精神疾患を抱え、必死に生きる。バトルにドラマ、現実感のあるファンタジー

剣士ルークの再就職先、イルネスカドル。そこは精神疾患を抱える者たちが所属する会社で、ルークもまた鬱病を患っているのだった。彼らは共に生活し仕事をこなす中で、時にぶつかり、互いの弱さを受け入れ、思い遣り支え合う。
苦しみからは逃れられず、一進一退する症状には振り回される。でも、そんな中でも前に進もうと常に努力し、必死で生き、そして、生きるために必死で頑張っている。藻掻くルークたちの生き様が心を打つ、ここでしか読めない現実に即したファンタジー。

「心の病」や「闇」、「傷」といった表し方をすると、どこか感情面に重きを置いたものに感じがちなのではないでしょうか。こちらの作品では明記されているとおり、登場人物たちの状態を「疾患」として冷静に捉えています。
私の完全な主観ですが、冒頭の時点から、作者様は精神疾患に対する生きた知識をお持ちの方なのではないかと思いました。本などから得られる知識としての理解だけでなく、実際の現場に触れて得られる雰囲気や生の知識といったものを感じました。
疾患による影響を受けた複雑な心理過程や、その末に表出される言動。細部にまで意味を持たせた、こだわりのある描写や台詞。そういったものにより、キャラの苦悩だけではなく、様々な情報を受け取ることができたように思います。
これらの描写だけでも非常に現実感があると思うのですが、作中では服薬・通院といった治療も描かれ、さらには(これも主観ですが)グループホームやピアカウンセリング、認知行動療法といった実在するものを彷彿とさせられるような部分もあり、そういう点からも、より現実的なものが描かれている作品であることを感じました。

キャラたちは、モデルとなる疾患の知識から「作られた」のではなく、作者様自身がそこに生きているキャラたちの人柄や抱えているものを理解し、描いている印象を受けました。
みんな良いところを持っていて、努力もできるし、能力もある。仲良く絡む様は「普通」にも見える。でも、気の持ちようではどうにもならない、例え頭ではわかっていても辛い思考や感情を止めることができない。体が動かない。そんな儘ならなさを抱えています。
それでも生きるためには衣食住が必要だし、稼がなくてはなりません。パーティ、クエスト、バトルというとファンタジーを感じますが、この作品においてはそれらは仕事、生活がかかっているもの、生きていくために必要なものです。そういう点からも、この作品が現実に即したファンタジーであることを感じました。

ルークの優しさや、周りの仲間への理解、自分への思いを通して、作品に流れる精神疾患者への肯定を感じました。
間違いなくファンタジーだけど、その世界で精神疾患を抱えながらルークたちは懸命に生きている。その様は感情的でもなく、悲劇的でもなく、力強く、とても人間らしいと思いました。

病気のあるなしに関わらず、いろんなキャラたちの良いところ・悪いところに目を向けているのも、この作品の魅力だと思います。
ファンタジーが好きな方はもちろん、ヒューマンドラマが好きな方、精神疾患というものが気になる方、診断は受けていないけど何かしらの辛さを抱えている方、人を多角的に見たい方、必死に藻掻く生き様に美しさを感じる方などなど。
たくさんの方にオススメしたい作品です!

※83話までを読んでのレビューです。

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