鱗水奇談

@keiron02

第1話 瑠璃玉

此所、残暑が厳しいので風鈴を買った。丁度先刻、風鈴売りが家の前を通りがかったのでそれが故購入したのだ。風鈴売りは手拭いを被っていたので、顔の方は子細に見ぬ限り分からなかったが、風鈴の方はチリンと風吹けば我が意を知らしめんとしていた。それを聞くに、果たしてどの風鈴にするかと品定めする運びと成る。どの風鈴も金魚やら、水流を模した絵柄で美しく中々どうして決めようがない。そんな中風鈴達を見やって一風変わった鐵で出来た風鈴を買い付けることにした。早速この趣き高い風鈴を、家の軒先に吊るすとチリンとその体に似合わず成程、いい音を出すではないか。部屋に音が奏で響きされど部屋の中を往来するその様は、否が応でも眠気を誘うものであった。私も平積みになっている本を消化する為軒下で本を読んでいたのだが、幾ばくも読まぬ内にあれよという間に眠りに入っていたらしい。これでは本末転倒である。気づくとコトンと何かが、落ちた音で目覚めた。何分、戸を開け放してあったので風の為に何かが落ちたのであろうと思っていたのだが、畳の上に小さな瑠璃色の玉が落ちていた。手にとって見てみると、瑠璃色の部分が、水色に変化して美しい事この上ない。中には雲の様な、霧雨の様なものが、漂っていた。一体これは何なのか見当も付かぬとりあえず文机の上にそれを置いて立ち上がった。夕刻の段に成ったからか、もう風は吹いていない風鈴も鳴らなかった。完

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