くろく、くらく。
霧谷
✳✳✳
──くらくて黒くて、とおい道。歩めど歩めど先は見えず足元には粘ついた汚泥がまとわりつく。疎んで払おうとすれば、前へ進むことを許さぬように足を取られて転んだ。ぐちゃり。べたべたとして人の肌の生々しい温度を帯びたそれは、汚泥のなかに手をついた俺の服の袖へと馴染んでじわじわ這いのぼる。
徐々に染み込んでいく温度が、粘度を孕んだ感触が、とかく不快で無様に汚泥のなかを這いずり回った。
這いずれば這いずるほど汚泥は俺にまとわりつく。ズボンもシャツも大半は真黒な汚れに侵食されてしまった。汚泥の底をさらう手は思考と裏腹泥と仲良く指を絡ませ合い、ずるずると黒の奥へと引きずり込もうとする。ずるずる、ずるずると、手を引かれる。
汚泥の底へ、地の果てへと促さんと優しい残酷さで引きずり込む。おいで、おいで。醜悪の果てに。清廉さからはとおく、心地のいい地の底へ。鼓膜を打つ静寂に、そんな声が交じった気がした。
汚泥は俺を引きずり込む。ずるり、ずぅるりと。手が、膝が、胸が。半身が沈んでいく。
汚泥は形を成さず、ただ、俺を受け入れ続ける。ずるり、ずぅるりと引きずり込んでいく。
おいで、おいで。醜悪の果てに。清廉さからはとおく、心地のいい地の底へ。
耳鳴りのように、声が聞こえ続ける。
おいで、おいで。
おいで、おいで。
おいで、おいで。
──ここは地の底、醜悪の果て。万人は汚泥に囚われたら決して逃れられず、骨まで溶かされる。
くろく、くらく。 霧谷 @168-nHHT
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