冬の帳村と呼ばれる小さな村の妖精たちの庭と呼ばれる児童養護施設で新奈は育った。村の人々は雪が降ると全ての記憶を失ってしまう。そんな中でただ一人、新奈だけが記憶を失わなかった。
大切な人との時間が雪が降っただけで失われてしまう。その事実を知るのは自分だけ。その残酷な現実に死を願う程追い詰められる新奈。彼女を支えているのは、恋人である沙羅という女性だった。女同士で愛し合うということに多くの人が嫌悪の目を向けるが、二人の愛は揺るがない。
物語の序盤は新奈の悲しみが切々と語られ、非現実なおとぎ話のように展開していきます。けれど、村や施設の謎が少しずつ解明されるにつれ、物語を彩っていたパーツが繋がりSFファンタジーと姿を変えながら謎を解いていきます。
そこからは、肌がヒリヒリとするようなスリリングな展開です。
前半のゆったりとした展開から急展開を迎えるわけですが、違和感を感じないのは丁寧に配置された伏線の賜でしょう。それらが余りにも美しく配置されているので、読者は伏線だと気付かず、後半に驚かされることになります。
女性同士の愛も、百合ものを狙ったのかなと最初は思いましたがそうでは無いと気付きます。この物語では、彼女らは彼女らであり、その形で愛を育まなければならなかった。最後にそう、気付くことになります。
色んな展開を見せる物語ですが、一貫して美しく丁寧な描写で描かれているので安心してその世界に身を任せることが出来ました。
とても素晴しい物語でした。一読を!
「水縹草は雪が降る日にだけ咲く花で、その花弁は作り物のように鮮やかな水色を放っている」
第一話で描写される、神秘的な花、水縹草。その摩訶不思議なイメージだけで、あなたはもう、この物語に引き込まれるでしょう。
特筆すべきは、まず、繊細な風景描写です。タイトル『雪忘花』から察せられるように、この物語の中ではしばしば雪が降りしきります。それは物語を読み進めていくうちに、静謐、清浄なイメージから、孤独、狂気のイメージに変わっていきます。
呪いのように舞い落ちる雪により連綿と綴られるのは主人公新奈の心理です。彼女には、ほかの村人たちとは違う大きな秘密があり、その鍵となるのがこの雪です。戸惑わせ、憂鬱にさせ、打ちのめし、死をも願わせるほどの雪の魔力。新奈は雪を憎悪しますが、それをあざ笑うかのように、雪は美しく舞い踊ります。
物語のあらすじを述べてしまうのは止めておきます。ぜひ、ゆっくりと読みながら、驚き、憤り、悲しみ、新奈や沙羅、湊たちと、宇宙のどこかに展開されているかもしれない別世界を生きてみてください。
主人公の少女は、雪が降ると周りの人々が記憶を失ってしまう不思議な村で暮らしています。幼い頃から、自分だけが忘れられる孤独に苦しんできました。それでも、親友で恋人の沙羅の存在が、少女の心の支えになっているのが伝わってきます。
二人の柔らかな会話やスキンシップを通して、少女の沙羅への愛情が感じられ、読んでいてほっこりします。一方で、雪への恐怖心や周囲の偏見に悩まされる様子もリアルに描かれています。
冬の白い景色や、少女の儚くも美しい心情が繊細に表現されており、これから先の展開が気になる作品です。雪解けとともに、二人の恋も実を結んでいってほしいですね。
この村には、冬にだけ咲く白い可憐な花があった。そして、この村の人々は冬になり、雪が降ると記憶をなくしてしまう。例えそれが自分の子どもであっても、雪が降れば忘れてしまうのだ。村人たちはその記憶障害を、妖精の悪戯だと信じていた。そして、存在を否定された子供たちのために、ある施設があった。
その施設に預けられた主人公の少女は、例外的に雪が降っても記憶をなくすことはなかった。そんな主人公の恋人でありルームメイトである少女は、皆と同じように記憶をなくしてしまう。主人公は忘れられていく記憶と共に置き去りにされ、深い孤独と戦っていた。しかし、そんな生活の中、ある青年が記憶に関わる告白をしたことから、主人公たちの運命は動き出す。
暴かれる施設の歪んだ構造、そして本当の目的。
主人公の記憶の秘密に隠された、恐ろしくも悲しい真実。
序盤は少し不思議な物語をさすSFと思いきや、事件をきっかけに本格SF作品へと変貌するという構造を持っています。
また、雪や記憶といった繊細なものを扱っているこの作品は、文章自体も美しくも繊細で、ハッとする比喩表現に満ちています。
本当に素晴らしい作品でした。
是非、御一読下さい!