ダンジョンでのサバイバル

 目を覚ますと、見知らぬ森の中にいた。どこまでも緑が続いて、先を見ようとすればするほど、吸い込まれそうな感覚になる。


 体を起き上がらせると、体に触れるぬめっとした感覚に晒された。


「ここは……」


 ぼんやりとした視界がはっきりしてきて、状況を上手く把握しきれたときに、この言葉が出た。


 そうだ。俺は、桃色ユアになんかされたんだっけ。それで、今全く知らない場所にいるのか。なんか、サバイバルとか言ってた気がするけど、どうすればいいんだよ……


 あの開けた綺麗な草原とは違って、この森はおどろおどろしい雰囲気で満たされている。ちょっと耳を澄ませてみると、コウモリのような鳴き声で羽ばたく生き物の音が聞こえる。


「ユア、一体どうしてこんなこと……」


 俺はしょんぼりした感じでこうつぶやいた。


 こんな、何の能力もないただの一般人が、あの化け物みたいなのがうじゃうじゃしてる場所で生きていけるわけないじゃん。


 泣きそうだ。



 けど、こうしていても仕方ないから、俺はとりあえず周りをもっと隅々まで見回してみることにした。木、木、木……。


 本当に木しかない。どこかから光が入ってきてないかとか、開けた道はないかと笠がしても、無駄。


「こんなの、サバイバルのしようがないじゃん。遭難してるのと一緒だよ」


 こう小さくつぶやいて俺は絶望していた。


 

 でも三周くらいぐるっと見回したとき、俺の眼には、一つの木の陰に、誰か人が立っているのが映った気がした。それでもう一回目を細めて凝視すると、間違えなく、人がいる!


 神様!


 この空間には誰か他の人もいるとわかると、俺は安心しきって、一目散にその人めがけて走っていった。


 コミュ障なんて関係ない。生きるために、俺は精一杯その人に声をかける。


「すいませーん! 俺、この森で迷ってしまったんですけど、帰り方とか分かりますか? 」


「……」無反応。声が小さかった? 


「……あ、あの……すみま……え!? 」


 この時、俺は思わず、何か化け物を見たときのようにその場に倒れ込んでしまった。いや、俺は背を向けたままの、この人の顔を見ようとちょっと動いただけだった。


 特別なことは何もしてない。


 だけど、この人が普通じゃなかった。



「う、う、うそだああああ! 」


 話しかけたその人は、立ったまま死んでいた。




 希望どころか、目の前で死んでいる人を見せつけられて、俺はもう何もできない気がした。ガタっと倒れ込み、そっとため息をつく。


 ――ダンジョンに入った者は、帰ることはできない――


 この言葉通りだ。


 配信者として有名になるためとか言って、こんな無謀な挑戦をしたのが馬鹿だったんだ。



 俺は近くに落ちていた木の枝を持って、八つ当たりみたいに投げた。するとどこか別の木に当たって、また地面に落ちる。


「……なんで、ユアは帰してくれなかったんだろう。やっぱりどこかで、俺を殺したいとか、思ってたのかな。そもそもあいつ、人間じゃないらしいし、もう、わけわかんない」


 今度は石を投げて、俺は下を向く。


 すると地面にどんどん水がこぼれていって、雨でも降ってんのかと思ったら、自分から出ていることが分かった。



「泣いてるの? 」


「……うん。俺、今から死ぬらしいんだ。十六歳で」


「そう……生きたいの? 」


「そりゃ生きたいけど……どうすりゃいいのかわかんないんだよ」


「ふーん。なら、手伝ってあげようか? 」


「手伝ってって、何を……は? 」


 なんか適当に答えてたけど、俺、今誰と喋ってんの?


 ただ、なんとなく声が聞こえたような気がする方を見てみると、別に誰かいるわけでもない。でも、声はする。しかも、妙に聞き覚えのある声。


「ねえ、どこ向いてるの? こっちだよ? 」


「どこ、あっ、いた! って、え? 」

 

 俺は声の主を見たとき、言葉を失ってしまった。声の主は人間ではなく、結構小さい妖精みたいで、ひらひらと飛んでいた。


 その顔は見覚えのあるとかそんなレベルじゃない。


 ユア……?


「お持たせ! 天音! 私があなたのサバイバルをサポートするよ! 」


 


 


 


 


 




 



  


 


 


 


 


 

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