いきなり三国志。目が覚めたらお前は劉備玄徳だと言われた。

ウツロ

第1話 いきなり三国志

「はあ、どうしようかなあ」


 ションボリと肩を落とす。

 目を覚ましたら、いきなりお前は劉備玄徳だと言われたのだ。

 たしかに、目に映る景色はボロい小屋と痩せた畑。

 ビルなんてありゃしない。昔の中国って感じだ。


「おかしいだろ」


 でも、俺のかっこうはスーツにリュック。

 会社帰りの社会人そのままなのだ。


「なんでみんな俺を劉備って呼ぶんだよ」


 ポケットにはスマホ。自分にカメラを向けると、朝見たまんまの顔がうつる。

 絶対に劉備ではない。


「しかも、劉備っぽいやつもいるじゃん」


 百歩ゆずって関羽張飛が俺を劉備と呼ぶのは分かる。

 転生とか転移とかそういう謎現象が働いたんだろう。

 でも、明らかに劉備なやつが俺を劉備って呼ぶんだよ。

 キミたち三兄弟じゃないの? 桃園で誓ったとかなんとか有名な義兄弟。

 なんで俺まで入れて四兄弟になってんだよ。

 しかも、俺スーツだぞ。

 なんで誰も疑問に思わないんだよ。


「どうしてこうなったのかなあ?」


 いつものように会社へ行って、帰りにコンビニよって。

 そのあとの記憶がない。

 目を覚ましたら、こうなってた。

 ちょっと、そのときのことを思い出してみるか。原因がつかめるかもしれない。



――――――



 目が覚めて見ると、藁ぶき屋根があった。その屋根を支える梁は、か細い。

 壁はドロを塗りたくったもの。あちこちに蜘蛛の巣もはっている。

 背中が痛い。どうやら俺はベッドに寝ていたようだが、竹でできているのか寝心地は最悪だ。


 窓から外が見える。

 荒れた畑、半裸の老人、やせ細った野良犬、小便しているガキ。

 ここはどこだ?


 見回すと、お香みたいなものも焚かれている。

 なんか、ゲームで見た古代中国って感じだな……。


 そのとき、ドタドタと足音がした。


「アニイ! でえじょうぶか?」


 俺の顔をのぞきこんでくるやつがいる。

 推定身長180以上。ゴツゴツした頭にムサいヒゲ。先端がニョロニョロした矛持ったイカツイオッサンだ。

 あなた誰ですか?


「玄徳アニキ。心配しやしたぜ」


 今度は別のヤツがきた。

 さっきのヤツより背が高い。しかも筋骨隆々で、ニュロンと伸ばした長いヒゲ。手にはナギナタみたいな刀を持っている。

 こいつら二人、誰かに似てるなあ。


 あ~、そう言えばこないだやった三国志ってゲームに出てきたキャラに似てるんだ。

 張飛と関羽だっけ。蛇矛と青龍偃月刀を持った強キャラ。

 でも、あんなキレイじゃないけどな。

 口は臭いし、日焼けで肌もボロボロ。おまけにドロやらフケやらついている。

 超リアルな三国志って感じだ。


「オイ! 張飛! アニキは病気で長いこと寝てたんだ。酒くせえ顔を近づけんじゃねえよ」

「関羽のアニキだって外回りで汗だくじゃないか。ドロだってついてる」


 なにやら二人で言い争ってる。急になんだよ。

 というか、やっぱ君たち張飛と関羽なんだね。


「劉備玄徳殿。目を覚まさないからヒヤヒヤしましたよ」


 などと思っていると、また別のヤツが来た。

 人のよさそうな福耳のオッサンだ。

 さっきの二人と比べればイカツくない。とはいってもマッチョであることは変わらない。

 張飛、関羽とくればこれはあれだな。

 コイツは劉備だな。


「君、名前は?」


 思わず聞いてみた。


「リュビと申します」


 福耳のオッサンはそう答えた。

 ん? リュビ? なんか響きに違和感が。


「劉備じゃないの?」

「なにをおっしゃいます。劉備はあなたです」


 なるほど。俺は劉備なのか。

 英雄やね。魏だか蜀だかの偉い人になるやつ。

 そうかー。俺がその英雄……そんなワケあるか!

 もう一回聞き直す。


「あなたが劉備さんですよね?」

「いいえ、わたしはリュビです。劉備玄徳はあなたです」

 

 メッチャ劉備っぽいやつが俺のことを劉備だと言っている。

 ウソつけ! 劉備は絶対お前だろ!!


