉も動画やんのかよ。知らんかった。だったら教えてくれたっていいのによ。


 …………そんなもんか。


 ダメだ、またヘコみそうだ。

 泣くぞコラ。





” 次に会いに行く時まで我慢できないので、今この動画で宣言します! 聞いてください! ”





「ふふふ、ほら見て」

「はあ。どらどら」


 ……。

 ……………?





” 僕は! ”





 !

 ?!!


 か、門倉ぁ!!


「何してくれてんだああああああっ!!」

「「「「『動画で告白』! おっめでとー!」」」」

「ぎゃあああ! こんなん見てんじゃねえよ、貸せ!」

「あああ! 俺のスマホー!」

「いいじゃない。今は貸してあげれば?」

「……んだな。ま、よかったよかった」

「「やーい、フラれ虫ー!」」

「てっめえらあああああああ!」

「「にっげろー!」」

「うふふ、アツシも頑張ったね☆」



 ヤバい。

 ヤバい。


 顔がにやける。

 涙止まんね。


 見せて。


 もっと見せて。


 もっともっと、好きって言って。


 でも本当にあたしでいいのか?

 

 本当に?

















” 高梨悠千花たかなし ゆちかさんが、大好きです! ”






























 え? まさかこれ。

 あたしもやれってか?


 ………や、ややや。

 やったらあああああああああ!!!


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【カクヨムコン10短編】『【新】ゆちか、さよならの三分前。』 マクスウェルの仔猫 @majikaru1124

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