第3話 侵入者は王子様
牢番エリックが夜勤の最中、突然に不審者と思わしき人物が地下牢へと侵入してきた。
「アイリス!助けに来たぞ!!」
なんと扉から出てきたのは眉目秀麗、キラキラの金髪碧眼イケイケ王子様だった。薄汚い地下牢に相応しくないほど眩しい白の制服、白いマント。なんか知らないけれど光源もないのにキラキラ光っている。
こいつ本当に忍び込む気あるのか?と問いたくなるほどに身分を隠すこともなくオズワルド王子は地下牢へとやってきた。
「その声は、オ、オズワルドさまですの!?」
自分を助けに来たのが愛しのオズワルド王子だとわかったアイリスは嬉々として立ち上がる。
「オズワルドさまぁ!!」
「アイリス!」
(王子ぃ!?何やってんだぁ!!てめえはぁぁ!!)
オズワルドは眠りについた牢番を確認もせず、そっちのけで通路最奥の牢屋へと向かい走っていく。アイリスは鉄格子のところにまで駆け寄り、二人は鉄格子を挟んでお互いに手を取り合った。
エリックはそのまま寝たふりを続ける。
「オズワルドさまぁ!お一人で助けに来てくれたのですか?」
「ああ、アイリスが捕えられたと聞いて居ても立っても居られなかったのだ」
(マジか!?なんて短慮なんだ。いや、しかし、こんなところに王子ひとりで来れるはずがない。合鍵といい、誰か協力者がいるに違いない。誰だ?)
仮に上司が王子に手を貸したとあればエリックの証言は揉み消されるに違いない。全ての罪を擦りつけられて最悪な展開になることもありえる。
減給、解雇、鞭打ち、奴隷落ち、鉱山行き……。
エリックの脳裏に自身の悲惨な未来像が描かれる。
(やべえ)
ことは慎重に対応しなければ、この先の人生を棒に振ることになる。
(チクショウが!王子のやろう、あの爺さんの時に来やがれってんだ!俺の時に来るんじゃねえよ!)
エリックは今日という日を呪いつつ、仕方なくこのまま寝たふりを続けた。
そしてそのまま現状維持として今後の成り行きを見守ることにした。
オズワルドが牢の前に近づくとアイリスも鉄格子前まで駆け寄った。鉄格子の間に手を伸ばすと同時に鉄の冷たさが腕が触れ、アイリスはびくりと震えた。
「アイリス、寒いのか?」
「はい、ここは、寒いです」
「よし!いま出してやる!」
「オズワルドさま!ありがとうございます!」
オズワルド王子は鍵を取り出して鍵穴に差し込むと慌てるようにガチャガチャと鍵を回した。
ガチャ、
キィ……。
(やっぱり合鍵持ってやがるな。ちくしょう、一体誰があのクソ王子に鍵を渡したんだ?)
鉄格子の扉が開くとオズワルドは中に入り冷たくなったアイリスの手を掴んだ。
「さあ、アイリス、脱出するぞ!」
「でも、オズワルドさま、此処を出てどうなさるのですか?」
「父上(国王)に掛け合って君の無実を証明するんだ!エリザベスの証言が嘘だとわかれば君は大丈夫さ」
「でも、どうやってエリザベス様の証言が嘘だと証明されるのですか?」
「それは、まあ、これから考える」
(ま、まさかのノープラン!?王子!?何やってんだぁ!?)
「オズワルドさま、もしエリザベスさまの証言が嘘だと証明できなかったら、私……どうなるのですか?」
「どうにもならない!いやさせない!なんとかなるさ!安心して!」
(いや安心できねえだろ……)
アイリスも少し不安げな表情のままだ。オズワルドはそんなこともわからずアイリスを牢から連れ出そうとする。
(どうする?このまま脱獄を見逃すか?しかし、それはそれで俺に責任を取らされるかもしれねえしな)
エリックは寝たふりをやめて王子たちをそのまま牢屋に閉じ込めておこうかと考える。
しかし、
事態はさらに深刻となる。
「オホホホ!!オズワルド様?なぜ貴方がこのようなところにいらっしゃるのかしら?」
再び扉が開くと今度はいかにも
「エ、エリザベス!?」
「あら、殿下、ひょっとして、いえまさか、そこの女狐を助けようとされているのかしら?」
少しクセのある薄紫の長い髪を靡かせて、この地下牢には場違いなほど絶世の美女が現れた。
彼女の名はエリザベス・ラズレット。
侯爵令嬢であり、オズワルド王子の婚約者である。
整った顔立ちだが、少し吊り目のせいか性格はキツそうに見える。というか獲物を捕らえた時の猛獣のような強者の波動が伝わってくる。
あと服装も派手だ。
ヒラヒラとした黒光りのドレスでこんなところに来るんじゃねえよとエリックは心の中でエリザベスを罵倒した。
(はぁぁぁ!?なんで今日に限ってこんなヤバい展開ばかり起きるんだ!?俺、今日の運勢そんなに悪かったか?いや、ステラばあさんのおみくじ入りクッキーにはそんなに悪いことは書いてなかった筈だ。ちくしょう!こんなヤバいことになるんなら神様にお願いしときゃあ良かった!真面目に教会に行っておけば!!)
エリックは度重なるアクシデントにより、すでにメンタルが削られている。
悪役令嬢エリザベスの登場により一気に場の空気は張り詰めたのであった。
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