第4話 竜王様、異世界のテンプレに遭遇する
その後、私達は姫様らに案内されてこの国の王様っていう偉い人に会わされた。
長ったらしい挨拶とか回りくどい言い方だったけど、要約するとこの世界では人と魔族っていう別の種族が戦争をしていて、私達は人を救う勇者として呼ばれたらしい。
長ったらしい話を終えると、王様はさっさと席を立って居なくなってしまった。
「そういう事なのですわ。突然このような事を言われてさぞ混乱されている事でしょう。ですが、どうかお願いしますわ。私達をお救い下さいませ、勇者様」
姫様が頭を下げる。
「姫様!? い、いけません。王族がそんな軽々しく頭を下げるなど」
んで姫様の周りの人達が慌てる。
「ふーん。要は喧嘩の仲裁をしてほしいってことかな? いいよ、それくらいならやってあげても」
竜界でもやってたことだし。
この世界には休暇としてやって来たけど、そのきっかけを作ってくれた手前、最低限の義理は果たしたい。
異種間の喧嘩の仲裁というのは初めてだけど引き受けますとも。
働きたくないけど。もうめっちゃ面倒だけど仕方ない。
「いや、アマネさんはどうしてそんなに偉そうなの? ていうか、なんてテンプレ展開……。勇者召喚とかまさかホントにあるなんて信じられない……ワクワクするじゃん……!」
アズサちゃんは茫然としながらも、どこか目を輝かせている。
そう言えば彼女の居た世界では、魔法や別の世界というのは想像や空想の産物とされていたんだっけ?
魔法が存在しない世界、か……。なかなか興味深いね。
あ、ていうか私も彼女と一緒に来たという設定だった。
あんまり落ち着いてたりするのはよくないかもしれない。よし、ここはアズサちゃんみたいにした方がいいだろう。
「えーっと。う、うわー、凄イナー、トッテモ驚イタナー。ワクワクスルー」
「……あまり驚いているように見えませんが?」
ちっ、この姫様は中々に鋭いな。私のこの完璧な演技を怪しむなんて。
「そういえば自己紹介が遅れましたわね。私はパトリシア・ハリボッテ。このハリボッテ国の第二王女ですわ。パトリシアとお呼び下さいませ」
「……姫様って名前じゃないの?」
「ふふ、アマネ様は面白い事を仰りますわね。姫とは身分を表す言葉で名前ではないのですよ?」
あ、そうなんだ。
「アマネさんってひょっとして外国に住んでたんですか? 日本語が上手だから私てっきり……」
ヤバい。アズサちゃんからの疑わしき眼差し。
「え、あ、いや、その……うん、そんな感じ。えっと……アキハバラってところに住んでたんだ」
「……思いっきり日本じゃないですか。あ、そっか、留学的な……。まあ、詳しくは聞かないですけど」
あっぶねぇ……。危うくボロが出るところだった。
だが流石、私。とっさの機転で乗り切ったぜ。
……乗り切ってるよね?
「そういえば、そもそもなんで私達言葉が通じてるんです? 異世界なのに?」
「え?」
言葉が通じるって普通の事じゃないの?
しかしパトリシアちゃんはよくぞ気づきましたという感じに笑みを浮かべる。
「流石、アズサ様。鋭いですわね。言葉が通じるのは勇者召喚の魔法によるものなのです。勇者様には召喚された際、この世界の言葉が通じるように魔法が掛けられるのですわ」
「へぇー、便利だねー」
てっきり同じ言語なのかと思った。しかしやるじゃないか、召喚魔法。旧式のくせに私の体を人間に変えるだけでなく、言葉にまで影響を与えるなんて。褒めて遣わす。
「すごい……こんなご都合主義まで……テンプレ過ぎる……。ここまでテンプレだと次はきっとアレがくるのかな?」
アズサちゃんはなんか興奮した様子だけどどうしたんだろう?
