第4話 寒火
竈門の火の焚き付けがどうも宜しくないこれは、竈門が具合を悪くした様だと私は詰まりを治したり、まめに中を掃き出ししたが、いっかな機嫌が直る気配がない。それを見やるに何分煮炊きする段に成って困窮を極めるのは目に見えているので、此れは早々に此の手の事に詳しい手合いを呼ぶにかぎると這々の体で手を止め考え至る。此れでは煮炊きに日々精を出している竈門が機嫌を損ねるのも無理からぬと思うが、それにしても中々そういった事を生業としている者達とはとんと縁がない為途方少なからず暮れ思わずううむと唸るそういえば以前、煤が梁に溜まって同様にぼやいている同胞が何処に居を構えていた覚えがあった。あの煤が溜まった家は何処だったか。考え返してみるにどうも近くに住まう人間であった様なそんな事をつらつら思っていると、一等その段になって隣屋の主人である事が判明した。そう言う経緯故その旨を隣屋の主人を呼び出し事の顛末を伝えると、「何分、煤溜まりの事ですからねえ竈門の事は貴方が申した人並みの事しか分からんですよ。」と人並みの意見を開口一番に言われる始末。それは思い返せば必然的である。餅は餅屋と言う風にはいかぬものだ今一つ尋ねるのは軽率であったか。そのにべもない返答にやはり自身で如何様にするべきかと考えを改め、渋々徒労に着こうかと思ったが主人も余り自身の返答に愛想がないとおもったのか、「そう言えば、煤溜まりの折、上の梁に鬼が住み着いていたのですよ。」と思い出した様に空を見ながら言うので、其れが原因ともおもえぬが、一応それは全体どんな成りをしているのかと問うと、主人は然程大きくはない人の頭位の具合ですと自身の頭を使い手で表していた。聞く処に依ると、その子鬼は主人の家の梁の上で居を構えていたそうだ、元い煮炊きする竈門が此れの居着く場所である事は通説と言うがどうも冬の木枯らしが吹き荒ぶ段になってそれには鬼も応えたらしい。元よりあの露骨に肌の出ている体である余程染み入るであろう。そもそもその鬼は火鬼の類で有り、私の心得知らぬ処であるが主人に言わせるとその手の鬼らしい。それでは寒さがその鬼に障りがあるのは然程想像に固くないのであった。と言う成り行きで本来竈門の灰に埋もれて暖を取るところを常に熱のある梁の上に居を移す運びとなった訳である。ちなみに火鬼は放って置くと大きく成りボヤを起こす原因となると呉れ呉れも戒められたのは言うまでもない。ちなみにその鬼は今何処へと問うと梁の煤を掃き散らしたら消え去ってしまったとの事であった。ふむ、彼の者のせいで竈門の虫の居所が悪いとは到底おもえんが、今一度柱の上に見当を付けて置くのも良いかもしれんな。そう考え此処等が潮とばかりに主人に礼をして家の勝手に向かった。別れ際主人はまたあの花房を魅せて下さいと愛想を言ったが、あれは木の気分次第で有り私の預かり知らぬ処であった。勝手に向かうと一等勝手に又をかける柱を見上げたが、それらしき者はいなかったもしや角度が悪いのではとも考えたが、どうも見当違い立った様だ。そう呆けていると、竈門の方に燻り光る火が見えた。果たして家を空ける際に消していったはずであるが、灰をかけるのが甘かったか。そういくらなんでも不用心とばかりに近づくと灰の中に小さな鬼が居た。それを見て私は首を傾げたが、先の一件でははあさてはあの鬼が此処に屋移りしたのだと得心した。どうやら同じ様な条件を知らぬ間にこさえていたのやもしれぬ。されど追い出すのも無粋な気がするので、節分迄まってやる事にした。 完
鱗水奇談 @keiron02
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。鱗水奇談の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます