第5話 疑惑(兄弟視点)
(マズい、マズい、マズい!)
――彼は焦っていた。
玄関の鍵を開け、
「あら、ぼっちゃま。おか……」
家政婦に挨拶もせず階段を駆け上がる。そして、ノックもせずに二階の角部屋のドアを開けた。
「大変だ、リツ!!」
ネクタイをきっちり締めた眼鏡姿の『真城杜律希』は、部屋に飛び込むなり叫んだ。驚いたのは、部屋の中にいた人物だ。ヘッドフォンをしてベッドに寝転んでゲーム機で遊んでいた彼は、驚いて跳ね起きる。
「どうした、カナ。そんなに慌てて……」
不思議顔で悠長にヘッドフォンを外す同じ顔の彼に、眼鏡の彼はガシッと両肩を掴んだ。
「……バレたかも」
「へ?」
「俺とお前が入れ替わってるのがバレてるかもしれない」
「なんだって?」
途端に表情を険しくする彼に、眼鏡の彼はブツブツと言い募る。
「俺の勘違いならいいが。でも確かにあいつは俺を認識してた。昨日の俺が『奏斗』だったって。そうじゃなきゃ、あんな言い方しない……」
「なあ、カナ」
憔悴した眼鏡の彼に、もう一人が諭すように問う。
「一体、誰にバレたんだ? よくつるんでる男子の誰かか?」
「いや……同じクラスの沢井」
眼鏡の回答に、もう一人は黒目を斜め上にしながら思い出して、
「沢井さんって、あの存在感も特徴もないぼやっとした女子?」
「そうだ。あの空気みたいなモブだよ」
大概失礼な二人だ。
「でも、なんで沢井さんが? 特別な接点があったっけ?」
「いや。今日の放課後、教師のパシリで俺に話しかけてきて……」
彼は度のない眼鏡を外しながら、
「『今日の律希』が『昨日の奏斗』だって知ってた」
「……嘘だろ」
愕然とゲーム機を落とす。
「信じらんない。何年も巧くやってきたのに。親にだって区別がつかないのに。どうしてたかが二ヶ月前に知り合ったクラスメイトが気づくんだ?」
「わからない。でも言いふらされたら厄介だぞ」
「だからって、迂闊に動くのは危険だ。まずは沢井さんが俺達が入れ替わってることを知っているという確証がないと」
「じゃあ、どうする?」
「試してみよう」
双子は頭を寄せ合い、作戦を立てた。
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