第9話 それから
衝撃から一夜が明けて。私は今日も学校に来ていた。
なるべく真城杜兄弟を視界から外して授業をこなし、ようやく昼休み。
「私、パン買ってくるから先食べてて」
「いってら〜」
いつも昼食を共にしているメンバーに声をかけ、教室を後にする。渡り廊下に設置されたパン売り場は既に黒山の人だかりだ。
私はこのパン購買の混雑が結構好き。上手く人垣をくぐり抜け、目当てのパンを購入できた時は胸がすく。
今日は限定のチョココロネとマヨコーンパンをゲットして上機嫌で教室への道を戻っていく。途中、生徒玄関横の自販機でいちご牛乳を買って自販機前で私が小銭を探っていると、
ピッ。
突然背後から伸びた手が百円玉を投入し、いちご牛乳のボタンを押した。
「はい」
長身を屈め、取出口から紙パックを拾って私に差し出したのは……眼鏡に校章入りワイシャツ姿の真城杜律希君。
「少し話せるかな?」
柔和な微笑みで問われて、私は怪訝そうに眉間にシワを寄せる。
「君といると目立つから嫌なんだけど」
なにせ学校の有名人ですから。
「じゃあ、目立たない場所に行こうか。お互い、聞かれたくない話題もあるし」
……ものすごく気の進まないお誘いだけど、私に拒否権はないんだろうなぁ。
連れてこられたのは西校舎。ここは音楽や家庭科など教科ごとに使う特別教室ばかり入っている建物なので、休み時間は生徒があまりいない。静かな廊下の突き当りには、律希君と同じ背格好の開襟シャツの彼が立っていた。
「……今日は戸籍通りなんだ」
私の呟きに、奏斗君は苦笑した。
「で、何の用?」
ぶっきらぼうな私に、彼らは困ったように眉尻を下げた。
「昨日は脅すようなこと言ってごめん」
「沢井の秘密を暴くようなマネはしないから。今までどおり普通に接してくれ」
双子の謝罪に、私は、
「嘘。もう私のこと調べてるんでしょ?」
「そんなことは……」
「どーでもいーよ」
慌てて否定する奏斗君の言葉を私は遮る。
「元々脅す必要もなかったんだよ、最初から私に勝ち目はない。学校での信頼度は私より
『律希』と『奏斗』という解り易い『個性』を創って、人々に定着させた。しかも外見が似ているのは織り込み済み。だから私が入れ替わりの事実を叫んでも、一笑に付されるだけだ。
「でも、私は違う」
重い息を吐き出す。
「私は大衆の圧に簡単に潰されちゃう人間だから、物陰に隠れてひっそりと生きていきたいの。君達は目立ちすぎる。だから私は君達に近寄らないし、関わらない。だから君達も私に関わらないで」
二人は顔を見合わせて、
「「わかった」」
コクリと頷いた。
さあ、これで真城杜兄弟との数奇な縁もここまでだ。
私は彼らを置いて踵を返し、教室へと戻った。
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