第2話 竜王様、異世界に召喚される

 という訳で、やってきました人間界。


 いやぁー懐かしいねぇ。初めて来たけどさ。

 ちゃんと召喚されたみたいだ。これでしばらく休むことが出来る。

 ていうかここどこだろう?

 てっきり目の前には澄み渡る青空と緑が茂る丘陵が広がっていると思ったのだが、周囲には薄暗い石で造られた壁と床が広がっている。

 ……人間界だよね、ここ?


「せ、成功しました! 姫よ、勇者召喚の儀は成功です!」


「ええ、これで魔族の侵攻を食い止められますわ!」


 ん、誰じゃい?

 声のした方を見れば人間が居た。

 ……人間だよね? 昔お父さんに寝物語に聞かせてもらった人間とは随分と容貌が違う。

 人間ってのは全身毛むくじゃらで石の槍を片手にマンモスとか獲物を狩る感じの生物じゃなかったっけ? 

 だが目の前の人間(仮)は随分と毛も体色も薄い。竜族とはかなり形が違うから多分、合ってるとは思うけど自信がない。


「……ここは? 私、さっきまで教室に居たのに……?」


 おや、隣にも人間が居た。

 こっちは髪の色がずいぶん 違う。

 たぶん 、人間の雌……かな? 

 胸の部分に膨らみがあるし、匂いが甘い。

 物知りの石竜のチーちゃんが人間を見分けるコツは体の凹凸と匂いだって言ってたし。

 しかし人間ってホントに鱗無いんだね。そんな柔らかそうな肌で不安じゃないの?

 それに脱皮した皮膚をそのまま身に着けてるなんて、衛生観念はどうなってんだ?


「というか、これどういう状況……?」


 あ、そういえば さっきのアレは召喚の魔法陣だった……。てことは、この子も私みたいに召喚されたんかな?

 あ、こっち見た。


「あ、ひょっとしてあなたも――ッ!?」


 こちらを見た瞬間、彼女は顔を真っ赤に染めた。

 というか、目線が随分と近いな。人間って確か私達竜族に比べてかなり小さい生物じゃなかったっけ?


「あれ……?」


 そこで私はようやく自分の体の異変に気付いた。


「なっ……なんだこりゃあああああああああああああああああああああああ!?」


 あの紫水のように輝く鱗が無くなってる。

 大理石のような硬く白い爪も無い。

 広げればその輝きは竜界で最も美しいと言われた四枚二対の翼も無い。

 角は……あ、角はある。あるけど、なんじゃいこの頼りない感じは!

 こめかみからちょこんと生えてるだけじゃないか!

 尻尾も……なにこのずんぐりとしただらしない尻尾は!? デブ竜の尻尾じゃないか! 私これでも標準体重はきちんとキープしてるんだぞ? ……いや、たまにちょっと増えるけど。


「これ……ひょっとして私、人間の姿になってるの……?」


 想定外だ。まさか容姿が人間の姿に変化してるなんて。


「…………まあ、別にいっか」


 これはこれで面白そうだし。

 なんでも魔法で出来る現代竜界において、あえて不自由を楽しむのも、休暇における大事な心構えの一つ。

 甘んじて受け入れようこの容姿を。いや、本音を言えば翼は欲しかったし、尻尾と爪だけでももうちょい何とかならんかったのかと思わなくもないけど。

 それにしてもこれって多分あの召喚魔法の影響だと思うけど、あんな旧式の魔法で私の体に干渉するなんてやるじゃないか。あとで解析してみよーっと。


「な、なななななな……」


「?」


 てかさっきからこの子はどうして震えてるんだろう?

 寒いの? そりゃそんな鱗もない肌じゃ寒いよね。分かる分かる。


「服! なんでアナタ、服着てないんですか!?」


「……へ?」


 人間は服を着る。

 全裸の私はそんな当たり前のルールすら知らなかった。


 ……あれ脱皮した皮じゃなかったんだ。

 

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