<第1章第1話を読んでのレビューです>
平凡なサラリーマンが寿司屋でコケる。それだけの出来事から、物語は予想もしない方向へ滑り出す。現実の感覚に根差した生々しい描写から、異世界転生という非現実が唐突に入り込む。その切り替わりの鮮やかさが、読者に軽い驚きと笑いを与える。
文章は、長く語られる心理描写と、周囲の環境描写の積み重ねで日常の重みを丁寧に作る。社畜生活のルーチン、寿司をつまむ手元やビールの泡の動き、周囲の視線に対する微妙な優越感まで描かれ、主人公の生活感が読者に強く伝わる。そして、頭を打って目覚めた瞬間の混乱と戸惑いが、転生ファンタジー特有の非現実を自然に受け入れさせる。
さらに、突然現れる小手〇也風の教育係の登場や、過去の奇妙なエピソードの挿入が、コメディ的なテンポを生む。読者は驚きつつも、主人公と同じ視点で世界を理解しようとする感覚を追体験できる。現実と非現実、過去と未来、理屈と冗談が混ざり合うことで、世界は鮮やかに立ち上がる。
本作の魅力は、異世界の設定や戦国の舞台に頼らず、読者を引き込む「視点の面白さ」にある。34歳の社畜が少年の身体で戦国に立つという設定は奇想天外だが、文章の細やかな心理描写とユーモアにより、違和感が楽しみに変わる。序章にして、すでに日常の延長線上に冒険が生まれた感覚を味わえる一篇である。