「いえいえ、やっぱりあなたが劉備さんですよね?」

「違います。あなたが劉備玄徳その人なのです!」


 劉備っぽい人は頑なに自分を劉備と認めない。

 それどころか、俺を劉備だと言い張っている。


「リュビ兄。劉備兄は病気のせいであたまが混乱してるんだよ」

「そうでえ。しばらくすりゃあ、いつもの劉備兄に戻るさ」


 なにがなんでも俺を劉備にしたいらしい。

 三人が口をそろえて俺を劉備あつかいする。

 なにこれ? ドッキリ?


「大変です! 曹操軍が攻めてきます」


 今度は兵士っぽいのが飛び込んできた。

 曹操がどうとか、戦争がどうとか、ぶっそうなことを言っている。

 劉備たち三兄弟は神妙な顔をして相談しだした。

 やがて結論がでたのか――


「「「劉備どの! 敵が攻めてきます!! 戦闘の指揮を!!!」」」


 そう口をそろえて俺に言うのだ。

 え~、やっぱ俺が劉備なの~。



 こうして、ワケの分からないまま、戦争に駆り出され、ワケのわからないまま指揮をとり、これまたワケのわからないまま勝った。

 分からないことだらけだ。

 ただひとつ分かっているのは、これは現実ってことだ。

 メッチャ、血がブシュ―ってでてたから。

 それにメッチャ死んでた。ウンコちびるかと思った。


 それで今に至る。

 だめだ。原因なんてまるで分からない。

 なんでこうなっているか見当もつかない。


 しかも、兵士たちや民衆も俺のこと劉備って言うんだよ。

 曹操を撃退した英雄だとワッショワッショイ褒めたたえてくれる。

 やべ~、これどうすんだよ。


 ポケットに手を突っ込む。硬いものが手にあたる。スマホだ。

 ぼんやりと眺める。

 Wi-Fiがバッチリつながってる。


 あれ? もしかしてインターネットつながる?



――――――



 それからの俺は頑張った。

 インターネットを駆使し、敵の動きを予測。ワナを見破ったり先回りして叩いたり。

 農業や商業も発展させた。現代知識をいかんなく発揮させたのだ。

 やがて、中国全土は劉備玄徳のもと統一された。


「ゴホゴホ」


 咳が止まらない。どうやら俺は長くないらしい。

 皇帝として君臨して20年。それなりに幸せに暮らせたと思う。


「アニイ」


 張飛が泣く。

 あいかわらず酒飲みだけど、子供もつくって平和に暮らしている。


「玄徳アニキ……」


 関羽もいる。子供はいないが、元気に過ごしている。

 離反することなく、義兄弟として俺のために尽くしてくれた。


「劉備玄徳殿」


 問題はコイツだ。

 義兄弟として、俺の右腕として、身を粉にして働いてくれた。

 それでもやっぱり疑問は残る。


「リュビ……俺はもう長くない。お前が劉備なんだよな。教えてくれ。これが最後だ。ウソはつかないでくれ」


 震える声で、そう振り絞った。


「いいえ玄徳さま。天地神明に誓って、私は劉備ではありません。ただ、正直に申し上げますと、あなたが死んだら、わたしが劉備玄徳を名乗ろうと思っていました」


 そうか。そうなのか。

 なんだろうな。ここが昔の中国なのかはわからない。

 似た世界だったのかも。でも、俺は精一杯生きた。

 兄弟誰も死なせずにここまでやれた。

 それは誇っていいよな。


「ゴフッ」


 口から血がでた。だめだ。もう目が開かない。

 これが死か……。

 ここで意識がプッツリと途絶えた。


 ………………

 …………

 ……



 目が覚めた。

 天幕付きの白いベッドに寝ている。

 となりには大きな葉っぱで俺をあおいでいる美女。

 ここは天国だろうか?


 ドタドタと走ってくる音がした。

 昔の中国のエラい人が着ているような服、謎のアクセサリー、先のとがった木の靴。

 走ってきたのはメッチャデブのオッサンだ。

 あれ? なんかコイツ見たことあるような……。


「董卓どの。お目覚めですか! 反乱軍どもが迫っています」


 董卓っぽいやつが俺を董卓と呼ぶ。

 今度は董卓で統一しろって?

 もうエエっちゅーねん!!!

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いきなり三国志。目が覚めたらお前は劉備玄徳だと言われた。 ウツロ @jantar

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