イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-

清賀まひろ

第?部 序章

?話 楽になりたい

 


 苦しい。

 そう思ったのはこれで何回目なんだろうか。


 苦しみながら闘い続けた。

 でも、報われない。

 ずっと苦しい。

 誰にも分かってもらえない。

 あんまりだよ。


 ――凄く、疲れた。



 頭の中で、ぷつんと音がして、笑った。


「もう、いいか!」



 皆の声が聞こえる。

 否定する声。戸惑う声。悲しむ声。怒る声。


 それを聞いて、ひどく悲しかった。


「止めるなよ。皆なら、理解してくれるかもって、思ってた」


 皆がまた何か言ってる。多分、全部俺のための言葉のつもりなんだろうけど、イマイチ声も内容も届かない。



 さっきから何故か、音も視界も、自分の脳内さえ、水中のようだ。全てがぼやけて、よく分からない。さっきまで何をしてて、何でここにいるかも忘れた。


 多分ここは、洞窟。暗闇の中に、仲間が四人。その一人の手にあるランタンの光が、ゆらゆらと俺の目を刺す。

 この出口も見えない仄暗ほのぐらい感じ、エンディングにはおあつらえ向きだ。



 まあ、もう、なんでもいいけどな。



「皆に笑顔で見送ってもらえないのは悲しいけど、いいよ。俺は俺を認める。今まで頑張った分、ご褒美貰ったっていいと思うんだよ。――楽になりたい」


 随分前から考えて、準備はしてた事だ。

 遺書も身辺整理しんぺんせいりも完璧。このまま終わったって俺は何も問題ない。

 皆は――いや。俺の事を理解しない奴らの事なんて、どうでもいい。もう間もなく、俺には関係なくなる事だ。


 どっちにしようか。短剣でいいか。


 すらりと抜いた腕に、誰かがすがり付く。鬱陶うっとうしくてつい振り払うと、小さな悲鳴と転んでしまった音がした。

 ごめんな。邪魔されたくないんだ。



「じゃあね。ありがとね。おやすみ」



 突き立てる。

 首元が暖かくなって、凄く心地よかった。


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