第24話 竜王様、依頼を受ける


 アズサちゃんが一緒に住み始めて数日が経った。

 アズサちゃんという財布――げふん、げふん、財源もとい心強いスポンサーを得た私達は自宅の快適度向上に乗り出すことにした 。

 具体的には家具の購入。元々ポアルとミィちゃんの、それもボロボロだった家具しかなかったからね。私が魔法で戻したけど、人数も増えたし新たに揃えることにした。


「私とアマネさんのベッドは一つでいいですよ! ダブルベッドにしましょう! そうしましょう! 」

「……いや、普通に一人一つにしようよ」

「がーん!」


 ていうやり取りも何回かあった。

 勇者の知名度は色んなところで便利みたいで、王都の家具屋さんも一流のところを紹介して貰った。

 こうして私達の住処はよりよい環境にグレードアップしたのだ。

 ふかふかのベッドって最高だね。もう一生、ベッドの上で寝ていてもいいかも。

 ポアルも最初は慣れない感じだったけど、今ではアズサちゃんと普通に会話している。

 ミィちゃんもアズサちゃんを気に入ったみたいで、たまに膝の上に乗ったりしてる。仲良きことは良きことだね。


「いやぁ、凄く健康的。これこれ、こういうのでいいんだよ……」

 

 しみじみとそう思う。

 竜王時代は常に同族同士の醜い争いで心休まる暇もなかったからなぁ。

 健やかな心と体は、安らかな休暇によって育まれるのさ。朝日を浴びながら、布団から出るといい匂いがしてくる。台所へ向かうと、アズサちゃんが朝食の準備をしていた。


「いやぁ、アズサちゃん、いつも悪いね」

「いいんですよ、私が好きでやってる事ですから」


 朝食の支度はいつもアズサちゃんが早起きしてやってくれる。

 ついでに私達のお弁当まで作ってくれるし、夜帰りが遅い時には作り置きもこなす。

 掃除も洗濯もパーフェクトだ。アズサちゃんはきっといいお嫁さんになるだろう。その事をアズサちゃんに言ったら、顔を真っ赤にして照れていた。



「――遠征?」


 そんな感じで何日か経ったある日、朝食を食べていると、アズサちゃんが話をし始めた。


「はい。騎士団長さんと話し合いまして、そろそろ一段階上のモンスターと戦っても大丈夫じゃないかと言われまして。王都から少し離れた場所にある『不朽の森』ってところに行くことになりました」

「へぇー、『不朽の森』って聞いたことあるよ。貴重な薬草が獲れる場所だって」

「フフフ草やリバの実。どっちも回復薬の原料になるってアナが言ってた」

「おー、ちゃんと覚えてたね、ポアル。偉いよ」

「むふー♪」


 私がポアちゃんを撫でていると、アズサちゃんがむぅっと頬を膨らませる。

 ……もしかして撫でて欲しいのかな?


