エピローグ
数日前、修理の終わった冥界トランシーバーが源一郎さんの手からわたしの元へ返ってきた。
わたしはさっそく、羅針盤の近くでボリュームを上げてみたけど、やっぱり何も聞こえない。
二度とおじいちゃんやおばあちゃんと話せないのは寂しい。けれど、テレビの横にあるラックには羅針盤とブレスレットがちゃんとセットされている。
つまり、わたしたち家族のことをおじいちゃんとおばあちゃんの両方が見守ってくれているということ。
そのことを思うだけで心がぽかぽかと温かくなる。
「日向~、おばあちゃんたちの写真を見つめてどうしたんだ? 宿題は大丈夫なのか?」
お父さんの声で現実に戻される。
「ふっふっふ、実はほとんど終わってるの!」
夏休みが始まったころは無限にあると思っていた休みの日。
それがもう残り三日しかない。
毎年、今の時期は宿題が終わってなくてゼツボウするけど、今年は大丈夫!
「あの日向が! めずらしい!」
驚きの表情をうかべるお母さん。秘密のプレゼントを見つけてからのお母さんはすっかり元通り。
顔つきも明るくなったし、冗談も言い合えるようになった。
わたしからすれば、こっちのお母さんの方が普通なんだけどね。
「ドリルも全部終わったし、読書感想文も終わったでしょ。残りは自由研究のポスターだけど、下書きは出来上がってるからもう終わったようなもん」
「書いたのはほとんどぼくだけどね」
学が横から口をはさむ。
「それは……そうだけど。そういう学は宿題どうなの?」
「ぼくは最初の1週間で全部終わらせたよ」
「うへぇ~。信じられない」
「さっさと終わらせた方がコーリツがいいから」
「あっそ」
学のナマイキさは相変わらず。いやでも、おばあちゃんのことを思い出して泣かなくなったから多少は大人になったって言えるかも。
「っていうか、ポスターさっさと終わらせなよ」
「もう、分かってるって」
いくら下書きがあるとはいえ、マジックペンで書いていくのちょっと緊張するんだよね。
「さて、どこから書いていこうかなー」
くるくると巻かれたポスター用紙を開いて、角に重りをのせる。
インクで汚しちゃうといけないから、上の方から書いていくのがいいよね。
タイトルはずばり「キツネ様の正体は冥界のヌシだった!」
わたしが冥界で見た、あの巨大なキツネの影。キツネ様は冥界に実在したのだ!
「って、あれ?」
ふと、違和感がよぎって、学を呼びよせる。
「ねえねえ、学」
「なに?」
「これだと冥界のこと、みんなに発表することになるよね」
「え?」
「いやだって、タイトルがさ」
「……ほんとだ」
血の気が引くとはまさにこのこと。わたしの今の顔はすっかり青ざめているに違いない。
「どうしよ」
「ぼ、ぼくは知らないよ。ただの助手だからさ」
「ちょ、ちょっと」
そろそろと離れていく学。
都合のいい時だけ助手になるなんて!
裏切りもの!
「あぁ……」
人ってほんとうにゼツボウしたときは声が出ないんだね。
「名探偵アカツキ、始まったわよ」
お母さんの呼びかけに反応して、お父さんと学がテレビの前に集まる。リビングにひびくオープニング曲。
おじいちゃんとおばあちゃんといっしょに見るのを楽しみにしてたのに。
こんなになさけないわたしの姿を見られるなんて……!
「うわぁ~、お先真っ暗だ!」
涙目で叫ぶわたし。
写真にうつるおじいちゃんとおばあちゃんがそんなわたしを見て少し笑った。
ような気がした。
めいかいトランシーバー 〜キツネ様の都市伝説を解き明かせ!〜 秋田健次郎 @akitakenzirou
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