最終話

 それから、私たちはフランスの毛並みを整えました。

 母は丁寧に、何度もフランスの巻き毛を溶かしていました。


 「もういいかげんにしてくれって言ってそう」


 母はそう言っていましたが、嫌がらないフランスの毛並みは、フワフワになっていました。

 撫でると、お腹はまだ暖かくて、生きているようでした。


「あたしの手の方が冷たいや」


 なんだか、手を噛まれたことも、腰が悪くなってオムツを履かせていたことも、こたつで眠ったことも、全てはこの日のために計算されているみたいでした。

 フランスは一年かけて、後悔がないように、私に準備させてくれたような気がする。

 そうして最後は、「ゴハンが食べたい」「抱っこして」と要求して死にました。

 あんなにも臆病だった犬は、怖がることも苦しむことも無く、やりたいことをやって逝ったのでした。


 きっと私は、フランスを思い出すたびに、最後を思い出して、笑いと涙が零れてくるのでしょう。

 最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

 明日は火葬です。明日、本当に旅立つフランスへの手紙として、このエッセイを残しておこうと思います。



 フランスへ。

 何も出来ない自分には生きる価値がないと、本気で思ってた私に、「キミが生きているだけで愛おしい」と思わせてくれてありがとう。

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うちのわんこの話をさせてください。 肥前ロンズ @misora2222

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