第7話 アイリスの行方

男爵令嬢のアイリスは修道院へ向かうため現在、泣きながら馬車に揺られていた。


「うう、こんなのあんまりだわ」


全てあのエリックという牢番のせいよと罵るアイリスは涙を溢しながら悔しそうにハンカチを歯噛みしていた。


実は地下牢に幽閉されていた時、アイリスは密かにエリックに対して魅了魔法を行使していたのだ。


しかし、


(なんで魔法が効かないの?)


エリックを魅了してすぐに脱獄する手筈だったのが、なぜかエリックには効かなかったのだ。


アイリスこと相沢ゆりあは異世界からの転生者である。自分が生まれ変わった世界が自分のよく知っていた乙女ゲームの世界だと知ったアイリスは主人公としての人生を歩むことになる。


平民から男爵令嬢となるのはストーリー通り、後は学園で攻略対象を落としまくって逆ハーコンプリートを目指す予定だった。


攻略をより進めるためにもと、主人公が得意とする回復魔法以外に魅了魔法チャームも頑張って習得した。


そして学園に入ってからは攻略対象に片っ端から魅了魔法を行使し、さらに魔法の精度を上げていった。


残念ながら自分より魔力の高いイケメン魔法師たちには抵抗されたが、オズワルド王子やその他の同年代の生徒たちはもともとアイリスに好意を抱いていたようで、彼女は大した苦労もなく簡単に男たちを魅了していった。


こうして学園ではオズワルド王子のほか、宰相の息子など攻略対象の他にも多くの男子生徒を魅了していった。


しかし同性の女生徒たちは警戒心が強く、またアイリスを妬む者も多かったのでなかなかアイリスの魅了魔法は通用しなかったようだ。


ただ運が良かったのか悪かったのか、オズワルド王子が魅了され、他の攻略対象の男子たちからチヤホヤされたことでアイリスはかなり調子に乗ってしまったようだ。彼女は多くの令嬢を敵に回し、さらには悪役令嬢のボスことエリザベスの逆鱗にも触れてしまった。


完全に自分が乙女ゲームの主人公なのだと、自分有利な世界なのだと勘違いしていたアイリスは侯爵家を敵に回すことの恐ろしさを失念していた。


調子に乗ったアイリスはゲームの展開を無視して学園でエリザベスの前でもどこでもオズワルド王子だけでなく、他の男子たちとも節操なくイチャイチャしていたのだ。


こうしてアイリスは侯爵家から罪を問われ、呆気なく地下牢へと幽閉されてしまった。


しかし断罪ルートは本来エリザベスの方で、自分ではないと思い違いをするアイリスはどうせすぐに学園に戻れるだろうと軽く考えていた。


ここから先、アイリスの誤算は続く。


まさかゲーム展開にはないオズワルド王子が勝手に地下牢に侵入し、アイリスを助けに来たり、エリザベスが自分を暗殺するために忍び込んできたり、また牢番に魅了魔法が効かなかったことといい、予想もしなかった状況が次々と起きてアイリスは完全に翻弄されてしまう。


そして結局彼女はイレギュラー展開に何も対応できなかっのだ。


牢番のエリックに捕縛され、一晩中オズワルドとエリザベスとの間で痴情のもつれからの修羅場を経験したり、気がつけば朝が来て、オズワルドとエリザベスがいなくなったと思ったら裁判所に連行され、今まで学園で魅了魔法を使っていたのが明るみに出てしまい、自分のやってきたことが全てバレてしまった。


「なんなのよ!もう!」


アイリスは考える間もなく断罪され、気がつけばあっという間に修道院送りとなったのだ。


しかもいまは魅了魔法が使えないよう拘束具まで付けられている。


「どうしてこんなことになったの?」


アイリスは涙した。自分の行いに後悔はしていない。ただもっと上手くやっていれば、あの牢番さえいなければと恨み言を呟いているだけだった。


反省の色は見られない。


その後、アイリスの乗っている馬車は森の中で突然姿を消した。


失踪した馬車の行方はわからない。


盗賊に襲われたのか、

事故に遭ったのか、

魔物に襲われたのか、


しかし調査の結果ではアイリスと名乗る女性が修道院で毎日神に祈りを捧げているのだとか。


王国ではエリザベスの呪いがアイリスを殺したのだという噂がまことしやかに広がっていた。

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牢番の回顧録 あんこもっち @akishake

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