「ですが、勇者召喚は誰でも出来るわけではありませんの。王族の血を引き、更に莫大な魔力を消費するこの召喚の杖を使いこなせる者でなければなりません」
そういってパトリシアちゃんは先端に赤いでっかい宝石が付いた杖を仰々しく掲げる。そういえば、あの杖、ずっと手に持ってたね。
「姫様は莫大な魔力を有し、この国始まって以来の天才と謳われた魔法使いなのですよ。姫様が居なければ、勇者の召喚は出来ませんでした」
姫様の周りの人が補足すると、姫様がちょっと自慢げに鼻を鳴らす。
「……成程、確かに先端の宝石に召喚魔法の術式が組み込まれてる。旧式だけど」
思わずぽそっとそう呟くと、パトリシアちゃんが反応する。
「? アマネ様、今なにか仰りまして?」
「あ、いや、なんでもないよ。パトリシアちゃんは凄いなーって」
「パ、パトリシア、ちゃん……?」
ポカンとするパトリシアちゃん。くわっと目を見開く周りの人たち。
「き、貴様! 姫様にそのような呼び方! いくら勇者様と言えど不敬であろう!」「そうだ! 姫様に対しなんと無礼な!」「身の程をわきまえろ! 異世界人風情が!」
えぇー何この人達。
名前で呼んでいいって言ったのはそのパトリシアちゃんじゃないか。
「ふ、ふふ……そんな風に呼ばれたのは子供の時以来ですわ。ま、まあ好きに呼んでいいと言ったのは私ですし……ぜ、全然気にしてませんわ。えぇ全く……」
なんかマユをぴくぴくさせるパトリシアちゃん。
するとアズサちゃんがぽそっと耳打ちしてくる。
「……アマネさん、今のうちに謝っておいた方がいいよ。こういう中世ヨローッパ風の世界って現代社会みたいに礼儀に寛容じゃないからさ。下手に現代理論無双で論破しちゃうとかえって面倒なルートになるんだよ。追放系とか成り上がり系は二周目以降に楽しむもの。まずは王道テンプレルートを楽しむ。基本を押さえてこその変化球。頭下げて済むならそれに越したことはないんだよ」
「……んー、確かに……」
謝って済むなら竜王はいらないって竜界ではよく言われてた。竜のあいだでは基本、謝ったほうの負けなのだ。だから負けず嫌いの竜は絶対に謝らない。
しかし謝って済むならそれに越したことはない。私が働かなくて済むし、余計な被害も出ない。
というか、追放系とか成り上がり系って何? アズサちゃんは何を言ってるの?
「えーっと、その舐めた口きいてごめんなさいです」
「い、いえ……お気になさらずですわ……」
おっほんとパトリシアちゃんは咳払いをする。
「と、ともかくお二人には勇者として魔族と戦って欲しいのですわ。それに申し訳ありませんが、魔族の王――魔王を倒さない限りお二人を元の世界へ帰す事も出来ませんの」
「……? 魔王を倒す事と元の世界に帰ることに何の関係が?」
「帰還の魔法陣は魔王だけが持つ秘術なのです」
「え、じゃあそれ倒しちゃ駄目なんじゃ?」
魔王だけが帰還の魔法を知ってるのにそれを倒すのは矛盾してるのでは?
するとパトリシアちゃんは妙に慌てた様子で説明する。
「ま、魔王を倒せば帰還の魔法陣が手に入るのですっ。そういう事です!」
「なるほど、そういう事ですか」
「そうなのです。そういう事なのです」
あれ?
これ魔王倒さない方が私にとって都合がいいんじゃない?
だって私竜界に戻るつもりはないし。
少なくともあと三百年は。
(ていうか、なぁーんか怪しいなー……)
そもそも転移や召喚の魔法陣は通常往復でワンセットだ。それをわざわざ二つに分ける理由がない。ましてやあの魔法陣は一方通行の旧式だ。
「うーん、これひょっとして帰還方法云々は私達を魔族と戦わせるための方便なのかも……」
隣でアズサちゃんがぽつりと呟く。
「そうなるとこれ実は人間か王族側が悪いパターンなのかな? それなら早目に魔族とのパイプを繋いで共闘ルートとか……。もうちょっとシナリオが進んでからじゃないと判断付かないか……」
「アズサちゃん、何をブツブツ言ってるの?」
「あ、いや、なんでもないよ。ちょっと考え事をしてただけ。私、こういう時の為に色々と
アズサちゃんはぱたぱたと手を振る。
なんでもないなら別にいいけど。
まあ、私としては休暇を満喫できればそれでいい。この偶然手に入れた機会を不意にするわけにはいかない。
「では、さっそくお二人の魔力を調べさせてもらいます。こちらの水晶に手をかざして下さい」
姫様がそう言うと、配下の者が手のひら大の水晶を持ってくる。
「これは?」
「手をかざした者の魔力を調べる水晶です」
「魔力を調べる? 手をかざしただけで分かるんですか?」
「はい。この水晶に手をかざすだけで、その者の持つ魔力の質や量、性質を調べる事が出来ます。さあ、お手をかざして下さい」
「ドテンプレきたーーーーーーーーーーー!」
うぉ、声でっか。見ればアズサちゃんが凄く目を輝かせていた。
「あ、アズサちゃんどうしたの? そんな興奮して?」
「いや、だってアマネさん、魔力測定ですよ! どんな異世界ファンタジー物でもお約束の魔力測定! ただのテンプレじゃない。汎用性の強さから何度でも擦られ続けるド級のテンプレ。ドテンプレなんです! うわぁー、凄い。本当に水晶なんだ。かっこいいー……」
「…………あ、うん」
なんかもうよく分かんないからそれでいいや。うっとりと水晶を眺めるアズサちゃんに私はそれ以上何も言えなかった。あとパトリシアちゃん達もドン引きしてるから早く正気に戻った方がいいよ。
それにしても 解析魔法ね……。
その者が持つ魔力の性質や量を調べるって――あれ?
ちょっと待てよ?
これ下手したら私が人間じゃないってバレるんじゃね?
早くも身バレの危機じゃないか。
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