お姫様と隠れ家と
「お前ら、まさかあの化け物どもじゃないよな? 」
剣を持った男子が急に俺たちを疑いの目で見てくる。いやいやいや、誤解だって。むしろ、というか俺は化け物に殺されそうになった側だし。
「……隣で飛んでるやつ、なんだ? 」
「え!? 」
その言葉を聞いた途端、俺はドキッとして自分の真横を見た。そこではなんとユアが呑気に鼻歌歌いながら飛び回っている。
普通、こういう時は空気を読んで隠れたりしてくれるものだと思うけど、彼女は違ったらしい。
「ちょ! 」
「ら~ら~ら~! ん? どしたの? 天音! 」
どうしたのじゃない。剣を持った男子は特に体が小さい彼女を見て不信感をどんどん積み上げている。というか、もうだんだん戦闘態勢に入ってるみたいに、目も殺意を感じる。
「あ、あの~ほんとにこれはちがっ! 」
ドーン!!!
突然、彼は容赦なく剣を突き立てて俺たちの方に突撃してきた! 目にも止まらな速さで向かってきたから死んだと思ったけど、なんとか避けれた。
ユアを心配してみてみると、彼女は余裕の表情して空を飛んでいる。
あ、今命の危険にさらされてるの俺だけか。
「おりゃあああ! 」
とひとまず落ち着くための状況把握をする暇も与えてくれずに、彼はまた切りかかってくる。上から、横から、後ろから。
けどまぐれか、なんなのか、どうにか全部避けることができた。今のところ無傷。奇跡だ。
「くそ、ちょこまかと」
剣を持った男子はいらいらした感じでこういうセリフを吐く。
というかそうこうしているうちに、ユアの方はもう退屈した様子で近くの木の枝の上であくびをしながら俺たちの事を観察していた。
「あいつ……」
「ん? ああ、天音! もう魔法使えるよ! 」
そして俺と目が合ったとたん、彼女は思い出したように大声でこんなことを言ってきた。ちょっと今はそんな冗談にかまっている暇ないのですけど……
「念じて、魔法使えるんだって! そうしたら戦える! 」
「な、なにをいってるんだって、わあ! 」
話している最中にも剣を持った男子は凄い形相で襲ってくる。俺は何とかそれをよけ続けると、彼女がまた意味不明なことを言ってきた。
「ね! よけられてるじゃん! 身体の能力上がってる! 」
「は? 」
「私はね、ダンジョンの最深部にあなたを送ったとき、同時に能力も与えたんだよ! 」
剣をとにかく振り回して殺しに来る彼の攻撃をかわしながら、俺はユアのトンデモ話に耳を傾ける。能力? なんの? 身体能力が上がってる? そんな感じしないんですけど。
「お前、ずいぶんと余裕そうだな! 」
ズバーン!!
この攻撃も俺はすらりと避けたけど、これは能力というか、ただ単に相手が剣の扱い方が相当下手なのと、偶然が重なりあってるだけだと思う。
「う、うわ! 」
ドス!
と、いろいろ考えながら動いていたら、足元にあった石につまずいて転んでしまった。俺はその場に倒れ込み、しかもその瞬間ちょっとくじいたような感覚があった。
ほら! いつもと変わらないじゃん!
「はあ、はあ、観念しな」
そのすきを逃すまいと、剣を持った男子はすぐに寄ってきて、俺を見下ろしてきた。彼が剣を振りかぶって、多分、このまま振り下ろせば俺は真っ二つになる。
嫌だ、死ぬ……
「終わりだああああああ! 」
「嫌だあああああ! 」
バス―ン!!!
「何!!! 」
俺が目をつむって叫んだとたん、突然、信じられないくらいまぶしい光が俺たちを包んで、何故か彼の方の悲鳴が聞こえた。それもなんか物凄い勢いで吹き飛ばされたような音もした。
「……」
ゆっくりと俺は顔を上げて、今何が起こったのかを把握する。まず目の前に見えるのは、結構遠くの方で傷を負って倒れているさっきの男子。そして、相変わらず木の枝の上で呑気に観察してるユア。
「なにが」
戸惑った声でこうつぶやくと、ユアが嬉しそうに接近してきて「それだよ! 」と言ってきた。
「魔法、使えたじゃん! しかも、結構強力な魔法だよ? 」
「は? 」
俺は意味が分からなくなって、一旦自分の手のひらを見つめる。
けど、そこには普段と何の違いもない、ただの人間の手があるだけだった。
「て、てめええ」
そうしているうちに、早くもまたあの男子が起き上がって、俺をにらみつけてきた。どんだけ生命力強いの?
というか、ユアがめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。
「もう、しつこいな! もういい加減怒るよ! 」
そういうと、彼女の頭から二本の角がひょこっと姿を現した。え? そういう仕様?
でも、そんなにかわいいものでもなく、この後すぐに、その小さな手から、彼女の体よりも数倍大きい、下手すれば俺の体よりも大きいハンマー? みたいなのが出てきた。
「お、し、お、き、でーす! 」
すると彼女は、あの男子めがけてそのハンマーを容赦なく振り下ろした。
ガーン!
鐘かなんか鳴らしたような音が響く。俺は思わずその瞬間は目をつむってしまったけど、確実に痛かった。
予想通り、目を開くと、あの男子は目をくるくるさせながら「あ~」とか言って倒れ込んでいた。
「あの、これって」
「大丈夫。殺してないから」
「……もう、おやめください」
そうだよね、こんなこと止めた方がいいよねって、え? 今の声だれ? っと思ったら、知らない大人の女性が、悲しそうな顔で立っていた。
「あ、あの、どなた? 」
「なに? 戦う? 」
「ちょ! ユア! 」
「……レンが申し訳ないことをしました。わたくしから謝らせていただきます。ですから、もう、争いごとは、やめましょう。同じ人間同士なら」
その人はえらい落ち着いた感じで、このいざこざを止めた。
ユアも好戦的な態度はとらなくなって、ちょっと退屈そうに俺の周りを飛び回る。
「……それに、子供たちの前で、私たちが傷つけあう姿を見せたくないのです」
「え? 」
彼女が最初何言っているのかよくわからなかったけど、少し、彼女の後ろに目をやってみると、その意味がすぐに分かった。
彼女の背後には、何人もの小さな子供が、ボロボロの衣装で立っていた。
冴えない陰キャだけど勇者としての才能だけはある俺は、ドSで学園一の美少女である幼馴染にもてあそばれるらしいです トドキ @todoki
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