第6話 運命の日(1)

 翌日、私はいつものように学校に来た。

 始業前の少し早い時間、まだ数人しか生徒がいない教室には真城杜兄弟の姿もあった。普段から律希君は早いけど、遅刻常習犯の奏斗君まで来てるのは珍しい。

 私が自分の席で授業の用意をしていると、


「よお、沢井」


 急に大股で『彼』が近づいてきた。


「昨日、ノートありがとな。律希から受け取った」


 ニッと人懐っこく笑う『彼』は奏斗君の格好をしてるけど……。

 ……この人、昨日私がノートを手渡した律希君ご本人だ。


「おはよう、真城杜君。無事に届いて良かった」


 内心冷や汗を垂らしつつ、私は笑顔を返す。

 始業のチャイムが鳴ったら、いつもの一日の始まり。無難に午前の授業をこなし、昼休みは机を寄せていつもの五人でランチタイムだ。


「わぁ、真梨枝のお弁当美味しそう」


「今日は小学生の弟が遠足で、ママが気合い入れて作ってくれたの」


「いいなー、うちは冷食ばっか」


「冷食美味しいじゃん。あたしはちっちゃいクリームコロッケが入ってると嬉しい」


「沢井さんはいつも購買のパンだね」


「うん。パン好きなんだ」


 とりとめのない会話に無難に参加しつつ、私がメロンパンの袋を開けようとした……その時。


 ガタッ!!


 不意打ちの衝撃に、椅子から転げ落ちそうになった。


「ど、どうしたの、沢井さん!?」


「大丈夫!?」


 突然バランスを崩した私の顔をみんなが心配そうに覗き込んでくるけど、


「な……なんでもないよ」


 平静を装いつつ、微笑みながら椅子に座り直す。

 ……本当はなんでもなくないんだけど。

 私はチラリと教室のドアを見る。人の出入りの多い昼休み。四限の終わりのチャイムと同時に真城杜兄弟が連れ立って外に出ていったのは気づいていたけど。なんと、戻って来た時には兄と弟が入れ替わっていたのだ!

 ……学校で交代したのは初めてだぞ……。

 うっかり驚愕の叫びを上げそうになっちゃったよ。

 でも、やっぱり周りは誰も気づいてないようで、みんな無反応だ。

 心臓に悪いことしないでよ、真城杜兄弟。

 まあ……これも私の妄想かもしれないしね。

 それから私は、何食わぬ顔で残りの時間を過ごした。

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