「……撫でて欲しいの?」

「えっ!? いや、そんな……わ、私は別に子供じゃないんですから撫でられたところで――………………………………お願いします」


 ものすっごい葛藤があったね。

 意地とかプライドとか全部天秤にかけて欲望が勝ったぽいね。


「遠征頑張ってね、アズサちゃん」

「えへへ……頑張りますぅ……」

「みぃー?」


 そんな私達をミィちゃんが不思議そうに見つめていた。


「なので一週間ほど、留守にします。一応、保存のきくおかずを作り置きしておくので、分けて食べてくださいね。足りない分の食費は置いていきますから」

「うん、ありがとう」

「きをつけてね、あずさー」


 自分がいない間の注意事項を話して、アズサちゃんは遠征に向かった。

 勿論、移動はダイちゃんだ。

 すっごい早かった。

 台座すげー。


「それじゃ、私達もお店に行こっか」

「いく!」

「みぃー」


 身支度を整えて、私達もアナ店長の魔道具店へ向かった。

 ここ最近、私の魔道具作りの腕前は飛躍的に上昇した。

 パーツを握りつぶさないし、魔石に間違って自分の魔力を注入もしない。『竜皇の瞳』も発動しない。

 私だってやればできるんですよ。なんてったって私、竜王ですからっ。

 この数日で簡単なパーツの組み立てや掃除なんかの雑用を任せて貰えるようになったのだ。最初の頃に比べれば飛躍的な進歩と言えよう。

 ……ちなみにポアルは店頭に並べられるような魔道具をいくつも任されている。

 べ、別に羨ましくなんてないもんっ。


「そう言えば、ポアルちゃんは冒険者の資格も持ってるのよねぇ?」


 ふとアナ店長が話題を振る。


「ん? ある。これ!」


 ポアルは冒険者組合で貰った銅級冒険者のタグを見せる。首飾りになっていて、先端に銅のタグがぶら下がっている。

 冒険者の等級は銅級、銀級、黒銀級、金級、聖金級の五段階に分かれているらしく、銅級はその一番下。いわば見習いだ。

 銀級で普通、黒銀級が一人前で、金級はエリート、聖金級は国家戦力級と言われているらしい。

 実際、冒険者の七割近くは銀、黒銀級が占めるらしく、聖金級は大陸全土に現在三人しかいないという。

 お隣の帝国に二人、その向こうの皇国だかに一人いるんだとか。 


「リリーちゃんが興奮してたわよぉ。ハリボッテ王国初の聖金級が生まれるかもしれないって」

「リリー?」

「冒険者組合の受付の子よ。名前、聞いてなかったのね」

「ああ、あの子かぁ」


 その前に会った黒ハイエナだかいう人たちのインパクトが強くて忘れてた。


「それで、ものは相談なんだけど、私から二人に依頼をしたいの。お願いできるかしら?」

「依頼?」

「いいぞ。アナにはお世話になってる。私にできることならやる」

「あら、嬉しいわね」

「むふー♪」


 アナ店長に撫でられると、ポアルは嬉しそうに目を細める。


「実は回復薬を卸して貰ってる薬師組合の方で素材が少なくなってるみたいなのよ。それでいくつかの材料を取って来て欲しいって依頼されてるの」

「アナ店長がですか?」


 魔道具店の店主なのに?


「私も一応冒険者資格は持ってるからねぇ。でもぉ魔道具の方で大口の依頼が入っちゃって手が離せないのよぉ。それで二人にお願いできないかなって」

「ああ、なるほど……」


 そこでふと私は首を傾げる。


「あの、私は冒険者資格持ってないですよ」


 魔力無し判定なので。


「うふっ、そうねぇ。だから表向きはポアルちゃんに依頼って形になるけど、別に他の人が付いていっちゃいけないって決まりはないのよ。実際、冒険者のパーティーには色々事情があって資格を持ってない子も意外といるの。報酬や揉め事も多いからケースバイケースだけど……」

「はぁ……そうなんですね」


 するとアナ店長の眼が一瞬、鋭くなる。


「そもそもアマネちゃん。本当は魔法が使えるんでしょ? オネェさんの眼は誤魔化せないわよ?」

「ッ――気付いて……?」


 動揺する私に、アナ店長はクスクスと笑みを浮かべる。


「うっふ。嘘が下手ねぇ。余計な詮索しないけどぉ、もう少し世渡りの仕方を覚えた方がいいわよ? 世の中、良い人ばかりじゃないんだから、ねっ」

「……はい」


 上手く隠してたと思ってたけど、全然ばれてたみたいだ。凄いな、アナさん。竜界の竜より全然上手うわてだ。

「それで取って来て欲しい素材ってなんだ?」


 すっかりやる気になったポアルが手を上げて質問する。


「フフフ草とリバの実よぉ。カプチューの花も少し足りてないらしいわぁん」

「全部、不朽の森で取れる素材ですね」

「あずさが遠征で行くって言ってた場所」

「あら、ちゃんと勉強してるわね。えらい、えらい」

「むふー♪」


 撫でり、撫でり。

 ポアルもにっこり。私もにっこり。


「確かに不朽の森で全部採れる素材ねぇ。でも不朽の森だと奥までイかないと採れないのよぉ。その少し手前にある貴腐ヶ原草原でも素材は採れるからそっちにイってちょうだい」


 ……なんかちょいちょい発音がおかしい気がするけど気のせいかな?


「貴腐ヶ原草原までは馬車で数時間掛かるから、日が落ちるまでには帰って来れるわよ。荷物や地図はこっちで準備してあげるからよろしくね♪」

「わかりました」

「わかったー」


 こうしてアナさんからの依頼を受け、私達は貴腐ヶ原草原に向かう事になった。

 薬草採取か。

 楽しみだなぁ。

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