第4話 修羅場

オズワルド王子はアイリスの前に立ち、エリザベスから愛しの君を庇う。


ただ足だけは正直なもので、エリザベスという魔王を前にしたオズワルドは本能的な恐怖心に怯え、まるで生まれたての子鹿のようにガクガクと震え上がっている。


しかしながらここは腐っても王子、オズワルドは好きな女の子の前では臆することなく勇気を出して悪役令嬢エリザベスと対峙する。


「そ、そうだ!エリザベス!き、君のやり方は卑劣だ!そんな卑劣な女がこの国の王妃になんて有り得ない!君に王妃は相応しくない!」


オズワルドは明らかにエリザベスにビビっているが、アイリスが側にいるため何とか虚勢を張りながらエリザベスに立ち向かっている。対してエリザベスの方はすでに勝者たる自信に満ち溢れ、あとは捕らえた獲物をどう料理してやろうかと考えているように見えた。


オズワルドとアイリスをじっくりと嬲るように見つめるエリザベスはニヤリと口角を上げる。


「あら、お可哀想なオズワルド様。その女狐にスッカリ騙されて……」

「騙されてなどいない!!」

「騙されていますわ。そんな女のためにこの国の王子の立場であられるお方が、地下牢に勝手に侵入し、こともあろうことか、重罪人を脱獄させようだなんて……」


(いや、オレからしたらアンタらも侵入者なんだがな。それにどう見ても外見的にアンタの方が女狐っぽいんだが……)


エリックは寝たふりをしたまま心の中でツッコミを入れる。


「アイリスは重罪人ではない!」

「オホホホ!!殿下!そこの雌豚は重罪人だからここに居ますのよ?往生際の悪い方ですわね。殿下?今更そこの雌豚を庇っても罪は覆りませんのよ?まだ無実を証明できると思っていますの?」

「いや、まだ……しかし、証拠は必ずある!」

「嫌ですわ!まさか、このワタクシが嘘をついているとでも?」

「お前が嘘をついているに決まってるいる!アイリスは被害者で無実だ!」


(オイオイ、それを決めるのはお前らじゃねえだろう。しかもこんなところで話する内容じゃねえよ)


呆れるエリック。

3人の会話は更に続く。


「あらワタクシを嘘つきだなんて、失礼ですわ。それと貴方様がワタクシを嘘つき呼ばわりされても、そんな証拠など無いのでしょう?」

「嘘は嘘だ!証拠だってきっとある!お前が無実な分けがない!」

「あら悲しいことをおっしゃいますわね。まあ確かに、ワタクシとて罪の一つや二つ、虫ケラを殺してしまったりと小さな罪を犯していることは多少自覚しておりますわ。でもねえ、オズワルド様の方がワタクシより余程罪を犯しておられますわ。だって、この地下牢に無断で侵入していらっしゃるのですもの」

「クッ!」


(そうだ!王子テメェが短慮だからだ!もっとよく考えてから対応しろってんだ!あと勝手に侵入してるのはアンタ《エリザベス》もなんだよなあ!)


エリックは誰にも言えない分、心の中で吐露した。


「仕方あるまい。このまま押し通させてもらおう」


オズワルドは剣を抜き、構えた。

アイリスは王子の後ろに身を隠している。


「オホホホ!この数の兵を相手に貴方が戦えると思っていますの?」

「やってみなければわからないだろう?」

「やらなくてもわかりますわ。殿下は学園でもワタクシ勝てたことが無かったではありませんか」

「わ、私は女性には本気になれないんだ」

「ならこの者たちとなら本気で戦えるというのですね?ならばやってしまいなさい。そうそう、王子は殺さないように。女の方はどうでも良いですわ。証拠は全て消してしまいなさい」

「やはり、貴様が犯人なのだな?」

「オホホホ、証拠などありませんわよ?」

「証拠は全て消したということか」

「真相は闇の中ということですわ。残念でしたわね」

「クッ」

「それではやってしまいなさい」


エリザベスの後ろにいた者たちは女ボスの指示に従いすぐに王子の周辺に駆け寄り包囲した。


侯爵家の私兵だろうか。6人いるがいずれもかなりの手練れのようだ。


(こりゃ王子終わったな……)


エリックは眠ったフリをしたまま現状、成り行きを見守る。


(さて、どちらにつくか)


王子につけばアイリスを殺さなくても済む。しかしエリザベス率いる私兵と戦うとなると怪我どころかアッサリ斬られて死ぬだけだ。

また何とかなったとしても侯爵家を敵に回すことになる。


そうなればエリックは牢番どころか、この国に住むことすら容易でなくなる。


エリザベスにつけば、この現状はなんとかなるだろうが、あの可愛いらしいアイリスは死ぬだろう。また最悪、牢番のエリックに全て罪を擦りつけて闇に葬り去られる可能性もある。


(あ、やべえ)


早く家に帰りたい。


現実逃避したい気持ちと共にエリックは心の中で嘆いた。


そんなことを考えているうちに王子はアッサリ負けてしまい、すでに拘束されていた。


「エリザベス!王子の僕に、こ、こんなことが許されると思っているのか!」

「あら、罪人を処するだけですわ。オズワルド殿下は王族ですから、殺されなくて良かったですわねえ?」

「クッ!」


(思ってた以上に弱かったな。さっきまでのあの自信は何だったんだ?)


私兵たちはオズワルドとアイリスを拘束し、エリザベスの前に跪かせる。


「さあ、泥棒猫アイリスさん、お別れの時がやってきましたわね」


私兵の一人がアイリスの髪を掴み短剣を首に当てた。


(あ、マジでヤバいなこりゃ)


「や、やめてぇぇ!!」

「や、やめろおお!」

「さあ、やってしまいなさい」


(どうする?このまま放っておくか?いや、巻き込まれんのは勘弁だが、ん?もうすでに巻き込まれているっちゃあ、いるな)


エリザベスの指示に従って私兵はアイリスの首を斬り裂こうとする。


泣き叫ぶ二人。


(チッ!仕方ねえ!!覚悟決めてやるしかねえな!!)


エリックは全身に魔力を込めた。

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