エピローグ

 あれから二カ月が過ぎた。

 暮れから正月にかけて例年になく寒く、都心でも交通障害が起きるほどの雪も振った。

二月には妻と娘の遺骨を金沢にある庵家の菩提寺に収めることができた。

ついでと言っては申し訳ないが札幌にある霊園に佐田家と留市家のお墓参りをしてきた。

 寒さも緩んだ三月ひな祭りが終わり卒業の季節がきて、庵が立て直した家の庭に植えて間もない桜の木にもぽつぽつと花をつけ始めた。

 庵はICUに入ったままの探偵とその妻を気の毒に思い、当人たちには言わずに病院側と交渉して特別室に移して貰った。

それなりの整備費用を前渡しして、一週間前にようやくそれが叶ったのだった。

 探偵の妻静がいっときも夫の傍を離れようとしないので、子供たちが母親の為に食事や着替えなどをせっせ運び、事務所も三人でやりくりしている。

 最後に残った田口さんの父親が被害者となった詐欺事件は、被疑者の身内が代わって被害額を弁済することになったと探偵事務所に連絡が入ったと聞いた。

これで探偵が手がけた事件はすべて決着がついた。

 

 当面探偵としての収入は無くなったが、三人は探偵以外にもハッカーや鍵師、数多くの動力系の操縦士としての技術を持っているので、それらも生かして生計を立てて行くと笑う。

父親の意識がいつ戻るか分からないと医師から言われていても家族は明るい。

その点を庵が訊くと、探偵が意識を取戻したら、例え車椅子になっても協力して探偵を続けるから、それまで四人で事務所を確り守るんだと言う。

家族はみんな、いつかは探偵の意識が戻ると希望を持っている。否、信じている。

 

 庵はそんな家族に百億円の恐喝事件が決着して間もなくの頃、チーム全員で自首すると伝えていた。

 その翌日には揃って渋谷署へ行った。

そこで武器等製造法違反容疑で身柄を拘束され数日取調べがあって、その後警視庁へ移送された。

そこでも数日の取調べがあった後、防衛装備庁の官房長が庵を除く四人をどこかへ連れて行った。

庵は万十川捜査課長から

「あんたは釈放する。あとの四人は防衛省の機密事項として預かることになった」

と伝えられた。

そして庵宅別棟の<かぶと虫>関連機器は自衛隊が来て運び去った。その時も佐田博士らはいなかった。

それ以降スマホも通じなくなってひと月ほどが過ぎても、四人がどうしているのか分からなかった。

 そんな庵のところへ一枚の絵葉書が届いたのは、それから二週間が過ぎた頃だった。

裏面の写真は北海道の冬の支笏湖を写したもので、上空に小さいが<かぶと虫>が写っていた。

そして「毎日四世帯で楽しく遊んでいます」と短いコメントが添えられていた。

 庵はほっとして建て直した家の屋上に上がって北の空を見上げ、あの研究所が防衛省の管理するところとなって、<かぶと虫>の研究を進め、航空機とか艦船にあの機械を積んでレーザー光を武器とする強力な力を日本が持とうとしているんだ、と想像した。

 無限のエネルギーを得た船や航空機が強力なレーザー砲を持てば、核は意味がなくなるんじゃないかと思う。ミサイルを発射してもレーザー照射を受けてあっという間に破壊されるから……。

だが、やがてはその武力を世界中の国が持つことになるだろう。

 庵の子供か孫の時代、その時は何が戦争の抑止力になり得るのだろう……。

どこまでも、どんな時代が来ても、抑止力が無いと人間は平和に生きてはいけない生物なのか? ……

 ま、そんなことは自分には関係のない世界のことだと思うようにした。

そして庵は娘の華蓮とともに妻と次女を失なった悲しみを乗り越え、庵流をさらに発展させようと決意する。

あとは、岡引一心探偵の復活を祈るだけだ。……

 

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バトルの行方 きよのしひろ @sino19530509

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